JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第670号資料2 > 研究領域:「先端光源を駆使した光科学・光技術の融合展開」
資料2

平成21年度 戦略的創造研究推進事業(CREST)
新規採択研究代表者および研究課題概要

戦略目標:「最先端レーザー等の新しい光を用いた物質材料科学、生命科学など先端科学のイノベーションへの展開」
研究領域:「先端光源を駆使した光科学・光技術の融合展開」
研究総括:伊藤 正(大阪大学 大学院基礎工学研究科 教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
今村 健志 (財)癌研究会 癌研究所 生化学部 部長 新規超短パルスレーザーを駆使したin vivo光イメージング・光操作のがん研究・がん医療への応用 光パラメトリック発振、スーパーコンティニウム光、超小型波長固定超短パルスレーザーなどの新規光源と、多様な生体内での光学的パラメーターを最適化する補償光学系とを駆使し、非線形光学過程を用いた革新的“in vivo”光イメージングを確立します。特に、がん細胞とその周囲環境の多元的な生体内イベントのリアルタイム画像化を実現させる過程を通じて、革新的光源開発を促します。
川田 善正 静岡大学 工学部 教授 電子線励起微小光源による光ナノイメージング 本研究では、光を用いて試料の微細構造を実時間で観察でき、ナノメートルの空間分解能を有する実時間・ナノイメージング法の実現を目指します。電子線ビームにより蛍光薄膜を励起し、微小光源を形成し走査するシステムを開発します。この手法は、光学顕微鏡と電子顕微鏡の特徴を融合したもので、全く新しい計測・分析手法として先端科学のイノベーションに寄与します。
腰原 伸也 東京工業大学 フロンティア研究センター 教授 光技術が先導する臨界的非平衡物質開拓 超高速光デバイス材料、新型高機能触媒、光機能性たんぱく質など、励起状態での相互作用を利用する最先端物質の開発を先導する為に、フェムト秒時間分解光電子顕微鏡(fs-PEEM)と動的X線観測の組み合わせ手法、並びにコンパクト短パルスレーザーを開発し、物質開発への有用性を実証します。これによって現在の構造科学の枠を乗り越えた、「光励起臨界的非平衡電子構造物性科学」と呼べる新分野を開拓します。
竹内 繁樹 北海道大学 電子科学研究所 教授 モノサイクル量子もつれ光の実現と量子非線形光学の創成 「モノサイクル量子もつれ光」とは、光が1周期振動する程度の極短時間内に、同時に2つの光子が存在するという、究極の同時刻性を持つ状態です。本研究では、擬似位相整合技術を駆使した素子を開発し、モノサイクル量子もつれ光の実現を目指します。また、実現したモノサイクル量子もつれ光を用い、巨大2光子吸収などの新しい非線形光学を拓き、従来の光の限界を突破する、量子メトロロジーへの応用を図ります。
田中 耕一郎 京都大学 物質−細胞統合システム拠点 教授 高強度テラヘルツ光による究極的分光技術開拓と物性物理学への展開 世界最高のピーク電場強度をもつテラヘルツ波長可変光源を開発し、固体、液体、生体物質を対象とした究極的なテラヘルツ分光技術を探求・実現します。特に、波長の100分の1の分解能を有する実時間動作顕微鏡や巨大な非線形性をもつ量子構造体を構築し、微小物質のコヒーレント過渡現象を実時間・近接場の領域で可視化します。これにより、バンド構造の動的変化や非摂動論的非線形光学応答などの新たな物性物理学の展開が期待されます。
細貝 知直 大阪大学 光科学センター 特任准教授 光制御極短シングル電子パルスによる原子スケール動的イメージング 物質が高速で変化する過程をフェムト秒オーダーかつ原子スケールの時間空間分解能をもつ動的イメージング像としてシングルショットで観測するシステムを構築します。高性能パルス電子源開発として、極短光パルス駆動プラズマと高周波空洞をもちいたレーザーバーチャルカソードの研究を推進します。加えて、シングルショットの動的イメージングに必要な極短光パルスと同期したパルス駆動電磁レンズシステムの開発も行います。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:伊藤 正(大阪大学 大学院基礎工学研究科 教授)

