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科学技術振興機構報 第690号

平成21年11月24日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報ポータル部)
URL http://www.jst.go.jp

環境に配慮した海藻による凝集沈殿剤の製造技術の開発に成功

JST(理事長 北澤 宏一)はこのほど、独創的シーズ展開事業・委託開発の開発課題「水産廃棄物を用いた凝集沈殿剤の製造技術」の開発結果を成功と認定しました。

独創的シーズ展開事業・委託開発では、大学や公的研究機関などの研究成果で、特に開発リスクの高いものについて企業に開発費を支出して開発を委託し、実用化を図っています(平成21年度以降の課題公募は、既存事業を再編し新規事業A−STEPにて実施します。詳細情報 http://www.jst.go.jp/a-step/)。

この開発課題は、東京海洋大学 海洋科学部 海洋環境学科 榎 牧子 助教の研究成果をもとに、平成19年3月から平成21年4月にかけて東洋建設株式会社(代表取締役社長 赤井 憲彦、本社住所 東京都江東区青海2丁目4番24号、資本金106億8346万円)に委託して、企業化開発(開発費 約1800万円)を進めていたものです。

現在、さまざまな工事などによる河川などの濁水対策には、主として化学系高分子凝集剤などが用いられています。しかし、放流排水のpH対策や重金属イオン含有の問題などから、周辺環境への影響の少ない凝集沈殿剤(水中を浮遊する濁りの原因物質を凝集させ、沈殿させる物質)が望まれています。

この新技術は、海藻の含有しているアルギン酸注1)を主成分とし、廃棄貝殻から得られる塩化カルシウムを凝集助剤注2)とする天然物由来の凝集沈殿剤の製造技術です。海藻に含有されるアルギン酸と塩化カルシウムの凝集助剤による化学結合をつくり、その結合間に濁水中の懸濁粒子を取り込み凝集沈殿させることを原理としています。今回の開発では、アカモクやコンブ、ワカメなどの褐藻類を原料として凝集沈殿剤を工業用アルギン酸に比べ簡易な処理工程で製造する技術を確立し、また、廃棄された貝殻に塩酸を反応させて精製した塩化カルシウムを凝集助剤として利用することを可能としました。

製造された凝集沈殿剤は、(1)市販のポリ塩化アルミニウム(PAC)注3)などに比べて凝集効果が高い、(2)沈殿後の上澄みのpHがほとんど変化しないため中和処理の必要がない、(3)生分解性であるため土壌に残留しない――などの利点があります。また、海藻すべてを利用するため二次廃棄物を発生させず、沈殿物は土壌として農業用に活用することが可能になります。

このため本新技術は、環境への負荷の小さい天然物由来の凝集沈殿剤として幅広い用途の拡大が期待できます。

本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景) 従来の高分子凝集沈殿剤に代わる安価で安全な凝集沈殿剤が望まれています。

従来から土木工事や浚渫工事で発生する濁水対策には、ポリ塩化アルミニウム(PAC)など安価な化学系の高分子凝集沈殿剤が用いられていますが、沈殿後の余水のpHが酸性になるため中和する必要があり、また、重金属イオンの含有による安全性への懸念などの問題があります。そのため化学系に代わる安価で安全な凝集沈殿剤が望まれています。一方、海藻や貝の産地の養殖地では、収穫後の不要な部位の廃棄が周辺環境への負荷となっており、海藻や貝殻の有効な処理や活用方法が課題となっています。

(内容) 市販の凝集沈殿剤と遜色のない効果をもつ天然系高分子凝集沈殿剤の製造が可能になりました。

本新技術は、廃棄海藻や、アカモクなどの必ずしも食用に供しない海藻からアルギン酸を主成分とする凝集沈殿剤と、廃棄貝殻に塩酸を反応させて精製する塩化カルシウムの凝集助剤からなる天然物由来の凝集沈殿剤の製造技術です。

