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資料2

平成21年度 戦略的創造研究推進事業(さきがけ)
新規採択研究者および研究課題概要

戦略目標:「プロセスインテグレーションによる次世代ナノシステムの創製」
研究領域:「ナノシステムと機能創発」
研究総括:長田 義仁 ((独)理化学研究所 基幹研究所 副所長)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究型 研究
期間
研究課題概要
一木 正聡 東京大学 大学院工学系研究科 准教授 ナノ格子制御による薄膜キャパシタ構造の作製と剥離・転写・接合によるナノ電子部品用実装技術の確立 通常型 3年 ナノレベルでの高度な結晶格子の構造制御により、ナノキャパシタ、圧電薄膜などのナノ電子部品を高密度に製作・集積化し、次世代エレクトロニクスデバイス向けナノ実装技術の基盤技術の確立を目標とします。本研究では、ナノ格子の結晶整合/不整合性を活用して、基本構造の結晶成長を実現し、フィルムベースの常温接合技術のためのナノ表面機構を明らかにします。さらに、実装プロセス技術としてのシステム化・装置化を図ることで従来は不可能であった高性能ナノ電子部品の内蔵実装を実現します。
木戸秋 悟 九州大学 先導物質化学研究所 教授 細胞運動・機能を操作するナノ・マイクロメカニカルシステムの構築 通常型 3年 細胞は、それらが接着した材料表面上の硬い領域に向かって移動するメカノタクシスと呼ばれる走行性を示します。本研究では、細胞を培養する際の人工材料の表面に、硬い領域や軟らかい領域の分布を精密設計することで、細胞の運動方向や、細胞が定住する領域をコントロールする最適化技術を開発します。材料の微視的力学場の設計によるメカノタクシスの自在な制御に基づいて、細胞機能の新しいベクトル操作材料の構築を目指します。
木村 建次郎 神戸大学 大学院理学研究科 講師 ナノシステムの大規模集積化に向けた高速電子線露光法の開発 通常型 3年 極限微細化技術において、電子線露光の高速化は最も重要な研究課題です。従来の“一筆書き電子線露光法”では多大な時間とコストを要し、量産には向きません。本研究では、「電子の短波長性」と「電子線の軌道制御性の良さ」を最大限に生かした量産型の高速電子線露光装置の開発を目指します。
齊藤 健二 東京理科大学 理学部 助教 ナノ細線状半導体光触媒システムの開発 通常型 3年 本研究では、水分解または犠牲試薬存在下で水素や酸素生成反応に活性を示す粉末光触媒の高機能化法の確立を目指し、金属錯体を基盤とした合成法を適用して種々の構成元素からなるナノ細線状半導体光触媒群を創製します。本合成法の汎用性を明らかにするだけでなく、ナノワイヤーの高次組織化過程を理解することで、光触媒反応に有利な機能の創発を実現します。
白幡 直人 (独)物質・材料研究機構 ナノセラミックスセンター 主任研究員 制御された単分子/環境半導体ナノ構造を素材とした発光素子創製 大挑戦型 3年 環境低負荷型半導体内部での励起キャリアの三次元的な量子閉じ込めと高密度有機単分子被覆を技術融合した液相プロセスに基づき、紫外-可視域の各波長帯において高輝度に発光する「単分子/半導体」ナノ構造体を合成します。さらに、当該発光体を素材とした発光素子構造を半導体微細加工技術により構築し、環境負荷が低く、低コストのナノフォトニクスデバイス創製を目指します。
高見澤 淳 首都大学東京 理工学研究科 特任助教 ナノ構造を利用した高感度質量分析総合システムの開発 通常型 3年 質量分析分野における高感度なイオン化技術の開発は生体試料の微量質量分析を行う上で避けることのできない重要課題であり、現在試料基盤としてさまざまなナノ構造が積極的に利用され始めています。本研究では、これらのナノドメインの空間特異性や階層構造を理解しながらドメイン内部・界面を利用したイオン化試薬の合成や高感度イオン化法の開発を行い、測定スループットの向上と生体微量代謝物への適用を目指します。
田中 秀明 大阪大学 蛋白質研究所 助教 生体粒子vaultの立体構造情報を基盤とした新規DDSの戦略的開発 通常型 3年 病気の治療に使われる薬剤は時として両刃の剣となり、副作用によって患者さんを苦しめてしまうことがあります。こうした問題の解決策の1つとして薬剤を目的とする場所に必要な量だけ運搬するドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発が注目されています。本研究では、生体内に存在する巨大なカプセル粒子vaultを利用したDDSを立体構造情報に基づいて戦略的に開発し、DDS開発における新たなモデルケースを確立します。
