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科学技術振興機構報 第689号

平成21年11月24日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報ポータル部)
URL http://www.jst.go.jp

電子とホールを同時に流すグラファイトナノチューブの開発に成功

―新たな太陽電池材料として期待―

JST目的基礎研究事業の一環として、JST 戦略的創造研究推進事業 発展研究(ERATO-SORST)「分子プログラミングによる電子ナノ空間の創成と応用プロジェクト」の山本 洋平 研究員らは、炭素球状分子(フラーレン注1))層と炭素の平面状分子(分子グラフェン注2))層が広い接触面積で接合した、炭素ナノチューブ注3)の開発に成功しました。中空シリンダー状の同軸構造を持つこの炭素ナノチューブは、電子とホール注4)を同時に流す性質があり、その結果、明確な光起電力特性注5)を示すことを明らかにしました。

太陽電池の軽量化、低コスト化、大面積化を目的とし、有機薄膜太陽電池注6)の開発に向けて世界がしのぎを削っています。有機太陽電池が作動するには、「電子を流す層(電子輸送層)」と「ホールを流す層(ホール輸送層)」が広い接触面積でヘテロ接合注7)し、光吸収・電荷分離過程を通じて各層に電子とホールを供給するプロセスが必要です。

本プロジェクトは今回、グラファイトの部分構造を持った分子(分子グラフェン)とフラーレンが連結した分子を考案し、それがある溶媒中で自発的に集積化する現象を利用して、それぞれの部位が独立に分子層を形成しつつ、お互いに広い接触面積で接合したナノチューブの構築に成功しました。

電界効果トランジスター注8)測定より、このナノチューブは電子とホールを同時に流す性質があることが明らかになりました。さらに、1次元構造体の光電変換特性を計測するためのデバイスを開発し、このナノチューブの光電子機能を調べた結果、明確な光起電力特性を示すことを見いだしました。本研究成果は、分子集合体の精密な設計により、新しいタイプの太陽電池のような高効率光−電気変換デバイスの材料開発に向けての重要な知見を与えるものです。

本研究成果は、米国科学雑誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」のオンライン速報版で2009年11月23日(米国東部時間)の週に公開されます。

本成果は、以下の事業・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 発展研究(ERATO-SORST)

研究課題名 「分子プログラミングによる電子ナノ空間の創成と応用」
研究代表者 相田 卓三(東京大学 大学院工学系研究科 教授)
研究期間 平成17年10月〜平成22年9月

上記研究課題では、パイ電子系を中心とした機能分子の自己組織化を利用し、分子配列が空間特異的に制御された新規な電子・磁気・光機能性ソフトマテリアルを開拓することによる、次世代の機能性ナノ材料の創成を行なっています。

<研究の背景と経緯>

環境・エネルギー問題への関心が高まる中、クリーンで無尽蔵な太陽光エネルギーを、電気エネルギーへと変換する光電変換デバイスの開発に熱い視線が注がれています。特に最近は、軽量化、低コスト化、大面積化を目指し、有機物質からなる薄膜で太陽電池を実現すべく世界がしのぎを削っています。有機薄膜太陽電池で高効率な光電変換特性を得るには、電子を流す層(電子輸送層)とホールを流す層(ホール輸送層)を別々に形成し、なおかつ、それらを大きな接触面積で接合させることが必要です。今日広く用いられている方法は、ホール輸送を担う導電性高分子と電子輸送を担うフラーレン誘導体の混合物を電極基板上に上塗りする、いわゆるバルクヘテロ接合と呼ばれる方法です。しかし、この方法ではそれぞれの層の厚みや接合界面を精密に制御することは難しく、デバイスの特性は作製プロセスに大きく依存することになります。

<本研究の成果>

本プロジェクトは今回、理化学研究所 基幹研究所機能性ソフトマテリアル研究チームの福島 孝典 チームリーダー、大阪大学産業科学研究所の田川 精一 教授、物質・材料研究機構の怏z 一仁 博士、産業技術総合研究所 生物情報解析研究センターの石井 則行 博士と共同で、電子輸送層とホール輸送層が1分子層レベルで接合したナノチューブ構造体の作製に成功しました。

このナノチューブは、「ヘキサベンゾコロネン」という名前の、グラファイトの一部を切り出した平板状分子(略称HBC)と、フラーレン(C60)が連結した分子(略称HBC−C60図1)から構成されています。この分子をある溶媒に加熱して溶かした後、室温までゆっくり冷やすと、分子が自発的に集合し、中空のシリンダー状構造体を形成することが明らかになりました(図2)。このナノチューブは直径が22ナノメートル(ナノは10億分の1)、壁の厚さが4.5ナノメートル、長さ数百ナノメートルであり、壁内部に規則的に整列したヘキサベンゾコロネン分子層を、フラーレン分子層が内側と外側から挟み込んだ同軸構造を持っています(図2)。透過型電子顕微鏡からも、チューブの内外表面をC60分子層が覆っている様子が明瞭に観察されています。また、HBC−C60をC60を付与していないHBC誘導体と混合して自己組織化(コアセンブリー)を行ったところ、どの混合比においてもナノチューブが定量的に形成することを見いだしました。このことにより、ナノチューブ表面のC60密度を制御することができます。

