JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第670号資料2 > 研究領域:「精神・神経疾患の分子病態理解に基づく診断・治療へ向けた新技術の創出」
資料2

平成21年度 戦略的創造研究推進事業(CREST)
新規採択研究代表者および研究課題概要

戦略目標:「精神・神経疾患の診断・治療法開発に向けた高次脳機能解明によるイノベーション創出」
研究領域:「精神・神経疾患の分子病態理解に基づく診断・治療へ向けた新技術の創出」
研究総括:樋口 輝彦(国立精神・神経センター 総長)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
井原 康夫 同志社大学 生命医科学部 教授 分子的理解に基づく抗アミロイドおよび抗タウ療法の開発 本研究は、アミロイド仮説にそってアルツハイマー病の分子的理解を進めるとともに、それに基づく治療法開発に取り組みます。Aβたんぱく質産生の抑止に関しては、基質特異的な阻害による、副作用の少ない阻害剤の開発を目指します。また、わが国で新たに発見されたAβ変異を詳細に研究することで、Aβオリゴマーに関連する病理カスケードの分析を可能とします。さらに、線虫モデルを用いてチューブリンとタウのアンバランスが神経変性を引き起こすという仮説を検証し、抗タウ療法開発の基盤とすることを目指します。
内匠 透 広島大学 大学院医歯薬学総合研究科 教授 精神の表出系としての行動異常の統合的研究 こころの問題はしばしば行動の異常として現れます。私たちが最新の染色体工学的手法を用いて開発した自閉症ヒト型モデルマウスは、従来のモデルとは一線を画すユニークな世界初のモデルです。本研究では、本モデルをはじめとする発達障害モデルやリズム障害モデルを通して病態解明を行うとともに、数理モデル解析に基づく非侵襲診断法の開発、環境要因を含めた治療法の基盤開発など、精神行動異常疾患の統合研究を目指します。
西川 徹 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 教授 統合失調症のシナプスーグリア系病態の評価・修復法創出 高い発症率と難治性を示す統合失調症では、グルタミン酸シナプスの機能異常の関与が推測されています。本研究は、従来のニューロン中心の視点に加え、グリアーシナプス相互作用にも注目し、グルタミン酸シナプス修飾因子のD−セリンがグリアーニューロン間で機能する分子細胞メカニズムと統合失調症における病態を解明します。さらに、その評価法と修復法を創出することにより、新たな診断・治療法への展開を目指します。
貫名 信行 (独)理化学研究所 構造神経病理研究チーム チームリーダー ポリグルタミン病の包括的治療法の開発 本質的な治療法のない遺伝性神経変性疾患のポリグルタミン病について、異常たんぱく質凝集の抑制・分解過程の制御、転写異常などの病態過程の制御の観点からの治療法の開発を目指します。天然物スクリーニングや化合物ライブラリースクリーニングを、モデル細胞、モデル動物を効率よく利用して行うとともに、効果のある化合物をもとにケミカルジェネティクスによりその標的分子を同定し、さらにこれを制御する薬物・遺伝子治療法の開発を進めます。
水澤 英洋 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 教授 プルキンエ細胞変性の分子病態に基づく診断・治療の開発 小脳プルキンエ細胞(PC)の障害は小脳性運動失調症(SCA)を惹起しますが、いまだその治療法は確立していません。本研究では、ほぼ純粋にPCの変性をきたす遺伝性SCAを対象として疾患モデルを開発し、オミックス・ケミカルバイオロジーの手法を駆使して、RNA分子発現の異常から個体での発症に至る病態経路を解明し、治療戦略を確立します。そして、PC障害や小脳失調全般に適用しうる治療法・診断マーカーの創出を目指します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:樋口 輝彦(国立精神・神経センター 総長)

本研究の戦略目標は少子・高齢化社会あるいはストレス社会といわれるわが国において、社会的要請の強い精神・神経系の疾患の克服のために、脳科学の基礎的知見を活用して予防・診断・治療における新技術(イノベーション)の創出をめざすことにあります。具体的には、精神・神経疾患あるいは認知・情動と関係する遺伝子変異・多型、環境因子などを付与することによって、ヒトの脳機能変化を再現させた動物モデルを作成し、ヒトでは直接検証が困難な分子マーカーや機能マーカーを検証すること、あるいはこれら精神・神経疾患または認知・情動に関わる分子神経機構の生化学的評価法や非侵襲機能解析法を開発すること、あるいはヒトで見出されたマーカーを動物モデルで確認することにより、これらの疾患を診断・評価する技術を開発することなどが挙げられます。

平成21年度は課題公募の最終年度で、平成19年度、20年度に続き3回目の公募を行いました。平成20年度の公募においては平成19年度に採択された研究対象疾患を除く疾患を中心に課題を採択しましたが、平成21年度は最終年度でもあり、特に対象疾患を限定することなく優れた課題を採択することと致しました。申請課題数は精神領域、神経領域あわせて57課題でした。領域アドバイザーの協力を得て書類選考を行い、そのうち13課題について面接選考を行いました。その結果、精神領域の2課題と神経領域の3課題を採択しましたが、その研究対象疾患は発達障害と気分障害、統合失調症、ポリグルタミン病、アルツハイマー病、小脳変性症という多彩な構成になりました。いずれもイノベーションの創出が期待できる優れた計画です。