豊田 太郎 千葉大学 大学院工学研究科 助教 分子デザインによるリピッド・ワールドの創発 通常型 5年 細胞がソフト界面の自己組織化に基づいてダイナミクスを創発するという観点から分子をデザインし、両親媒性分子の自己集合体の自己増殖、自律遊走、分子コミュニケーションという3つのダイナミクスを示す化学反応システムを創り、リピッド・ワールドという原始細胞モデルの創発を目指します。微細加工技術や界面選択的分光技術でこれらダイナミクスを計測して作動原理を解明することで、指向的な化学進化モデルを提唱します。
内藤 昌信 奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科 助教 NanoからMicroへの精密自己組織化で拓く円偏光有機レーザーの創製 通常型 3年 Nanoの分子素子をMicronまで精密・正確にボトムアップし、トップダウン加工技術と融合するための手法として、分子認識・自己組織化・クリックケミストリーを駆使した「超分子クリック重合」の確立を目指します。強円偏光発光分子をマクロモノマー化した後、超分子クリック重合によりナノプレハブ集積化し、無欠陥の円偏光発光性Micron膜を創製することで、多波長発光・偏光可変型の有機円偏光レインボーレーザを実現します。
永野 修作 名古屋大学 大学院工学研究科 助教 高分子ナノマテリアルの光アクティブ制御と機能探索 通常型 3年 ブロック共重合体薄膜は、高分子1つ分の大きさに相当するようなメゾスコピック(ナノよりひとまわり大きい)スケールの相分離構造を形成します。本研究では、この相分離構造の配向(向きや方向)を、光の照射だけで自在に操る技術を確立し、ナノ粒子などのナノ材料のテンプレートとして用いることで、従来のナノテクノロジーの概念にない “アクティブ”にナノ構造が動く高分子ナノマテリアルを創出します。
平野 愛弓 東北大学 大学院医工学研究科 准教授 ナノ形状設計に基づく人工神経細胞膜センサーの創製と機能発現 通常型 3年 本研究では、細胞膜を模した脂質二分子膜(人工細胞膜)を半導体加工技術との融合により構築し、神経伝達物質レセプターチャネルを膜中に埋め込むことにより、人工神経細胞膜センサーを創製します。ナノメートルスケールで形状を制御した微細孔を作製し、その中で脂質二分子膜を形成することにより人工細胞膜の安定化を行い、安定化二分子膜を用いたイオンチャネルセンサーやアレイを構築し、薬物スクリーニングなどへの応用を目指します。
廣畑 貴文 ヨーク大学 電気学科 講師 ナノ・スピンモーターの開発 通常型 5年 現在のナノロボティクスにおいて、重要な課題である高効率で微細化された駆動系の組み込みの解決策として、本研究では電子スピンを利用したスピンモーターの開発を行います。具体的には、金属磁性体研究と半導体研究に関する知見を駆使し、ナノスケール永久磁石の電気的制御によるナノモーターを実現しようとするものであり、将来のナノシステム作製における非常に重要な基幹技術となると期待されます。
山西 陽子 東北大学 大学院工学研究科 助教 ナノ電気メスによる高精度細胞センシング・加工システム 通常型 3年 本研究では、ナノスケールの高周波電気メスを製作し、ナノスケールの細胞加工技術を構築します。銀ナノワイヤを電気メスとして使用し、銀ナノワイヤ表面の導電性を自己組織化膜によって絶縁し、細胞センシングを行います。トップダウンからボトムアップの要素が融合し、マイクロからナノオーダーにわたる大きなダイナミックレンジで革新的低侵襲細胞加工技術を確立し、遺伝子工学や発生工学などの分野の発展に大きく貢献します。
横山 英明 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 准教授 ブロックコポリマーテンプレートによる3次元ナノパーツの創成 通常型 3年 ブロックコポリマーの自己組織化は古くから知られ、ラメラ・ジャイロイド・シリンダー・球のドメインを周期構造とする相分離構造を形成します。本研究では、超臨界二酸化炭素中で、自己組織化したブロックコポリマーの構造を膨潤させることにより構造転移を誘起し、減圧により二酸化炭素を除去することで、さまざまな「形」を持ったポリマーナノパーツを創出し、新しいボトムアップ加工技術の基盤を提供します。
和田 章 (独)理化学研究所 基幹研究所 研究員 創発的機能制御性ペプチドアプタマーの創成 通常型 3年 人工配位子化アミノ酸-tRNAと無細胞蛋白質翻訳系を利用した新規リボソーム・ディスプレイ法を開発し、金属イオンとの錯体形成により金属材料との結合性を制御する「金属結合制御性ペプチドアプタマー」を選択します。さらに、種々のサイトカインと融合したペプチドアプタマーの自己集積化制御システムの構築と利用により、金属イオンに応答してサイトカインを徐放し、細胞機能を誘導する新規金属系バイオマテリアルを創製します。

