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資料2

戦略的イノベーション創出推進事業 平成21年度 採択課題一覧

研究開発テーマ iPSを核とする細胞を用いた医療産業の構築

課題名 PM 開発リーダー
研究リーダー
iPS細胞由来ヒト肝幹細胞ライブラリーの構築によるファーマコセロミクス基盤技術開発   安達 弥永 積水メディカル株式会社
谷口 英樹 横浜市立大学
細胞移植による網膜機能再生   畠 賢一郎 株式会社 ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング
高橋 政代 財団法人 先端医療振興財団
創薬・毒性試験と再生医療のためのヒトES/iPS細胞由来眼組織をモデルとする高品質細胞調製・利用技術の遺伝子・細胞操作を駆使したシステム的開発および事業化 斎藤 幸一 住友化学株式会社
  末盛 博文 京都大学
網膜細胞移植医療に用いるヒトiPS細胞から移植細胞への分化誘導に係わる工程および品質管理技術の開発   阿部 浩久 株式会社 島津製作所
紀ノ岡 正博 大阪大学

※PM(プロジェクトマネージャー):課題の取りまとめ役

<プログラムオフィサー(PO)総評>

戦略的イノベーション創出推進事業の目的は、アカデミアのシーズを我が国の産業の発展へとシームレスに導くために、産学のチームを形成し戦略的なプランの下、それを実現することです。10年という長期にわたってプロジェクトの継続が約束されていることから、常にイノベーションを生み出しながら、もう一方で常に具体的な成果を市場へと提供していくことが要求される大変困難なプロジェクトです。しかも、再生医学というまだよちよち歩きの分野に飛び込んできた、磨く前から神々しい光を放つiPSを、臨床や産業の場へ運ぶために磨きなおすという作業は途方もなく困難です。実際、この分野のこれまでの研究は、臨床への可能性を語りながらも、結局基礎研究段階からなかなか抜け出すことが出来ませんでした。iPSというそれ自体の理解のためにまだまだ研究が必要な対象であることを考えると、それも仕方ないことと理解されていました。しかし、iPSは生命科学領野の専門用語を超えて、再生医学領域の象徴として、一般の方々の期待を集めています。むろんiPSに寄せる一般の期待は、その意義を最も理解しやすい細胞治療への応用です。従ってiPSの重要性を示すためには、iPSを利用する治療を誰もが受けられる医療として完成させることに明確なゴールを置いたプロジェクトが求められています。

以上のような認識の下、今回のプロジェクトでは国民・企業目線に立って何を科学者に望むかをリストし、困難であってもそれを可能にするためにチャレンジする参加者を求めることにしました。再生医療を受ける側の国民、またiPSを利用する企業が何を最も望んでいるかを調べたうえで、それをもう一度科学者目線へとまとめなおし、プログラムオフィサー(PO)がどのような研究を望んでいるかを明確に示しました。すなわち、iPS由来細胞を使った再生医療の企業主体の臨床治験の実現と(国民目線)、iPS由来細胞の大量培養技術の完成とそれを用いた毒性試験細胞パック(企業目線)の提供を実現すべき柱として明確に示し、そのためのプロジェクトを公募しました。

再生医療実現については困難も予想され、これほど要求の多いプロジェクトには応募がないのではと危惧しましたが、ふたを開けてみると再生医療へのチャレンジを提案しているプロジェクトが6題、iPS細胞の大量培養技術と毒性試験用細胞の提供にやはり6題、またこれらを側面からサポートするための技術開発プロジェクトに13題の応募がありました。

再生医学については、網膜細胞、心筋細胞、NKT細胞、軟骨細胞などをiPSから誘導して臨床研究を行うという提案がありました。それぞれ我が国のトップ研究者からの提案で、研究レベルでみると全て採択したいというのが正直な感想です。しかし、助成額が限られていることから、あれもこれもというわけにはいかず、一件に絞らざるを得ませんでした。POを除く評価者全員(POは規定で最終投票に加わらない)が高橋・畠の網膜細胞についてのプロジェクトを推しました。それぞれが世界レベルの提案の中から高橋・畠提案が選ばれた背景には、1)高橋が研究の傍ら臨床医として網膜色素変性症などの特殊外来を続けていること、2)臨床研究に至る基礎技術が完成していること、3)phaseⅠ/Ⅱから大規模治験まで対象疾患選択を含む詳細なプロトコルが示されていること、そして4)細胞の製品化に成功し、それを治療に提供してきた企業との共同提案であることが評価されたためといえます。