本研究領域では、物質・材料、加工・計測、情報・通信、環境・エネルギー、ライフサイエンスなどの異なる分野で個別に行われている光利用研究開発ポテンシャルの連携、融合を加速し、「物質と光の係わり」に関する光科学・光技術の利用と開発研究を主体的に推進することで、実用化や波及効果の大きな技術シーズを生み出すと共に、光源開発にもフィードバックをかける役割を担います。そのために、高度な性能をもつ最先端レーザーに代表される各種の先端光源をブラックボックス化することなく、光源の特徴を徹底的に駆使した特色ある「物質と光の係わり」に関する研究を推進します。光技術のニーズが明確であれば、未踏波長の開拓や位相・出力・パルス幅などを精密に制御する技術開発が含まれた研究も対象とします。また、医療・環境など人類にとって差し迫った難題解決に最先端レーザー科学・技術を導入駆使することでブレークスルーを生み出す利用研究も対象とするものです。

平成21年度は、60件の応募がありました。「物質と光の係わり」に関する光科学・技術の幅広い適用を反映して、その内容は、ハイパワーレーザー利用、光波制御(波形整形応用)、医学・生命科学応用、放射光複合利用、量子情報、光物性、光化学、新奇光源技術など極めて多岐にわたりました。

今年度の選考においては、研究総括、領域アドバイザー11名で、「物質と光の係わり」に関する光科学・光技術の利用と開発研究を主体的に推進する本研究領域の趣旨に沿っているか、国際レベルをリードする研究であるか、当該テーマでオリジナリティを発揮しているか、5年間で明確な進歩目標が提示されているか、研究実施体制は真に有機的に連携・統括されているか、異分野にも波及するものか、息の長い技術シーズを生み出すものか、産業的、社会的ニーズにどのようにつながるか、といったさまざまな観点で評価を行いました。書類選考により18件の提案を選択し、面接選考により以下の6件の提案を採択しました。面接選考にあたっては、研究提案者の提案内容と関係が深いテーマでの他の研究費の取得状況や内容の棲み分けなどを勘案して質疑応答を行いました。

その結果、新規超短パルスレーザーを駆使したin vivo光イメージング、電子線励起微小光源による光ナノイメージング、光技術が先導する臨界的非平衡物質開拓、モノサイクル量子もつれ光の実現、高強度テラヘルツ光による分光技術開拓、原子スケール動的イメージングを各々目指す提案を採択しました。いずれも光源の究極的利用、「物質と光の係わり」に新局面を開くもの、光技術応用として極めて挑戦的なものです。予算規模は種別Tが3件、種別Uが3件でした。

今年度の多岐にわたるご提案全課題を見ると優れたものが多くあり、不採択課題の中には採択課題と匹敵する提案もありましたが、光源利用の構想としては優れているもののその実現性や「物質と光の係わり」への具体性や新規性の説明が不十分なもの、研究実績は十分であるが研究提案者の主体性と共同研究者の必要性の関係でCREST研究体制に適していないもの、本CREST研究領域の趣旨に沿って他の助成金との切り分けを明確に行う説得力に欠けるなどの点で一歩及びませんでした。来年度も募集を行う予定です。本CREST研究領域の趣旨に沿って、挑戦的な目標を射程としつつも現状におけるデータを明確に示し、研究計画における年度ごとの達成目標と最終目標へ向かっての研究者間の連携体制を具体的に明記し、より一層磨かれた研究構想の提案を期待したいと思います。

なお、本研究領域の運営にあたっては、文部科学省の「最先端の光の創成を目指したネットワーク研究拠点プログラム」による新しい光源・計測法などの研究開発や人材育成、先端光源ユーザー開拓活動などと連携し、研究の一層の発展を図る予定です。