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マイクロリアクター(ミクロの化学反応装置)は分析化学の分野で開発され発展してきたが、近年は合成化学の分野でも注目されている。ミクロの空間における反応は、容積あたりの表面積が大きいことから温度コントロールが容易、多相系反応では相と相との接触面積が大きいため界面での反応効率が高い、などの利点を持つ。例えば、幅が数十から数百マイクロメートルの流路(マイクロチャンネル)を持つマイクロリアクター(マイクロチャンネルリアクター)の比表面積(表面積/容積)は、通常の反応容器のそれに比べて数十~数百倍に達する。
また、化学産業的には、スケールアップの為の条件設定や自動化が容易、反応の収率や選択性が高い、省資源・省エネルギー型のプロセスである、有害物質や危険物質を用いる際の安全性が高い、と考えられている。
さらに、水素化反応は、金属触媒(固相)-反応溶液(液相)-水素ガス(気相)からなる三相系反応である上、危険な水素ガスを使用し工業的にも広く用いられていることから、従来型のバルクプロセスからマイクロリアクタープロセスへの転換が期待されている。
一方、三相系反応をマイクロチャンネルリアクターに適用するためには、触媒の固定化が必要である。しかしながら、触媒を固定化すると一般的に反応性は低下する。また、これまでガラス表面への金属触媒の固定化が困難であり、しばしば触媒がリアクターから剥離し反応液に漏出した。さらに、気相-液相の二相系反応においては相同士が大きな塊状に分離した場合に、広い接触面積を保てない、などの問題も残されていた。
既に本プロジェクトでは、有機相(液相)-水相(液相)による二相系のアルキル化反応が、マイクロチャンネルリアクターを用いた連続フローシステム(注3)ではフラスコ内の反応に比べて加速されることを見出していた。また、金属触媒をナノサイズの微粒子としてポリマー中に分散固定化する技術(マイクロカプセル化法)を開発し、様々な触媒反応への有効性を実証してきた。
本研究では、ガラスチップ上の半円筒形マイクロチャンネルの壁面にマイクロカプセル化パラジウム触媒(固相)を固定化する技術を開発し、さらにそのチャンネル内を反応溶液(液相)と水素ガス(気相)が広い接触面積を保ちつつ流れるパイプフロー(注4)を実現することにより、三相系水素化反応を極めて効率的に進行させることに成功した。 |
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1.マイクロチャンネルリアクターの作成 |
本研究に用いたパラジウム固定化マイクロチャンネルリアクターは、市販のガラス製マイクロチャンネルの内壁に化学的にアミノ基を導入後、マイクロカプセル化パラジウム触媒を結合することにより作成した(下図参照)。 |
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2.三相系水素化反応 |
本手法を用いたマイクロチップ上での三相系水素化反応を下図に示す。 |
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本反応システムを用いることにより、通常のバッチ法では数十分~数時間を要する水素化反応の反応時間が2分間以内に短縮され、目的化合物の収率はほぼ定量的に進行した。また、反応の進行を連続的にモニターすることで、未反応物や副生成物の混入を防ぐことも容易である。さらに、ほとんどの場合に反応溶液への金属触媒の漏出は認められず、反応溶媒を留去するだけで高純度の目的物を得ることができた。 |
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3.今後の展開 |
本技術は、水素化反応以外に酸化反応などの多相系反応にも適用できる可能性が高く、現在検討を進めている。
通常、実験室の結果を工業的なレベルにスケールアップする際は、反応条件の再検討が必要であるが、マイクロリアクターの場合は反応条件を変えずにチップを積層化するだけであり、工業化へのハードルは低い。
巨大な反応容器に代わり、多数のマイクロチップが並ぶ化学プラントが出現する日も近い。 |
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[論文名] |
A Microfluidic Device for Conducting Gas-Liquid-Solid Hydrogenation Reactions
(気相-液相-固相での水素化反応を制御するミクロ流体装置)
doi :10.1126/science.1096956 |
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[研究主題] |
戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究「小林高機能性反応場プロジェクト
(研究期間 2003年11月~2008年10月) |
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<本件問い合わせ先> |
| 森 雄一朗(もり ゆういちろう)
独立行政法人 科学技術振興機構
小林高機能性反応場プロジェクト グループリーダー
〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1
東京大学大学院薬学系研究科有機反応化学教室
TEL: 03-5841-4746 FAX: 03-5684-0634
古賀 明嗣(こが あきつぐ)
独立行政法人 科学技術振興機構
戦略的創造事業本部 特別プロジェクト推進室
TEL:048-226-5623 FAX:048-226-5703
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