毒性などのスクリーニングを目的として大量細胞の培養・調整技術の開発についての応募は、基本的には肝細胞を誘導してスクリーニング用に提供するという提案が全てでした。実際には、ヒトiPS細胞自体の大量培養、肝細胞の誘導などはまだ研究段階であるため、どうしても研究に軸足を置いた提案が中心になっていました。この分野のトップの研究者の多くにプロジェクトを提案していただいたため、レベルは大変高い印象でした。結局、やはりほとんどの評価者が一致して谷口・安達の提案に投票しましたが、研究レベルの優劣というより事業化のための構想の説得力でこの差がついたといえます。実際、谷口・安達の提案では、iPSと胎児肝幹細胞を細胞のソースとして並行して利用することにより、最初から製品化と研究という矛盾する課題に回答を示した点で評価されたと考えます。

上記の2本柱に必要な技術や材料の開発についても今回応募を受け付けました。実際、多くの技術系のグループがこの分野に応募していただき、やはり評価者のほぼ全員が一致して紀ノ岡・阿部のプロジェクトを採択しました。技術系の研究者は実際にはiPS細胞の作製のような複雑な細胞培養過程についての経験がないため、どうしても自分の研究と技術の優位性を押し売りする傾向がありますが、紀ノ岡・阿部のプロジェクトはプロジェクトで必要とする技術についてしっかりとした構想を練り上げていた点が評価されました。特記すべきは、採択されなかったプロジェクトの中にも多くの技術が隠れていたことでした。たとえば紀ノ岡・阿部のプロジェクトでもまだまだ足りない点があるので、今後このような技術を持つ企業や研究者を積極的に組み入れていきたいと考えています。採択された紀ノ岡・阿部プロジェクトに限らず、実際に技術系提案には、機器開発に標準として使用する細胞などについての知識は乏しいように思えました。従って、次点ではありましたが、この部分を補う意味で、末盛・斎藤のプロジェクトも今回採択しました。このプロジェクトで特記すべきは、ヒトES細胞、iPS細胞に遺伝子ノックアウトやノックインを行う高効率の技術を完成させている点で、これらの細胞はプロジェクト全体が利用する標準細胞として大きな価値を生むと思われました。また、同じ技術を高橋・畠や谷口・安達のプロジェクトに利用することで研究の大幅なスピードアップが期待されます。

以上、S-イノベ各課題の中でも最も多い25題という応募が私たちのプロジェクトに寄せられました。これまで日本はともするとiPSというブレークスルーを達成しておりながら、その後の戦いで劣勢に立っているのではないか、という心配を吹き飛ばしてくれたことは今回の最も大きな収穫でした。論文になっていなくても、まだまだ地道な研究が続けられ、また多くの有用な技術が集積していることを本当に実感しました。その意味で、公募に応じていただいた全グループの皆様に感謝の意を表したいと思います。

平成22年1月7日 西川 伸一

研究開発テーマ有機材料を基礎とした新規エレクトロニクス技術の開発

課題名 PM 開発リーダー
研究リーダー
新しい高性能ポリマー半導体材料と印刷プロセスによるAM-TFTを基盤とするフレキシブルディスプレイの開発   小廣 健司 住友化学株式会社
瀧宮 和男 広島大学
フレキシブル浮遊電極をコア技術とする新太陽電池分野の創成   山口 能弘 新日鐵化学株式会社
早瀬 修二 九州工業大学
印刷で製造するフレキシブル有機EL照明の開発   中尾 吉秀 大日本印刷株式会社
城戸 淳二 山形大学
塗布型長寿命有機太陽電池の創出と実用化に向けた基盤技術開発   山岡 弘明 三菱化学株式会社
中村 栄一 東京大学

