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科学技術振興機構報 第669号

平成21年9月14日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報ポータル部)
URL http://www.jst.go.jp

低コストで高強度な炭素繊維強化アルミニウム基複合材料を製造する
技術の開発に成功

JST(理事長 北澤 宏一)はこのほど、独創的シーズ展開事業・委託開発の開発課題「炭素繊維強化アルミニウム基複合材料」の開発結果を成功と認定しました。

独創的シーズ展開事業・委託開発では、大学や公的研究機関などの研究成果で、特に開発リスクの高いものについて企業に開発費を支出して開発を委託し、実用化を図っています(平成21年度の課題公募は、既存事業を再編し新規事業A−STEPにて実施します。詳細情報 http://www.jst.go.jp/a-step/)。

本開発課題は、福井大学 大学院工学研究科 荻原 隆 教授の研究成果をもとに平成16年3月から平成21年3月にかけてサカイオーベックス株式会社(代表取締役社長 松木 伸太郎、本社住所 福井県福井市花堂中2−15−1、資本金 46億5504万円)に委託して、企業化開発(開発費 約2億9500万円)を進めていたものです。

現在、自動車などの輸送機の省燃費および二酸化炭素排出量削減のため、高強度かつ軽量の素材開発が重要な課題となっており、アルミニウム合金材料の利用が検討されています。しかし、アルミニウム自体の強度が鉄鋼材料に比べて低く、かつ高価であるため適用比率は低い水準にあります。

炭素繊維とアルミニウムの複合材料については、石油ピッチを原料とするピッチ系炭素繊維注1)を用いた材料が一部実用化されているものの高価であるため用途が限られています。一方、安価なポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維注2)を用いる複合材料については、熔融したアルミニウムとの複合化時に高温のアルミニウムと炭素繊維が界面反応を起こして炭素繊維が劣化し機械的強度が低下するという問題がありました。

本新技術は、PAN系炭素繊維の表面にアルミナセラミックス注3)膜を均一にコーティングし、その後に熔融させたアルミニウムとの複合材料を形成させる方法で、コーティングされたアルミナセラミックス膜(図1)が炭素繊維と溶融アルミニウムの接触を防止し、界面反応を抑えることにより、安価で高強度のアルミニウム基複合材料の製造に成功しました。

今回の製造法は、比較的安価なPAN系炭素繊維の束を解きほぐし(図2)、これにゾル−ゲルコーティング注4)を行うことで繊維表面への膜作製を容易にすることを特長としています。アルミナセラミックスのゾル−ゲルコーティング方法として、アルミニウムアルコキシド溶液に炭素繊維を浸漬する方法を用いることにより、安価に製造することが可能となりました。

本新技術により、軽量かつ高強度の炭素繊維強化アルミニウム基複合材料(図3)が安価に製造可能となるため、自動車用部品をはじめ風力、波力ブレード、一般産業機器などへの利用が期待されます。

本技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景) 自動車などの輸送機の省燃費および二酸化炭素排出量削減のため、高強度かつ軽量の素材開発が重要な課題となっていました。

金属アルミニウムの中に強化材として炭素繊維を用いた炭素繊維強化アルミニウム基複合材料は、高い機械的強度と優れた軽量性を持った素材です。

従来から石油ピッチを原料とするピッチ系炭素繊維を強化材とした炭素繊維強化アルミニウム基複合材料は実用化されていますが、高価であるため航空宇宙分野などの特定用途での使用に限られており、安価なPAN系炭素繊維を用いた複合材料の開発が望まれていました。

(内容) PAN系炭素繊維の表面にアルミナセラミックス膜を均一にコーティングし、その後に熔融させたアルミニウムと複合化させることで、PAN系炭素繊維強化アルミニウム基複合材料の製造に成功しました。

安価なPAN系炭素繊維を用いる複合材料については、アルミニウム含浸時に高温のアルミニウムと炭素繊維が界面反応を起こして炭化物が生成し、複合材料の強度が低下することなどが原因で実用化が困難でした。

