JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第676号 > 資料2
資料2

研究領域の概要及び研究総括の略歴

戦略的創造研究推進事業 (ERATO型研究)
平成21年度発足

中嶋ナノクラスター集積制御プロジェクト

中嶋 敦 氏
【研究総括】中嶋 敦 氏
(慶應義塾大学 理工学部 教授)
研究領域「ナノクラスター集積制御」の概要
 ナノクラスターとは、数個から数百個の原子・分子が集合した、数ナノメーターサイズの大きさの超微粒子のことです。原子・分子より大きく、バルクよりも小さいナノクラスターは、そのどちらとも異なる特異的な性質や機能を有することから、触媒、電子デバイス、磁気デバイスなどへの応用が期待されています。ナノクラスターは、構成原子数(サイズ)により諸特性が劇的に変化するという特徴のために突出した高い機能性を有していますが、逆にこのことが機能の解明・把握を困難としている要因ともなっています。また、精密に構造制御した合成方法、単離方法やデバイス作製のための集積方法が未開発であるため、フラーレンなど一部を除いて実用化されておらず、電子デバイスなどの基盤材料としての具体性も示されていません。
 本研究領域は、金属内包シリコンケージ体および有機金属サンドイッチクラスターをモデル材料として、ナノクラスターの合成・機能解析を行うとともにナノクラスターを配列集積させて太陽電池などのデバイスを作製し、これら実証データを足がかりとしてナノクラスター物質科学の基礎を確立するものです。
 ナノクラスターの応用可能性の探索にあたっては、ナノクラスターの単体およびデバイスの機能実証が必要であり、精密な構造制御および集積化制御がそのためのボトルネックであると考えられます。このため、クラスター化学の知見を利用したナノクラスターの精密大量合成と同一環境下での配列集積、原子レベルでの物性計測・機能解析および集積物質を利用したデバイス(太陽電池および光磁気デバイス)の創成を行い、これらの課題解決に取り組みます。これまでの研究により、金属内包シリコンケージ体および有機金属サンドイッチクラスターは大量合成が可能であるとともに、新規な光学応答と磁気応答を持つことが確認されており、モデル材料として十分なポテンシャルがあると考えられます。さらに、これらの研究を通じ、ナノクラスターを基盤材料とした新たなナノデバイス創成の道筋を提示することを目指します。
 本研究領域は、ナノクラスターをモデル材料としてクラスター化学とナノデバイスを融合し、効率的なエネルギー変換を行う新奇なデバイスの創成を目指すもので、戦略目標「異分野融合による自然光エネルギー変換材料及び利用基盤技術の創出」に役立つものと期待されます。

研究総括 中嶋 敦 氏の略歴など
1.氏名(現職)
中嶋 敦(なかじま あつし) 
(慶應義塾大学 理工学部 教授) 49歳
2.略歴
平成元年 東京大学 大学院理学系研究科博士課程 修了(理学博士号取得)
平成元年~平成6年 慶應義塾大学 理工学部 化学科 助手
平成6年~平成9年慶應義塾大学 理工学部 化学科 専任講師
平成9年~平成12年慶應義塾大学 理工学部 化学科 助教授
平成11年~平成15年日本学術振興会 未来開拓事業 「光科学」研究代表者
平成13年~慶應義塾大学 理工学部 化学科 教授
平成14年~平成19年科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(CREST)研究代表者
平成18年東北大学 客員教授
3.研究分野
クラスター科学、ナノ物理科学、レーザー科学、ナノ表面科学
4.学会活動など
平成16年~平成18年分子科学研究会 第17期委員長
平成16年~平成22年ナノ学会 理事
平成18年~平成22年日本化学会 物理化学ディビジョン副査
平成18年~平成20年分子科学会 副会長、幹事
平成20年~平成22年分子科学会 会長

国際学会などの組織委員
平成17年~Symposium on Size Selected Clusters (S3C) 国際組織委員
5.業績
 独自に開発した実験手法を用いて、新奇な多成分複合ナノクラスターを数多く創成してきた。その対象は金属・半導体の原子集合体から有機分子、生体分子と幅広く、従来の物質科学や生命科学の枠組みにとらわれない新しいクラスター科学を展開している。(J. Am. Chem. Soc., 127(14), 4998-4999 (2005))
 複合クラスターを用いたナノスケール物質群の創成とその電子物性の解明を行い、その電子物性、幾何構造および安定性の研究から、世界で類を見ない有機金属磁性クラスター、超原子クラスター、巨大ソフトナノクラスターといったナノスケール物質群の構築を進め、種々の新しい物性を発見している。さらに、ナノクラスターのソフトランディング法を開発し、新奇なナノスケール物質群の特異性を活かした表面デザイン法を確立して、高度な電子分光手法の開拓と併せて表面科学の新展開を推進している。
6.受賞など
平成6年日本化学会進歩賞
平成9年分子科学研究奨励森野基金研究奨励賞
平成20年日本化学会学術賞