JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第670号資料2 > 研究領域:「プロセスインテグレーションに向けた高機能ナノ構造体の創出」
資料2

平成21年度 戦略的創造研究推進事業(CREST)
新規採択研究代表者および研究課題概要

戦略目標:「プロセスインテグレーションによる次世代ナノシステムの創製」
研究領域:「プロセスインテグレーションに向けた高機能ナノ構造体の創出」
研究総括:入江 正浩(立教大学 理学部 教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
有賀 克彦 (独)物質・材料研究機構 WPI国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 主任研究者 ナノとマクロをつなぐ動的界面ナノテクノロジー 本研究では、界面環境にてバルクの刺激によって機能性分子・ナノシステムを駆動しうる「手で操るナノテク(Hand-Operating Nanotechnology):ナノとマクロをつなぐ動的界面ナノテクノロジー」を創始します。「自らの手の動きで分子をつかむ・並べる・見分ける・放出する」という夢の技術を実現し、あらゆるサイズで駆動するセンサー、DDS、物質分離などの革新技術の開発につなげます。
石原 一彰 名古屋大学 大学院工学研究科 教授 酸・塩基複合型超分子動的錯体を鍵とする高機能触媒の創製 従来の単一分子性触媒では困難な遠隔不斉誘導、カスケード反応、高度な分子認識などの酵素特有の機能を備えた、真に実用的な人工触媒の開発は有機合成化学の最重要課題です。本研究提案では、環境に優しい精密合成技術の実現を目標に、生体酵素を凌駕する高機能ナノ触媒の創製とその効率的調製法の確立を目指します。酸・塩基複合化学を基盤に多様な動的機能を備えた超分子自己会合型触媒を開発します。
岩澤 伸治 東京工業大学 大学院理工学研究科 教授 ホウ酸エステルの動的自己組織化に基づく高次機能の開拓 本研究ではホウ酸エステル化合物の特徴的性質を活用し、ホスト-ゲスト相互作用に基づく動的自己組織化を基盤とするボトムアップ合成手法を確立すること、次いで分子レベルでホウ酸エステル化合物に特徴的な動的高次機能、特に分子触媒機能や分子分離・貯蔵機能などを実現すること、そして最終的には分子レベルで実現した各種機能をマクロな物質レベルでの機能発現へと展開することを目的とします。
杉野目 道紀 京都大学 大学院工学研究科 教授 キラルナノ分子ロッドによる機能の階層的不斉集積と組織化 触媒、キラル誘起、発光、可逆架橋、水素結合、配位結合などの多様な機能部位を集積・組織化したナノサイズのらせん形巨大棒状分子を、さらに精密に集積・組織化することで階層的な構造体を創りだし、新しい機能性材料の開発を行います。この巨大棒状分子の合成法の確立と集積化により、次世代のキラルテクノロジーとして期待されるキラル高分子触媒やキラル分離膜の創製を目指します。
真島 和志 大阪大学 大学院基礎工学研究科 教授 多核金属クラスター分子の構造制御によるナノ触媒の創製 第1遷移金属や前周期遷移金属などの非貴金属について、金属核数、金属種、結合様式を制御することにより、2核より金属数の大きなナノスケールの多核金属クラスター分子を系統的に合成します。これにより、通常の貴金属の単核錯体が示す触媒機能を凌駕し、単核金属錯体では実現できないまったく新しい触媒反応の開発を行います。本研究により開発するナノ触媒により、医薬品や機能性材料の合成に優れ、環境負荷を低減できる新しい触媒反応を実現します。
松本 泰道 熊本大学 大学院自然科学研究科 教授 ナノシートから構築する高機能ナノ構造体 厚さ1nm程度の二次平面単結晶無機ナノシートは、その組成に基づく化学的・物理的特性に加えて、量子サイズ効果、特異界面効果、高効率電荷分離効果を有する革新的機能材料です。本研究では、本来ナノシートが持つ静電的自己組織機能を利用し、異種ナノシート、機能性分子、液晶・高分子、DNAからなる未来型高機能ナノ層状体・ナノハイブリッド材料を構築し、新規機能の探索を行います。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:入江 正浩(立教大学 理学部 教授)

本研究領域では、自己組織化に代表されるボトムアッププロセスの一段の高度化を図ることによる、有用な機能をもったナノ構造体の創出をめざした研究提案を公募しました。具体的には、ボトムアッププロセスでしか達成されない特異な機能を備えた自立した機能性ナノ構造体に関する提案を期待しました。自己修復機能をもつあるいは外部刺激により弾性率を変える高分子材料などの新ナノ材料、また、グラフェンなどナノカーボン材料の新合成法の提案など、独創性のある提案を求めました。分子機械、分子モーター、人工筋肉などの超分子が報告されていますが、これらのナノ構造体はその制御性、拡張性に問題をかかえています。ナノレベルにおいて実現している特異な機能を、いかに材料レベルにつながるかの課題に対する解決策に関する提案も期待しました。

平成21年度は、有機合成化学、物理化学、高分子化学、応用物理学、電気工学、生物物理学、生化学などを専門とする研究者から、60件の応募がありました。その研究提案内容は、専門分野の拡がりを反映して、多岐にわたり、純粋な有機合成から医療に関連するものまで幅広く分布していました。領域アドバイザー11名の協力のもと、まず、選考の基本方針を決め、ついで書類査読により20名を面接1次候補者として選考しました。選考の基本方針は、CRESTが、国の戦略目標達成にむけた研究であることを意識するとともに、Science (あるいはTechnology)として良質なものであるかも重要な評価要件であるとして、選考をすすめました。また、各研究者のこれまでの研究経歴(研究成果など)も考慮することとしました。

書類査読により選考した20名の面接1次候補者について、11名の領域アドバイザーに再度、査読を依頼して、それらを踏まえて領域アドバイザーと議論を行い、10名の面接最終候補者を選考しました。面接最終候補者は、有機合成化学を専門とする者4名、超分子、高分子化学を専門とする者2名、応用物理学を専門とする者2名、材料科学を専門とする者2名でした。面接において、それぞれ、特色のある研究提案説明がされましたが、本領域の基本方針の観点から審査し、最終的に6名の採択者を選考しました。分野別に見ると、有機合成化学4名、超分子、高分子化学1名、材料科学1名となりました。今回は、期待した新ナノ材料に関する独創的な提案が少なく、ナノ構造体に関する有機合成の提案が多く採択される結果となりました。

CREST研究は、研究代表者個人が明確に目標をもってリーダーシップを発揮するタイプの研究です。研究目標を明確に絞り込み、研究期間中に何を達成したいのかフィロソフィーのある提案を来年度も望みます。