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科学技術振興機構報 第680号

平成21年10月19日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報ポータル部)
URL http://www.jst.go.jp

人間の眼球運動機能を持った3次元視覚センサーを開発するベンチャー企業設立
(JST大学発ベンチャー創出推進の研究開発成果を事業展開)

JST(理事長 北澤 宏一)は産学連携事業の一環として、大学・公的研究機関などの研究成果をもとにした起業のための研究開発を推進しています。

この度、平成19年度より東京工業大学に委託していた研究開発課題「人間の眼球運動・網膜情報処理の機能に基づく3次元視技術の開発と実用化」(開発代表者:張 暁林 東京工業大学 精密工学研究所 准教授、起業家:久保川 俊彦)において、人間の視覚原理に基づく3次元視覚センサーの開発に成功しました。また、この成果をもとに平成21年8月28日、メンバーらが出資して「Bi2-Vision(ビーアイツービジョン)株式会社」を設立しました。

この開発チームは、人間が2つの眼球を協調して動かす仕組みや、網膜の視覚情報を処理する仕組みを研究し、さまざまな眼球運動機能を統合的に実現できる制御システムを完成しました。さらに、このシステムをもとに両眼立体視覚認識の基本手法を開発しました。

この手法に基づいて開発した「アクティブ両眼視覚センサー」は、これまでのカメラ間位置が固定されているステレオカメラと異なり、1対象物との距離に応じて複数のカメラを同時に一点に向けて注視できる、21つの「眼球」の中に広角カメラと望遠カメラを設置し、広い視野を持ちながら、個々の「眼球」の向きを変えるだけで望遠カメラから見たい物体の高解像度画像を得ることができる、3個々のカメラの姿勢制御や画像データの較正により視線を安定することのできる振動補償注1)を実現、4視線の切り替えや自動追尾が容易――などの機能を持ちます。

今後、車載用センサーとしては、工場施設や福祉施設など、社会的に重要な施設内で使われる無人車両などへの搭載を目指します。監視用センサーとしては、まず、市販PTZカメラ注2)を用いて、広域遠距離の目標(人、車両など)の3次元空間位置計測、カメラネットワークの協調作業による多視点・全方位からの映像監視を実現します。「Bi2-Vision 株式会社」は、開発したアクティブ両眼視覚センサーを事業化後4年で売り上げ10億円以上を目指します。

今回の「Bi2-Vision 株式会社」設立により、プレベンチャー事業および大学発ベンチャー創出推進によって設立したベンチャー企業数は100社となりました。

今回の企業の設立は、以下の事業の研究開発成果によるものです。

独創的シーズ展開事業 大学発ベンチャー創出推進

研究開発課題 「人間の眼球運動・網膜情報処理の機能に基づく3次元視技術の開発と実用化」
開発代表者 張 暁林(東京工業大学 精密工学研究所 准教授)
起業家 久保川 俊彦
研究開発期間 平成19年度〜21年度

独創的シーズ展開事業 大学発ベンチャー創出推進では、大学・公的研究機関などの研究成果をもとにした起業および事業展開に必要な研究開発を推進することにより、イノベーションの原動力となるような強い成長力を有する大学発ベンチャーが創出され、これを通じて大学などの研究成果の社会・経済への還元を推進することを目的としています。

<開発の背景>

近年、カメラ間位置が固定されているステレオカメラの開発が大きく前進し、一般に市販され始めました。しかし、固定ステレオカメラはレンズのフォーカス調整ができないので、使用する範囲と精度に限界があるなどの短所があります。この限界を突破するためには、人間の眼球運動のようにカメラが回転できる両眼アクティブカメラが必要になりますが、人間の眼球運動の工学的な実現には、これまでのシステム制御工学では解釈できないいくつかの特性があります。例えば、両眼協調運動注3)機能の1つである輻輳(フクソウ)運動(寄り目)がほかの眼球運動と全く異なる運動特性を示すので、同じ制御システムでどのようにしてこの機能を実現するかは謎でした。本開発チームは眼球運動制御に関する脳幹神経システムのモデル化から着手し、両眼協調運動機能(両眼が互いに影響しながら運動する機能)、滑動性眼球運動(運動物体を視線で追従する運動)注4)機能、前庭動眼反射注5)機能(ブレを補正する機能)などを統合的に実現しました。この成果をもとに今回の研究開発では、眼球運動機能を統合的に実現できる視覚と制御システムをベースとした両眼立体視覚認識の基本手法の開発と、これに基づいた「アクティブ両眼視覚センサー」の製品化を目的としました。

<研究開発の内容>

アクティブ両眼視覚センサーは各カメラの運動制御のほかに、アクティブカメラのキャリブレーション(較正)、3次元画像空間の再構築など画像処理関連の難題を解決する必要があります。本研究開発では、まず1画像処理を専門とする研究者が簡単に利用できる両眼カメラ運動制御システムの開発から着手しました。また、2これまで開発した統合眼球運動モデルの改良を行い、衝動性眼球運動(注視する物体を切り替えるときの運動)注6)、並進前庭動眼反射、頸眼(ケイガン)反射注7)の実現およびその統合モデルへの融合を行いました。ロボットの眼で並進前庭動眼反射を実現したのは、本開発チームが世界で初めてです。それから3実用化を目的としたアクティブ両眼視覚センサーのカメラ制御システムのハードウェア化の開発を行い、眼球運動制御モデルを内蔵したモーター制御ボードを開発しました。同時に、4アクティブ両眼視覚センサーの原理を監視システムに応用するために、遠距離視標追跡システムの製作および複数カメラ間の位置同定アルゴリズムの開発を行いました。さらに、5アクティブ両眼運動制御システムに適応できる3次元画像空間認識のための画像処理アルゴリズムの開発も行いました。

