JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第670号資料2 > 研究領域:「次世代エレクトロニクスデバイスの創出に資する革新材料・プロセス研究」
資料2

平成21年度 戦略的創造研究推進事業(CREST)
新規採択研究代表者および研究課題概要

戦略目標:「新原理・新機能・新構造デバイス実現のための材料開拓とナノプロセス開発」
研究領域:「次世代エレクトロニクスデバイスの創出に資する革新材料・プロセス研究」
研究総括:渡辺 久恒((株)半導体先端テクノロジーズ 代表取締役社長)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
大毛利 健治 早稲田大学 ナノ理工学研究機構 准教授 ナノデバイスのピコ秒物理の解析による揺らぎ最小化設計指針の開発 将来の超高速ナノスケールデバイスにおいては、時間的・空間的な統計数の欠如によりデバイス特性の記述が困難となります。本研究課題では、ナノデバイスのキャリア伝導を計測・解析し、非定常・非平衡状態のナノ伝導電子科学を深耕し、時間的・空間的な揺らぎが抑制されたナノデバイスの設計指針を開発します。
岡田 晋 筑波大学 大学院数理物質科学研究科 准教授 計算科学によるグラファイト系材料の基礎物性解明とそのデバイス応用における設計指針の開発 近年、グラファイト系材料を用いるデバイス応用開拓が盛んですが、材料基礎物性やその制御法に関して多くの未解明な部分があります。本研究課題ではグラファイトやグラフェン、ならびにグラフェン誘導構造を有するナノスケール炭素物質群に対して、量子力学に立脚した計算科学的手法による基礎物性解明を行い、グラファイト系デバイスの設計指針の提示を行います。
神谷 庄司 名古屋工業大学 大学院工学研究科 教授 高密度多層配線・三次元積層構造における局所的機械強度の計測手法の開発 半導体集積デバイスは多層配線・三次元積層による高集積化が進んでいますが、それらの構造に依存した機械的特性の情報が不足しており、信頼性確保が課題となっています。本研究課題では、新たに高密度多層配線や三次元積層LSIの局所的機械強度の計測手法を開発し、長期信頼性の設計指針を提示します。
木村 崇 九州大学 稲盛フロンティア研究センター 教授 電荷レス・スピン流の三次元注入技術を用いた超高速スピンデバイスの開発 電荷レス・スピン流の三次元注入技術、スピン方向高速変調技術、およびホイスラー合金によるスピン流の超効率生成技術を開発し、優れた熱擾乱耐性を有する超高速・極低消費電力駆動スピンデバイスを試作実証します。
長谷川 剛 (独)物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 主任研究者 3端子型原子移動不揮発性デバイス「アトムトランジスター」の開発 ゲート電極から金属原子(イオン)を供給し、ソース/ドレイン電極をショートさせることで、高いON/OFF比を実現する3端子型不揮発性デバイスである「アトムトランジスター」を開発します。さらにアトムトランジスターを用いた新しい機能デバイスの開拓も行います。
森 伸也 大阪大学 大学院工学研究科 准教授 原子論から始まる統合シミュレータの開発 膨大な計算時間を要する原子論的電子輸送シミュレーションを新しい計算アルゴリズム(R行列理論)の導入により短時間処理を可能とし、電子輸送シミュレーション、フォノン輸送シミュレーション、回路シミュレーションを統合したシミュレータを開発します。
湯浅 新治 (独)産業技術総合研究所 エレクトロニクス研究部門 研究グループ長 革新的プロセスによる金属/機能性酸化物複合デバイスの開発 金属磁性材料と機能性金属酸化物材料の複合構造による新しい不揮発性スイッチング機能の創出を目指し、材料選択、製膜条件最適化などを通して革新的プロセスを開発し、そのデバイス実証を行います。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:渡辺 久恒((株)半導体先端テクノロジーズ 代表取締役社長)

本プロジェクトの戦略目標は次世代エレクトロニクスにおける材料・デバイス・プロセスに関するテーマを幅広く想定しております。シリコン集積回路の性能向上は、素子の微細化や動作周波数の向上を中心に進められてきましたが、近年これらの限界が顕在化しつつあります。一方で環境対策の一層の強化が望まれる中、さらなる微細化のほか新デバイスの導入による超低消費電力化や、新しいデバイスアーキテクチャの採用による高次の付加価値の付与なども要請されております。

当研究領域では、限界に直面している課題を材料・プロセス科学の基礎に戻って徹底的に理解し新たなコンセプトを創出しようとする提案(Discovery Science)、あるいは画期的な材料・プロセス、デバイスの採用で従来技術の置き換えを追求する提案(Disruptive Technology)、さらに、異分野材料の物性や原理の異なるデバイスを半導体デバイスと融合させて上記課題を克服しようとする提案(Fusion Device)を募集しました。なお、提案における研究の遂行に関しては、産学連携を通して積極的に実用化に挑戦しようとする姿勢も重要視しました。

今回の応募件数は36件でした。上記方針に対して、非常にスペクトラムの広い提案をいただきました。大変興味深く科学的に高度なご提案が多い中で選考審査には大きな困難を伴いましたが、最終的に次の7件、ナノデバイスのピコ秒物理の解析による揺らぎ最小化設計指針の開発、計算科学によるグラファイト系材料の基礎物性解明とそのデバイス応用における設計指針の開発、高密度多層配線・三次元積層構造における局所的機械強度の計測手法の開発、電荷レス・スピン流の三次元注入技術を用いた超高速スピンデバイスの開発、3端子型原子移動不揮発性デバイス「アトムトランジスター」の開発、原子論から始まる統合シミュレーターの開発、革新的プロセスによる金属/機能性酸化物複合デバイスの開発、のテーマを採択いたしました。今年度で本研究領域の募集は終了いたしますが、今後は採択した研究チームの進める科学的深耕、画期的なアイデアの実現、新しいジャンルの開拓などが実践的成果となるべく、研究チームのメンバーと協力して運営していきたいと考えております。