(五十音順に掲載)

<研究総括総評> 長田 義仁 ((独)理化学研究所 基幹研究所 副所長)

本研究領域は、独創的な発想の下に、バイオ・分子科学、医用工学などのボトムアップ手法と微細加工、電子工学、知能情報工学などのトップダウン手法との融合を図ることにより、次世代高次機能を創発するナノシステム、たとえば、自己組織性分子システム、三次元加工プロセス、センシング・運動ナノデバイスなどの構築と実現を目指す挑戦的な研究を対象としています。これらの研究を進めるため本年も3年型と5年型の研究を公募しました。さらに、希望する応募者については今年から始まった「大挑戦型」研究についても審査を行いました。

本年度は、さまざまな分野の研究者から合計177件(3年型146件、5年型31件)もの応募がありました。これは昨年のほぼ2倍であり、本研究領域が科学の進むべき方向を的確に捉えているだけでなく、数多くの若手研究者の要望に応え、広く注目されていることの表れであると思います。

選考に当たっては、応募課題の利害関係者の関与を避け、他制度の助成金なども留意し、公平、厳正に行いました。提案数が多かったため、12名の領域アドバイザーの他に7名の外部評価委員の方々のご協力を得て書類選考を行ないました。「さきがけ」プログラムの趣旨にあるように、若手研究者らしい独自のそして挑戦的発想に基づく研究提案であるかどうかを重視しました。このような観点から審査した結果、研究提案44件(3年型36件、5年型8件)を面接対象としました。

そして面接選考に際しては、提案者自身の着想による独自の挑戦的な内容であるかどうかに加えて、研究内容の科学性・発展性、提案者の問題意識と研究環境など、多面的な要素を公平かつ厳正に検討して審査しました。その結果、14件(3年型12件、5年型2件)の提案を「通常型」研究として採択するに至りました。これらはいずれも上記の観点を満たし、新しい着想と意欲にみちた課題であると考えています。さらに、14件を除いた30件の中から、極めて創造性豊かで研究目標が達成された際の波及効果が大きいもの2件を「大挑戦型」研究に推薦したところ、1件が採択となりました。

不採択課題の中にも極めて挑戦的・意欲的で優れた提案もありましたが、採択数に限りがあるため残念ながら採択できませんでした。また、オリジナリティが明確でない、研究実施計画が十分に練られていない、最終目標へ至る過程が十分検討されていない、他の手段との比較が不十分である、アイデアは良いが科学的な検討が不足している、などの理由で採択には至らなかった提案もありました。これらの提案者には今回の問題点を踏まえて提案を練り直し、再度さきがけに挑戦するよう助言したいと思います。

なお、来年度も「ナノシステムと機能創発」領域の研究提案を募集しますので、多様な分野の若手研究者の方がオリジナルな発想をもとに挑戦的で夢多い提案をして頂くことを期待しています。