<今後の事業展開>

中心となる製品は、アクティブ両眼視覚センサーですが、今後の事業展開は3つのフェーズに分けて展開します。

第1フェーズは、コア製品技術を普及させるために、大学、研究機関、企業研究所のロボットビジョン研究者らに対して、アクティブ両眼視覚センサーを提供していきます。

第2フェーズは、アクティブ両眼視覚センサーを用いた監視カメラシステムの分野に参入します。マーケットセグメントとしては、アクティブ両眼視覚センサーの機能が効く「広域遠距離監視カメラシステム」分野に参入します。

第3フェーズは、無人搬送車の誘導技術としてアクティブ両眼視覚センサーを供給する事業です。現在の無人搬送車の誘導技術方式は磁気誘導が主流であり、一部でレーザー方式が採用されていますが、本センサーがコスト面と運用の柔軟性、安全面で優れていることを啓発しつつ、この分野に参入していきます。

<参考図>

図

図 固定ステレオカメラと本技術との比較

<用語説明>

注1) 振動補償
ここでいう振動補償は、人間の前庭動眼反射に相当する。前庭動眼反射は人間の耳の中にある三半規管および耳石からの頭部運動信号により眼球を制御する眼球運動である。例えば頭部は右に回転する場合、眼球は自動的に左に回転することによって視線を安定させることができる。
注2) PTZカメラ
パン・チルト・ズームカメラの略称。すなわち、左右の回転(パン)と上下の回転(チルト)のできるズームカメラのことを指す。
注3) 両眼協調運動
両眼が同じ方向で運動する眼球運動を共同性眼球運動と呼び、視覚対象(以後「視標」と呼ぶ)が近づいたり遠ざかったりする場合は、両眼が反対方向に動くので非共同性眼球運動と呼ぶ。非共同性眼球運動は寄せ運動とも呼び、輻輳および開散運動に分類する。共同性眼球運動と非共同性眼球運動は常に同時に行われ、共同性眼球運動は「俊敏」で、非共同性眼球運動は「鈍い」という特性があり、この特性により立体視するための独特な両眼の協調関係が生まれる。
注4) 滑動性眼球運動
スムースパシュートとも言う。移動している視標を眼で追うときの運動であり、視線を注視している視標に固定するための運動である。
注5) 前庭動眼反射
頭部が運動するときに耳の中にある前庭器(半規管・耳石など)から頭部の運動を検出して、その信号を用いて眼球運動を制御する。具体的には、頭部の回転または移動の方向と反対の方向に眼球が回転することによって、眼球から見た映像を安定させることができる。この原理をロボットの眼(カメラ)の制御に応用するとロボットが動くときの振動により生じた画像のブレを軽減・抑制することができ、安定した画像を撮影することができる。
前庭動眼反射は回転前庭動眼反射と並進前庭動眼反射に分類することができる。回転前庭動眼反射は頭部の回転運動を補償する眼球運動であり、主に頭部の回転運動を計測する半規管からの信号により制御される眼球運動である。並進前庭動眼反射は頭部の移動、すなわち回転ではない運動(並進運動と呼ぶ)を補償する眼球運動である。頭部の並進運動は主に耳石により計測され、その運動信号を用いて眼球の回転運動を制御する。例えば、頭部が左に移動するときに眼球が右に回転すれば映像のブレは軽減する。しかし、頭部の移動を眼球の回転で補正する場合、見ているもの(視標)の距離に影響されるので、視標の距離を測定する両眼の回転角と視覚情報が必要になる。
注6) 衝動性眼球運動
サッカードとも言う。注視点を変更するときに起こる運動であり、非常に高速(最高速度700度/秒)である。視標を切り替えるときの注視点から注視点への運動であり、いったん運動を開始すると終点に到着するまで止まることができないので、運動中の視覚認識処理は行っていないと考えられる。
注7) 頚眼反射
頚の筋肉の伸張受容器からの信号により生じる眼球運動で、頚の回転の反対方向に眼球が運動する特性を持つ。この眼球運動はロボットの頭部が視標に向けて運動するときの眼球運動制御に重要である。

参考:<企業概要、製品例・実施例>

<本件お問い合わせ先>

Bi2-Vision 株式会社
〒146-0092 東京都大田区下丸子町4丁目21番16−504号
〔連絡先〕
張 暁林(チョウ ギョウリン)
Tel:045-924-5083 Fax:045-924-5069
E-mail:

独立行政法人 科学技術振興機構 イノベーション推進本部 戦略的イノベーション推進部
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
加藤 豪(カトウ ゴウ)、風間 成介(カザマ シゲユキ)
Tel:03-5214-0016 Fax:03-5214-0017