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科学技術振興機構報 第704号

平成22年1月14日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報ポータル部)
URL http://www.jst.go.jp

戦略的創造研究推進事業・研究加速課題
「光機能性プローブによるin vivo微小がん検出プロジェクト」の実施について

JST(理事長 北澤 宏一)の戦略的創造研究推進事業では、通常の研究推進事業において、イノベーション創出の観点から特定の研究成果が得られたものについては、その成果を研究加速課題として緊急かつ機動的に強化、加速及び展開するための研究推進を行っています。

この度、研究加速課題として、がんの新たな診断法の基盤となる技術開発に取り組む「光機能性プローブによるin vivo微小がん検出プロジェクト」(研究代表者:浦野 泰照 東京大学 大学院医学系研究科 教授)を選定し、この研究の加速を推進することとしました。

1.研究代表者:

浦野 泰照(東京大学 大学院医学系研究科 教授)

2.研究期間:

平成22年1月〜平成26年12月(5年間)(予定)

3.研究予算:

総額5億円(予定)

4.本研究課題の目的と内容

(1) 近年、PETやMRIなどの手法を活用した全身スキャンによるがん診断が広まりつつあります。これらの手法によって検出できるがん組織のサイズはcmオーダーでありますが、がんの内視鏡検査・手術、開腹などの外科手術時においては、mmオーダーかそれ以下の小さながん組織を明確に検出する必要があります。従来、このオーダーのがん組織の検出を実現する確実な手法はなく、新しい技術の開発が待ち望まれていました。

(2) 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)で浦野教授らは、米国国立衛生研究所の小林 久隆 主任研究員らと協同して、がん細胞に取り込まれたことを検知して初めて光り出す小さな有機プローブ分子を開発しました。これをがん細胞に特異的に取り込まれる抗体に乗せて、がん細胞のみを光らせ、これを検出する技術を開発しました(図1図2参照)。実際、微小がんを移植したモデルマウスへ本技術を適用し、蛍光内視鏡を使って体内に存在する状態でリアルタイムに微小がんを検出し、鉗子で除去するという擬似手術に成功しました。開発した有機プローブ分子はがん細胞の存在だけでなく、死滅の状況を見分けることも可能なため、治療効果をリアルタイムで確認しながら、手術後の追跡・観察を行うことも初めて可能になりました。

(3) さらにごく最近、戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)で確立することに成功した蛍光プローブの論理的設計法に基づいて、新規ペプチダーゼ、グリコシダーゼ蛍光プローブ群の開発にも成功し、これを用いた網羅的な解析から、がん細胞に特徴的な酵素活性に基づくがんイメージングにも成功しました。本技術は、蛍光内視鏡下で患部にプローブを噴霧することで、数分以内にがん部位を高感度に検出することを可能とするもので、外科手術時、内視鏡検査・処置時に威力を発揮することが期待されます。

(4) 本研究プロジェクトでは、上記のモデルマウスでの成果・実績を元に、開発した有機プローブ分子をヒトのがん診断に臨床応用するための基礎データ(前臨床データ)を収集するとともに、新たな有機プローブ分子の開発を行う研究を加速します。

(5) 具体的には、拠点となる病院との連携により、ヒトのがん組織を用いて、有機プローブ分子が検出できるがんの種類および進行度を明確にします。また、実験動物を用いて有機プローブ分子の安全性を確認します。次に、有機プローブ分子の輝度を向上させる研究や、有機プローブ分子の発光を検出する機器の性能向上を目指した機器開発を行います。さらに、内視鏡の性能を向上させ、ヒトにおいてもリアルタイムでmmオーダーの微小がんを検出して鉗子での除去を可能にするとともに、手術後のがんの再発の検出手段としての確立も目指します。

(6) 上記目的の達成のため、本研究プロジェクトでは3つのグループを設けて、研究を推進します。

(1) 有機プローブ分子開発グループ(東京大学)
プロジェクト全体の統括を行うとともに、米国国立衛生研究所の小林 久隆 主任研究員らと協同して、新規の有機プローブ分子の開発・機能向上を行います。また、実験動物を用いて有機プローブ分子の安全性を確かめます。
(2) 病理解析グループ(東京大学医学部附属病院、その他選定中)
ヒトのがん組織を用いて有機プローブ分子に関する基礎データを収集します。
(3) 機器開発グループ(オリンパス株式会社)
有機プローブ分子の発光を検出する機器の性能向上および内視鏡の性能向上を目指した機器開発を行います。

(7)本研究プロジェクトにより、有機プローブ分子のヒトのがん検出に対する有効性および生体に対する安全性が確認されれば、がんの早期診断への道が開かれます。また、術者が外科手術の際に的確に除去すべき微小ながん部位を把握しつつ、手術を継続でき、さらに手術後のがん再発の経過視察によって治療効果を確認するなど、今後のがん診断に画期的な進展をもたらすものと期待されます。特に近年発展の著しい内視鏡技術と組み合わせることで、消化管や腹腔などからアクセスできる臓器がんの診断・外科手術をほぼすべてカバーできるため、本技術を活用することで、患者に対する負荷を最小限にとどめ、最大限の効率でがん治療を実現することが期待されます。

5.選定経緯

学術的および社会的インパクトが世界的に大きいこと、類似研究に対する優位性が高いこと、などを基準に、戦略的創造研究推進事業によって創出された研究成果の中から研究加速課題候補となり得るものを検討しました。

浦野教授より提出された研究提案書に基づき、平成21年11月10日(火)に事前評価委員会を開催した結果(別紙1参照)、本研究は社会的要請が極めて高く、「当該研究を加速強化する必要がある」と評価されました(別紙2参照)。

これを受け、平成21年11月にJST研究主監会議にて本課題を研究加速課題とすることが承認され、平成21年12月にJST内で本研究プロジェクトを研究加速課題として実施することを決定しました。

<添付資料>

別紙1:「光機能性プローブによるin vivo微小がん検出プロジェクト」(研究代表者 浦野 泰照) 事前評価委員会メンバーおよび評価項目

別紙2:「光機能性プローブによるin vivo微小がん検出プロジェクト」総合評価結果

<参考図>

図1

図1 がん細胞表面抗原に対する特異的抗体を活用した高選択的in vivoがん細胞イメージングの実現

抗体が、がん細胞表面受容体に結合するとエンドサイトーシス経路により取り込まれ、リソソームへと運搬されることを活用し、リソソーム内に取り込まれて初めて蛍光を発する蛍光プローブを抗体に乗せ、高選択的がんイメージングの実現を図った。

図2

図2 論理的設計法に基づく、弱酸性環境検出蛍光プローブ群の開発

リソソーム内の特徴的な環境である弱酸性pHを利用して、がん細胞の高選択的イメージングを行うため、弱酸性環境で初めて蛍光を発する新規蛍光プローブ群を開発した。これらのプローブをがん特異的抗体にアミド結合により結合させ、目的とするプローブを作成した。

<お問い合わせ先>

内田 信裕(ウチダ ノブヒロ)
科学技術振興機構 イノベーション推進本部 研究推進部
〒102-0075 東京都千代田区三番町5 三番町ビル
Tel:03-3512-3526 Fax:03-3222-2065
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