JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第670号資料2 > 研究領域:「プロセスインテグレーションによる機能発現ナノシステムの創製」
資料2

平成21年度 戦略的創造研究推進事業(CREST)
新規採択研究代表者および研究課題概要

戦略目標:「プロセスインテグレーションによる次世代ナノシステムの創製」
研究領域:「プロセスインテグレーションによる機能発現ナノシステムの創製」
研究総括:曽根 純一(日本電気(株) 中央研究所 支配人)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
宇理須 恒雄 自然科学研究機構 分子科学研究所 教授 光神経電子集積回路開発と機能解析・応用 研究代表者はシナプス後膜に流れる電流を正確に測定できる培養型イオンチャネルバイオセンサーの開発に初めて成功しました。本研究では、神経細胞ネットワークを本センサー内に形成し、レーザー光で活動電位を制御して記憶や学習特性を測定できるようにします。さらにナノ加工技術を駆使してセンサーを多チャンネル化し、脳高次機能の解明や神経変性疾患の診断・創薬に有用なスクリーニング素子を開発します。
北森 武彦 東京大学 大学院工学系研究科 教授 拡張ナノ空間特異性を利用した革新的機能デバイスの創成 数10-数100nmの「拡張ナノ空間」は界面領域のみで形成される特異空間であり、流体物性や化学特性に特異性が発現することを研究代表者らは見いだしました。また、この特異性を活用するとマイクロ・ナノ科学と技術に新展開が期待できることを示してきました。本研究では「拡張ナノ空間」の特異性を活用した新しいデバイス工学として、化学、バイオ、エネルギーなどに貢献する新機能次世代ナノデバイスを実現します。
寒川 誠二 東北大学 流体科学研究所 教授 バイオテンプレート極限加工による3次元量子構造の制御と新機能発現 中性粒子ビームエッチングと、球穀状たんぱく質を用いた高密度ナノドット配列技術を組み合わせることで、超高効率量子ドットレーザーおよび量子ドット太陽電池を実現します。また、シリコンおよび化合物半導体2次元量子ドットアレイ構造における電子輸送現象の解析から、量子サイズ効果、ミニバンド形成効果、励起子多重生成効果を明らかにして、量子構造の制御手法を明らかにします。
染谷 隆夫 東京大学 大学院工学系研究科 教授 大面積ナノシステムのインタフェース応用 本研究では、分子の自己組織化と印刷プロセスの制御性を究極まで高めることによって、ナノ機能をメートル寸法の大面積システムに応用する新手法(ナノ印刷)を確立します。ナノ印刷を駆使して、プラスティックやゴムのシート上に多様なナノ機能を集積化した大面積ナノシステムを実現します。モノの表面をこのシートで包み込んで電子化することによって、環境に溶け込み人間を支援するインタフェースとして活用し、その有用性を実証します。
辻井 敬亘 京都大学 化学研究所 教授 濃厚ポリマーブラシの階層化による新規ナノシステムの創製 本研究では、研究代表者らが世界に先駆けて実現した「濃厚ポリマーブラシ」という新しい分子組織体が従来のものとは大きく異なる、魅力ある特性を発現することに着眼し、その階層構造化による新しいナノシステムを創製するとともに、その活用により、従来技術では困難であった全固体型マイクロ・リチウムイオン電池(オンボードバッテリデバイス)と眼内設置高感度センサ(ウエアラブルセンサデバイス)の開発を目指します。
藤井 輝夫 東京大学 生産技術研究所 教授 マイクロ・ナノ統合アプローチによる細胞・組織Showcaseの構築 マイクロ流体デバイスに人工バイオ界面を組み込むことにより、液性条件と接着条件とを統合的に操作可能な細胞・組織Showcaseシステムを構築します。このシステムをES細胞やiPS細胞の分化過程ならびに血中循環腫瘍細胞の浸潤・転移過程に適用し、これらの過程における細胞外微小環境の効果を明らかにすることを通して、多能性細胞の応用研究やがんの診断・治療に資するマイクロ・ナノ機能統合デバイスを実現します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:曽根 純一(日本電気(株) 中央研究所 支配人)

本研究領域の戦略目標は、自己組織化に代表されるボトムアッププロセスと半導体技術に代表されるトップダウンプロセスを組み合わせ、革新的な機能を有するナノシステムを創製することにあります。提案に当たっては材料に関する科学的知識、プロセスに関する融合的な基盤技術が必要なだけでなく、ナノシステムとしての応用展開をしっかり見据える必要があり、提案は容易ではないと想像します。2回目の募集となる今回は、ナノシステムとしてのイノベーションを引き起こそうとする挑戦的、意欲的な提案が48件集まりました。応募件数も前回に比べ、1.5倍に増加、粒よりで激戦となりました。提案は、分子・DNA操作、バイオ・ニューロチップ、マイクロ流路・MEMS、CNT・グラフェン応用、スピントロニクス応用、エレクトロニクス・フォトニクス応用、エネルギー・環境応用など、非常に多岐の分野にわたっています。これらの提案に対し、上記分野をカバーできる11名の領域アドバイザーと共に、書類選考、面接選考を行い、神経細胞チップ、マイクロ流路のバイオ応用、マイクロ流路のエネルギー応用、分子技術のエネルギー応用、有機分子技術のエレクトロニクス応用、バイオ技術のエレクトロニクス・エネルギー応用の計6件を採択しました。本研究領域では、ナノシステムとして新しい融合分野の開拓を目指しており、必然的にカバーする分野も多岐にわたってきます。アドバイザーの方々の意見も分かれ、多いに議論を戦わせましたが、最終的には、

  1. (1) ボトムアップとトップダウンの融合プロセスに挑戦しているか
  2. (2) 新しい技術分野、学問分野を拓く可能性、あるいは社会に大きな影響を与える産業応用につながる可能性を秘めているか
  3. (3) 上記の可能性につながる独創的なアイデア、それを具現化できる保有技術、エビデンスデータはあるか

を評価基準として判断しました。今回の公募に当たっては、エネルギー・環境分野への挑戦を歓迎するとのメッセージを事前に発しましたが、結果的にそれが反映されたような形となっています。

今、ナノテクノロジーは、エネルギー・環境問題といった地球的な課題の解決に、また健康・安全・安心といった生活の質の向上に向かって、決定的に重要な技術になりつつあります。そのためには日本が先行して築き上げてきたナノテクノロジーをベースに分野融合的な発想を喚起し、ナノシステムとして社会の喫緊のニーズに答えていく必要があります。1回目と2回目の採択プロセスでは、上記評価基準の(1)をかなり厳密に適用してきましたが、最終となる次回はナノシステムに対するこれらの期待を勘案し、(1)の基準はこれまでに比べて広く解釈し、(2)、(3)を重要視していこうと考えております。