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資料2

平成21年度 戦略的創造研究推進事業(CREST)
新規採択研究代表者および研究課題概要

戦略目標:「人間と調和する情報環境を実現する基盤技術の創出」
研究領域:「共生社会に向けた人間調和型情報技術の構築」
研究総括:東倉 洋一(国立情報学研究所 副所長・教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
相澤 清晴 東京大学 大学院情報学環 教授 “食”に関わるライフログ共有技術基盤 本研究では、これまで情報処理の対象として扱われることの少なかった「食」に注目したライフログ技術基盤の研究開発を行います。画像などを用いた食事メディア処理、処理の可視化・健康支援インターフェース、潜在的コミュニティの発見や場の雰囲気の記録・再生などの実空間コミュニケーション、ライフログの標準データ形式やプライバシー制御などの共通技術基盤などについて研究開発を行うとともに、健康管理の実証実験も行います。
石川 正俊 東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授 高速センサー技術に基づく調和型ダイナミック情報環境の構築 kHzオーダーで実時間動作する高速センサー技術・提示技術を用い、インセンシブル(人間が感じ取れない)ダイナミクスの完全検出と、感覚運動統合モデルに基づく同ダイナミクスの実時間可感化を実現する情報環境を構築します。時間密度が飛躍的に向上された情報環境によって、人間を取り巻く実世界の確定的未来の可感化が可能となり、人間の認識行動系の学習促進や情報誘導に貢献することができます。
柏野 牧夫 日本電信電話株式会社 NTTコミュニケーション科学基礎研究所 グループリーダー 潜在的インターパーソナル情報の解読と制御に基づくコミュニケーション環境の構築 円滑な対人コミュニケーションに不可欠でありながら軽視されてきた「潜在的インターパーソナル情報(Implicit InterPersonal Information;IIPI)」(パートナー間の相互作用によって立ち現れる非記号的・無自覚的な情報)に着目し、脳活動、生理反応、身体運動などからIIPIを解読したり、情報環境側からIIPIを調整したり、あるいは脳に非侵襲的な刺激を与えたりすることによってコミュニケーションの質を高める手法を開発します。
河原 達也 京都大学 学術情報メディアセンター 教授 マルチモーダルな場の認識に基づくセミナー・会議の多層的支援環境 人間の知的活動の源泉ともいえる音声コミュニケーションをマルチモーダルな観点で分析・モデル化した上で、セミナー・ポスター発表および会議を対象として、リアルタイムな支援や、効果的なアーカイブ化のための情報環境を構築します。主な話者の発話内容を音声認識して言語解析を試みるという従来のアプローチだけでなく、聴衆の反応に着目したアプローチを導入します。
小池 康晴 東京工業大学 精密工学研究所 教授 知覚中心ヒューマンインターフェースの開発 テレイグジスタンスの技術のように、環境と相互作用するインターフェースにおいては、入力側は精度良く環境の状態を計測し、出力側では、あたかも物体を持っているかのように力を与えるなど、正確にその値を再現させようとしてきました。本研究では、複雑な装置を用いることなく、脳の知覚メカニズムを解明し、あたかも物体を持っているような“イリュージョン”を積極的に活用する新しいインターフェースの開発とその応用を目指します。
佐藤 洋一 東京大学 大学院情報学環 准教授 日常生活空間における人の注視の推定と誘導による情報支援基盤の実現 人と調和する情報環境を実現するためには、情報環境側が人の注意が何に向けられているのかを理解したうえで、適切なタイミングで適切な支援を提供できることが必要となります。本研究では、人の注意と密接に関係する注視に着目し、人と調和する情報環境実現のための基盤技術として、日常生活空間内における人の注視を推定する技術、および情報環境からの適切な働きかけにより人の注視をさりげなく誘導する技術の開発を目指します。
武田 一哉 名古屋大学 大学院情報科学研究科 教授 行動モデルに基づく過信の抑止 大規模な信号コーパスを利用して、情報と物理を統合する視点から人間行動の数理的モデルを研究します。「認知・判断」と「判断・運動」の2つの離散/連続系に還元して行動を捉え、行動に内在する「状態」を理解しうるモデルを導出します。情報システムと人間が、互いの状態を正しく把握できないことで生じる「過信」の検出に応用し、「振り込め詐欺」や「交通事故」の抑止に寄与しうる実用的な検出技術を構築します。
舘 暲 慶應義塾大学 大学院メディアデザイン研究科 教授 さわれる人間調和型情報環境の構築と活用 実空間コミュニケーション、ヒューマンインターフェース、メディア処理が融合した、見て・触れる知的な情報環境の構築を目指します。すなわち、実空間の触覚情報の取得と理解および触空間の伝達と人への能動的働きかけを可能とし、人が自然環境で所作し行動しているような感覚で、遠隔コミュニケーション、遠隔体験、疑似体験を可能とし、デザインや創作などの創造的活動を実世界と同様に行える人間調和型の「さわれる情報環境」を構築します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:東倉 洋一(国立情報学研究所 副所長・教授)

本研究領域の戦略目標は、ユビキタスネットワーク環境が日常生活のインフラになりつつある中、情報環境が人間と適応的、親和的かつ能動的に相互作用し、個人や社会に必要かつ最適な作用・効果を提供する人間調和型情報環境技術の実現を目指しています。

従来、情報環境技術は分野ごとに研究開発され、すでに応用に供されているものもありますが、人間との調和という視点からは十分とは言えません。この現状を打開し、個々の技術を人間との調和型技術に導くために、分野間の連携・融合・統合に積極的に取り組み、他分野の知識、理論や手法を生かす姿勢をもつものを募集しました。また、基礎研究指向の課題であっても情報環境に革新をもたらすものや、他の分野との連携・融合・統合によって大きく発展するポテンシャルをもつものは重視しました。

今回、上記方針に対して、大変広範囲にわたる提案をいただき、応募件数は96件に達しました。この中には、大変興味深い提案も多く、選考審査は困難を極めましたが、調和型情報環境の構築へのポテンシャルを多くもつものを優先し、最終的に上記の8件を採択しました。来年度も今回と同様な基本方針で募集する予定です。