※PM(プロジェクトマネージャー):課題の取りまとめ役

<プログラムオフィサー(PO)総評>

本事業の研究開発テーマは、有機化合物を利用した光電変換技術および有機化合物中の電子制御技術を応用したデバイスなどの研究開発を対象としております。実用的な技術の創出を目標とした研究開発であるため、本研究開発テーマで対象とする課題については、基礎研究の段階が一定以上進んでいることを前提としました。また、事業化のために企業との共同研究開発である事を条件として公募しました。

その結果、19件の応募がありました。その内容は、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池、有機EL照明、ディスプレイ技術、次世代発光デバイス、有機トランジスター技術、膜形成・評価技術などでした。10年間プロジェクトにふさわしい斬新で魅力的な多くの提案を受け付けることができました。

研究提案募集締切後、書類選考会を開催し、19件の中から10件を面接選考課題として選考しました。選考にあたっては、1研究開発テーマの設定趣旨との整合性、2目標・計画の妥当性、3産学共同での研究開発体制の妥当性、4産業創出の礎となる技術の確立の可能性に関して慎重に審査しました。

面接選考会では、上記選考基準をもとにしながら、特に、目標の明確性、産学の共同研究体制のシナジー効果、研究予算の配分状況、他の競争的資金との関係などに注目しました。大変興味深く、独創的で高度なご提案が多い中で選考審査には大きな困難を伴いました。選考の結果、10件の提案のうち4件を採択、6件を不採択としました。

なお、不採択とした提案の中にも、研究としての着眼点のユニークさや、実現できた場合の効果に期待できるものがありました。そのような研究者も含め問題意識を共有する外部の方々と、公開ワークショップなどを通じて交流を深めていく所存です。

平成22年1月7日 谷口 彬雄

研究開発テーマ フォトニクスポリマーによる先進情報通信技術の開発

課題名 PM 開発リーダー
研究リーダー
高速応答性有機フォトリフラクティブポリマーの創製と先進情報通信技術の開発   守谷 徳久 大日本印刷株式会社
堤 直人 京都工芸繊維大学
高分子ナノ配向制御による新規デバイス技術の開発   豊岡 武裕 新日本石油株式会社
渡辺 順次 東京工業大学
テラバイト時代に向けたポリマーによる三次元ベクトル波メモリ技術の実用化研究   清水 健博 新日鐵化学株式会社
谷田貝 豊彦 宇都宮大学
ナノハイブリッド電気光学ポリマーを用いた光インターコネクトデバイス技術の提案   各務 学 株式会社 豊田中央研究所
杉原 興浩 東北大学
ポリマーナノ光ファイバーによる量子フォトニクス情報通信技術の開発   石原 信之 株式会社 石原産業
白田 耕蔵 電気通信大学

※PM(プロジェクトマネージャー):課題の取りまとめ役

<プログラムオフィサー(PO)総評>

大画面3次元ディスプレイとそれを支える安価で高度な双方向情報通信システムの構築は、これから我が国が目指す安心・安全かつ省エネ社会の実現に極めて重要です。このような技術ができると、祖父母と遠く離れた子供や孫と、現実感のある状態で対話が可能となり孤独感が緩和されます。日頃の健康情報のモニタリングから異常値を示した場合、直ちに医師が画面に現われてアドバイスするシステムによって安心感が増すでしょうし、臨場感のある会議システムによって出張数を少なくすることによる移動エネルギーの削減と、事務の効率化などが達成されます。このことは、最小の人やモノの移動で十分なコミュニケーションを行える高度コミュニケーション社会を実現することです。本研究開発では、現存の情報通信技術の限界を超えた革新的フォトニック情報通信技術を、さまざまな分子設計によりその特性を自在に制御することが可能なフォトニクスポリマーをベースにすることにより確立し、10年後には産業技術とすることを目的にしています。

このような趣旨で公募を行ったところ、11件の応募がありました。本研究開発テーマのプログラムオフィサーと9名のアドバイザーで書類選考を行いました。審査の観点は、1研究開発テーマの設定趣旨との整合性、2目標・計画の妥当性、3産学共同での研究開発体制の妥当性、4産業創出の礎となる技術の確立の可能性でありました。その結果、9件を面接選考課題としましたが選考過程で疑問があった点については面接時に回答するようにお願いしました。