水中でプラスイオンとなる塩化カルシウムの含有水を凝集助剤として添加すると、マイナスに帯電した高分子電解質のアルギン酸がイオン結合によって架橋体注4)をつくります。さらに、その中に濁水中の懸濁粒子が取り込まれフロック(塊)を生成し、凝集沈殿が起きます(図1)。

工業用アルギン酸の製法は抽出、分離、精製の工程からなりますが、本開発ではこれを、海藻すべてを利用しながら簡易な処理で実現し、低価格なアルギン酸含有の凝集沈殿剤の製造を可能にしました。また、製品の形態を乾燥粉末にすることによって、海藻の産地近くの生産工場から消費現場までの輸送や製品の保管がしやすく、さらに、品質の確保の点からも望ましい形態となり、製造コストの低減につながりました。

製造された凝集沈殿剤の評価結果では、濁度注5)10000ppmの濁水(カオリン混合液注6))に対して、凝集沈殿剤(50g/トン)、凝集助剤(250g/トン)の添加で、沈殿処理後の上澄み液の濁度30ppm以下という結果が得られています(図2図3)。また、凝集処理の前と後でのpHの変化がほとんどないことから、処理前の濁水が放流基準を満足していれば、中和処理無しで放流が可能となります。

(効果) 環境負荷の小さい天然由来の凝集沈殿剤として幅広い利用が期待されます。

本技術によって得られる凝集沈殿剤は、市販のポリ塩化アルミニウム(PAC)などの化学系と同程度の凝集効果を有しながら、

  1. 1濁水1m 当たりの処理コストは同程度であり、価格的にも期待できる
  2. 2処理後のpHがほとんど変わらないため、中和処理の必要がない
  3. 3天然由来であり、健康への影響が懸念される分野での応用が可能

などの特徴を有するため、土木工事や浚渫工事による河川の濁水処理はもとより、工場廃水の浄化や、上水処理への応用分野の拡大が期待されています。

<参考図>

図1

図1 アルギン酸の凝集メカニズム

アルギン酸はマンヌロン酸とグルロン酸が結合した線状のポリマーで、水中ではマイナスに帯電している。カルシウムなどの多価のプラスイオンを加えると、ポリマーの途中がイオン結合によってつながった物理ゲルを生じ、さらに濁水中の泥などの懸濁物質を抱え込みながら、浮遊物質を寄せ集めたフロック(塊)を形成し凝集する。

図2

図2 凝集沈殿の評価状況

図3

図3 原料と製品

<用語解説>

注1) アルギン酸
アルギン酸は、コンブ、ワカメなどの褐藻類などに特有の天然多糖類で、食物繊維の一種。マンヌロン酸とグルロン酸が結合した線状のポリマーで、水中ではマイナスに帯電し、マグネシウムやカルシウムイオンと安定な複合体をつくりゲル化する。
注2) 凝集助剤
主剤の凝集効果を高めるために補助的に添加するもので、アルギン酸の場合、塩化カルシウム溶液を添加補助剤として使用する。
注3) ポリ塩化アルミニウム(PAC)
水酸化アルミニウムと塩酸を原料として生産される[Al2(OH)nCl6-n]m で表される塩基性塩化アルミニウムの重合体で、上下水道、工業用水などの水処理用凝集剤として広く用いられている。
注4) 架橋体
モノマーがつながった線状のポリマーの途中を化学結合によってつなぎ合わせる反応を架橋といい、架橋体は架橋によって生じた化合物。架橋体の形成によって、柔らかく弾力性のある材料から剛性の高い材料へと物性が変化したりする。
注5) 濁度
水の濁りの度合いを表す単位。精製水1L中に標準物質(カオリンまたはホルマジン)1mgを含む場合と同程度の濁りを濁度1度(または1mg/L)と規定している(JIS K0101参照)。
注6) カオリン混合液
カオリンを精製水と混合したもので水の濁りの指標となる。カオリン(Al2Si2O5(OH)4)はカオリナイトなどの鉱物を総称する白色の耐火性の高い粘土で、主成分はシリカ(二酸化珪素SiO2)、アルミナ(Al2O3)、水(H2O)。

開発を終了した課題の評価

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