電界効果トランジスターを作製してHBC−C60からなる同軸型ナノチューブの電荷輸送特性について調べたところ、ゲート電圧の加え方に応じて、p型、n型両方の特性を示すことが明らかになりました(図3)。すなわち、このナノチューブはホールも電子も同時に流すことができる、いわゆる両極性電荷輸送特性を有します。また、このナノチューブは、各分子層が非常に広い接触面積で接合していることから、光吸収に伴う高効率な電子とホールの分離状態の形成が期待できます。しかし、このような1次元構造体は基板表面に横たわるため、一般的に用いられるサンドイッチ型構造の光起電デバイスでは適切な測定を行うことができません。そこで、新たに横方向に電気を取り出すことができる光起電力デバイス(図4a)を開発し、このナノチューブに光を照射して電流−電圧特性を計測したところ、開放電圧0.46Vの光起電力特性を示すことを明らかにしました(図4b)。さらに、コアセンブリーにより表面のC60密度を制御したナノチューブについて、同様に電界効果トランジスターおよび光起電力測定を系統的に行った結果、電子とホールの移動度がちょうど釣り合ったところで最も大きな光起電力(0.5V)を発生することを明らかにしました。

<今後の展開>

バルクへテロ接合法により作製する有機半導体層と異なり、分子の自己組織化をうまく利用してナノ構造体中にp-n接合を形成する本アプローチには、以下のような2点の長所があります。

  1. (1) p層およびn層が分子レベルで非常に秩序よく整列しており、構造体内部において高いキャリア移動度を有します。
  2. (2) p-n接合界面が非常に整っていることから、光誘起電荷分離により生成する電荷がスムーズに流れます。一方で、このようなナノ構造体から、いかにして効率よく電流を取り出すかという問題も浮き彫りとなってきました。すなわち、デバイスとしてのアウトプット効率を高めるためには、ナノからマクロへの架け橋となる新たな技術の開発が極めて重要であるという点です。今後、このようなナノ構造体を電極間に配列させ、うまく電極とコンタクトさせる技術を開拓することができれば、より高い効率の光電変換素子の開発へと導くことが期待できます。

<参考図>

図1

図1 HBC−C60分子の分子構造

図2

図2 HBC−C60からなる同軸型ナノチューブの模式図と透過型電子顕微鏡写真

図3

図3 HBC−C60ナノチューブ薄膜の電界効果トランジスター特性

図4

図4 HBC−C60ナノチューブ薄膜の光起電力特性

  1. (a)横方向に電流を取り出すことができる光起電力デバイスの構造の模式図。
  2. (b)光照射下での電流-電圧特性。黒:暗電流、ピンク:光電流。

<用語解説>

注1) フラーレン
炭素原子でできた球状分子。電子輸送特性に優れている。C60、C70、C82などが広く知られている。
注2) 分子グラフェン
炭素原子が平面状に結合してできたシート(グラファイトの1枚面。グラフェンと呼ばれる)の一部を切り出してできる構造の分子。
注3) ナノチューブ
直径が数〜数十ナノメートル程度のチューブ状構造体の総称。炭素のみでできたカーボンナノチューブが有名。
注4) ホール
正孔。半導体において価電子帯から電子が抜けることにより生じるプラスに帯電した抜け穴で、p型半導体における電気伝導の担い手。
注5) 光起電力特性
光を照射すると起電力を生じる特性。太陽電池において必要とされる特性。
注6) 有機薄膜太陽電池
導電性高分子や色素などの有機半導体を積層もしくは混合してできる薄膜を用いた太陽電池。光起電力効果を利用し、光エネルギーを直接電力に変換するデバイス。
注7) ヘテロ接合
複数の異なる物質が接合したもの。
注8) 電界効果トランジスター
ソース、ドレイン、ゲートからなる3端子デバイスで、ゲート電圧を加えることによりソース・ドレイン間に電流を流すことができる電子素子。電流のスイッチや増幅に用いられる。

<論文名>

“Ambipolar-transporting coaxial nanotubes with a tailored molecular graphene-fullerene heterojunction”
(分子グラフェンとフラーレンのヘテロ接合による両極性電荷輸送同軸ナノチューブ)
doi: 10.1073/pnas.0905655106

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

相田 卓三(アイダ タクゾウ)
科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 発展研究(ERATO-SORST)
「分子プログラミングによる電子ナノ空間の創成と応用プロジェクト」 総括責任者
東京大学 大学院工学系研究科 教授
〒113-8656 東京都文京区本郷7−3−1
Tel:03-5841-7251 Fax:03-5841-7310
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<JSTの事業に関すること>

小林 正(コバヤシ タダシ)
科学技術振興機構 イノベーション推進本部 研究プロジェクト推進部
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