面接後の選考会議では、ポリマーナノ光ファイバーにより常温で光子および光子対発生に関する研究開発、ナノハイブリッド電気光学ポリマーを用いた光インターコネクトデバイス技術の実用化に関する研究、高分子液晶の配向制御を行うことによる各種光学部品の開発や面発光レーザー素子の研究開発、2次の非線形光学効果と光伝導性を合わせ持ち、かつ高速応答性を有するフォトリフラクティブポリマーによる3次元ディスプレイ技術の研究開発、光の偏波面を利用する3次元メモリ技術の研究開発の5件の提案を採択しました。不採択課題にも多くの魅力的な提案がありました。しかし、目標が達成された時の社会的インパクト、大学と企業および企業間の役割分担、さらには資金配分計画などが明確なもの、他の助成との切り分けができているかどうかなどに関して改めて議論し、上記の5課題を採択しました。

平成22年1月7日 宮田 清藏

研究開発テーマ 超伝導システムによる先進エネルギー・エレクトロニクス産業の創出

課題名 PM 開発リーダー
研究リーダー
高温超伝導SQUIDを用いた先端バイオ・非破壊センシング技術の開発   神鳥 明彦  株式会社 日立製作所
圓福 敬二  九州大学
大出力超伝導回転機器に向けたキーハードの開発   柳本 俊之  川崎重工業株式会社
塚本 修巳  横浜国立大学
高温超伝導を用いた高機能・高効率・小型加速器システムへの挑戦 ―医療用加速器から実用化し、将来のエネルギー・環境分野への応用展開、ニュートロニクス/ミュオニクスといった新産業創出を見据えて―   吉行 健  株式会社 東芝
雨宮 尚之  京都大学
高温超伝導材料を利用した次世代NMR技術の開発 末松 浩人  日本電子株式会社
  木吉 司  独立行政法人 物質・材料研究機構
次世代鉄道システムを創る超伝導技術イノベーション 富田 優  財団法人 鉄道総合技術研究所
  北口 仁  独立行政法人 物質・材料研究機構

※PM(プロジェクトマネージャー):課題の取りまとめ役

<プログラムオフィサー(PO)総評>

本テーマは、超伝導の持つ低損失、高密度電流、高磁場、高速性、高感度などの特性に基づいた新しい機器、システムの生まれる可能性を考慮し、これまでのさまざまな研究開発プロジェクト成果を最大限活用するとともに、長期的視点のもとで実用機器・システムにつながる研究開発とあわせて超伝導応用の学術的・技術的基盤の着実な構築を目指すものです。アプリケーションとしては、エネルギー・環境、産業・輸送、医療・バイオ、センシング、情報・通信の各分野を含みます。具体的な例としては、直流電力ケーブル(再生可能エネルギーとの連系、都市内・ビル内・鉄道用、水素利用との連携など)、回転機(風力発電機、船舶用、自動車用や産業用モータなど)、磁気分離、加速器、MRIやNMRなどの高磁場応用、SQUID、エレクトロニクス回路、などの機器・システムおよびそれに必要な材料高度化を対象とします。

先進エネルギー・エレクトロニクス産業の創出に関する研究提案を広く募り、新しいコンセプトに基づいた超伝導応用のフロンティアを切りひらくものを期待しました。その結果、電力・エネルギーシステム、回転機、加速器、医療や先進分析機器、などテーマに相応しい多岐にわたる優れた応募がありました。

本テーマでは、関連の多様な分野の専門家であるアドバイザー8名に協力いただき、採択課題の選考を行いました。応募の15件を対象に、書類選考により面接選考対象として9件を選び、最終的に5件の採択に至りました。

その結果、採択された研究内容は、船舶用回転機に関する提案が1件、鉄道分野に関する提案が1件、加速器に関する提案が1件、NMRに関する提案が1件、SQUIDに関する提案が1件となりました。結果として、移動体分野、医療応用、センシングからエレクトロニクス分野までのバランスのとれた構成になったと考えております。

プロジェクト終了後の成果として、2050年超伝導社会の実現が見通せる高温超伝導応用システムの実用基盤技術の確立を目指し、応用基礎研究から産業の礎となる要素技術開発、アプリケーションの研究開発まで、着実な進展を得ていかなければならないと考えます。

平成22年1月7日 佐藤 謙一