この問題の解決策として、本技術ではPAN系炭素繊維の表面にアルミナセラミックス膜を均一にコーティングし、その後にアルミニウムを含浸させることで、コーティングされたアルミナセラミックス膜が炭素繊維と溶融アルミニウムの接触を防止することにより界面反応が抑止されて、高強度複合材料の製造が可能となりました。

これまでの炭素繊維の表面処理法として、CVD(化学気相析出法)・PVD(物理気相析出法)・電子線照射・スパッタリングなどでも均一なアルミナ膜のコーティングは可能ですが、いずれも連続化が困難であるため生産性が非常に低く、最終製品のコストが高くなるといった問題があります。

今回の製造方法では、比較的安価なPAN系炭素繊維に開繊処理を施すことで、繊維の束を解きほぐし、これにゾル−ゲルコーティングを行うことで繊維表面への膜作製を容易にすることを特長としています。アルミナセラミックスのゾル−ゲルコーティングには、アルミニウムアルコキシド溶液に炭素繊維を浸漬する方法を用いることにより安価に製造することが可能となりました。

(効果) 本技術により、軽量かつ高強度の炭素繊維強化アルミニウム基複合材料が安価に製造可能となります。

炭素繊維強化アルミニウム基複合材料は高い機械的強度と優れた軽量性を併せ持つと共に、熱膨張係数、熱伝導率面でも特長を有しており、本新技術により安価に製造可能となるため、自動車用部品だけでなく風力、波力ブレード、一般産業機器などへの利用が期待されます。

<参考図>

図1 X線マイクロアナライザーによる処理断面の比較(アルミナコーティング処理 複合材料断面、未処理 複合材料断面)

図1 X線マイクロアナライザーによる処理断面の比較

処理材料の炭素繊維外周にはコーティング膜(酸素原子)の存在が確認される。

図2 炭素繊維の束を解きほぐした炭素繊維開繊糸織物(枡目幅=8〜30mm)

図2 炭素繊維の束を解きほぐした炭素繊維開繊糸織物(枡目幅=8〜30mm)

図3 本新技術により作成した複合材料(Al/CF複合材料、Al/CF複合材料(管状))

図3 本新技術により作成した複合材料

<用語解説>

注1) ピッチ系炭素繊維
ピッチプリカーサー(コールタールまたは石油重質分を原料として得られる繊維)を炭素化して得られるもので、製法の諸条件で高弾性率の性質を出しやすく、熱伝導率や導電性の優れた性質を持ち、それらの性質を生かして宇宙用途などに使われています。繊維直径はPAN系よりやや太く、10〜20μm程度。価格面ではPAN系に比べて高価です。
注2) ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維
ポリアクリロニトリル繊維を炭素化して得られる炭素繊維です。ゴルフクラブ、テニスラケット、釣竿などといったCFRPに用いられています。ピッチ系に比べて高強度面に特徴があり、直径は5〜8μm程度で、長さ方向はほぼ無限長と言えます。炭素繊維の中では価格面で安価な部類に入ります。
注3) アルミナセラミックス
セラミックスとはアルミニウム酸化物を高温の熱処理によって焼き固めた焼結体です。本技術では炭素繊維に塗布したアルミニウムアルコキシドを過熱してアルミナセラミックスとしています。
注4) ゾル−ゲルコーティング
金属アルコキシドからなるゾルを加水分解・重縮合反応によって流動性を失ったゲルとし、このゲルを加熱して表面に薄い酸化物の膜を得る方法です。

開発を終了した課題の評価

<お問い合わせ先>

サカイオーベックス株式会社 テクニカルセンター
所長 竹林 久一(タケバヤシ ヒサイチ)
複合部材開発グループ 鈴木 秀武(スズキ ヒデタケ)
〒916-0141 福井県丹生郡越前町西田中20−16
Tel:0778-34-8680 Fax:0778-34-2012

独立行政法人 科学技術振興機構 イノベーション推進本部 戦略的イノベーション推進部
三原 真一(ミハラ シンイチ)、高橋 誠(タカハシ マコト)
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8995 Fax:03-5214-8999