JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第670号資料2 > 研究領域:「二酸化炭素排出抑制に資する革新的技術の創出」
資料2

平成21年度 戦略的創造研究推進事業(CREST)
新規採択研究代表者および研究課題概要

戦略目標:「持続可能な社会に向けた温暖化抑制に関する革新的技術の創出」
研究領域:「二酸化炭素排出抑制に資する革新的技術の創出」
研究総括:安井 至((独)製品評価技術基盤機構 理事長/国際連合大学 名誉副学長)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
小川 健一 岡山県生物科学総合研究所 植物レドックス制御研究グループ グループ長 CO固定の新規促進機構を活用したバイオマテリアルの増産技術開発 本研究では、CO固定量や同化産物の転流量などを飛躍的に向上させることで、カーボンニュートラルなバイオマテリアル(ダイズとユーカリを中心に)の飛躍的な増産技術を開発し、化石原料由来のCO排出を大幅に抑制する技術の開発を目指します。我々の技術は日本国CO総排出量の約5%(世界の主要生産地に本技術を適用した場合)に相当するCO排出を抑制できる水準ですが、本研究課題では、さらに10%以上の抑制技術を狙います。
近藤 昭彦 神戸大学 大学院工学研究科 教授 海洋性藻類からのバイオエタノール生産技術の開発 カーボンニュートラルな再生可能資源で、耕作地や水資源の限界を克服できる海洋バイオマスからのバイオ燃料生産を目指します。塩水環境で生育でき、増殖性の高いスピルリナ微細藻類などの光合成機能と代謝能力を強化するとともに、海水での高密度大量培養システムを確立することにより、デンプン生産性を2倍以上に向上させ、コア技術として確立した細胞表層工学を用いて藻類デンプンからの高効率なエタノール生産プロセスを開発します。
田中 剛 東京農工大学 大学院共生科学技術研究院 准教授 海洋微細藻類の高層化培養によるバイオディーゼル生産 海洋微細藻類カルチャーコレクションより選抜された海洋珪藻ナビクラ属をバイオマス資源として活用し、CO排出削減可能で、食料と競合しない新規バイオディーゼル生産技術の確立を図ります。生産には高層化可能な培養システムを利用し、地域のエネルギー供給やバイオマス原料の流通、原料コストに依存しない、均質かつ安定供給可能なバイオディーゼル生産システムの構築を目指します。
橋詰 保 北海道大学 量子集積エレクトロニクス研究センター 教授 異種接合GaN 横型トランジスタのインバータ展開 省エネルギーの核となる「窒化ガリウム(GaN)インバータ」の基盤技術を確立します。そのため、結晶欠陥起因の電子準位とトランジスタ動作信頼性との相関を明らかにし、異種(ヘテロ)接合制御と新チャネル構造により、シリコン素子とは異なる新しい横型トランジスタを開発します。さらに、インバータの設計/シミュレーションと実験的評価によりGaNインバータとその集積化の切り口を探求します。
宮山 勝 東京大学 先端科学技術研究センター 教授 プロトン型大容量電気化学キャパシタの研究 水溶液を電解液として用いながらリチウムイオン二次電池に匹敵する性能を持つ、プロトン型電気化学キャパシタの研究開発を行います。プロトンの表面吸着・反応を有効に利用できる単原子層シートを活物質として用いた電極を開発することにより、安全性の高い新たな機構の大容量蓄電デバイスを構築し、CO排出抑制のための基盤技術と基礎科学を創出します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:安井 至((独)製品評価技術基盤機構 理事長/国際連合大学 名誉副学長)

二酸化炭素の排出を抑制しようとすると、選択肢はあるものの、実はかなり限られています。1つは再生可能エネルギーの活用、1つは省エネルギー技術です。そして、3つ目が処理技術に位置づけられる炭素分離貯留です。

創造的な目的基礎研究として取り上げるべき課題の優先順位は何か、と問われれば、まず再生可能エネルギー、次に省エネルギー、そして炭素分離貯留の順番だと言わざるを得ないのが実情です。

昨年までの本CREST領域には、再生可能エネルギーの分野として太陽エネルギーの直接変換が含まれていましたが、今年から別の研究領域として公募されているため、目的基礎研究という立場に立てば、再生可能エネルギー分野としてバイオエネルギー関係に重点が置かれることになると予想していました。

平成21年度は、36件の応募課題から書類選考によって13件に絞り面接選考を行いました。その中から5件の採択に至りましたが、ほぼ予想通りの結果となりました。すなわち、3件のバイオエネルギー関連、2件の省エネ関連課題を採択しました。

バイオエネルギー関連として、今回採択されたものには海洋エネルギーとでも呼ぶべき課題が含まれています。いずれも微細藻類に関わるものです。世界第6位の海岸線の長さを有する我が国では、海洋の有効利用が必須です。結果的に、昨年採択したもう1件の藻類関係の課題と合わせて、これで色合いの異なる3件が準備されたことになります。競争を加速する意味からも、ほぼ十分なラインアップになったと思います。バイオエネルギーのもう1件は、過去のCRESTの研究成果の発展系であり、グルタチオンを有効活用する基礎技術の開発を目指すもので、独自性があり、期待したいと思います。

2件の省エネ関連は、電池に近い特性をもつキャパシタと、インバータ用などに用いるGaN素子に関する課題です。いずれもハイブリッド車などへの応用が期待できるものです。

昨年採択した課題に今年の採択課題を加えたことにより、技術のポートフォリオは広がりましたが、やはり現時点で着目度の高い特定の分野へ集中する傾向があります。本来は、海洋エネルギー、新規な省エネルギー技術、炭素隔離貯留関連の課題などを希望していたのですが、提案の完成度という点でいささか問題があり、今年度は採択に至りませんでした。来年度には大いに期待したいと思います。

加えて、来年度は、環境エネルギー技術の評価に適応できる汎用性のある評価関数の開発といった新規な分野の提案にも期待しております。