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研究成果最適移転事業成果育成プログラムC(プレベンチャー)

平成12年度採択課題事後評価報告書


平成16年3月
研究成果最適移転事業成果育成プログラムC(プレベンチャー)評価委員会


4. 研究開発課題の個別評価
(3)高性能ポリシリコン薄膜
リーダー :三宅 正司(大阪大学接合科学研究所 教授)
サブリーダー :江部 明憲

1 )) 研究開発の概要
 高密度・低損傷プラズマ技術により、結晶構造を制御したポリシリコン薄膜の大型ガラス基板への形成(マザーシートの作成)技術の研究開発を行う。フラットパネルディスプレイ等への応用など、各種デバイスへの利用が期待される。

2 )) 事後評価内容
A)成果
 ポリシリコン薄膜の製造に適した新方式プラズマ技術を開発し、ポリシリコン薄膜の結晶化度を初期の目標値まで高めることができ、成膜速度も従来法に比べ約7倍も大きくすることができた。開発目標より大きい1m級のガラス基板に対応できるプラズマ発生装置を作製し、これを用いて400℃以下の低温で面内均一性の高い薄膜を製造することができた。また、歩留まり低下の原因となるパーティクル発生を抑制する技術を開発し、装置メンテなしで50枚連続製膜という量産を行っていくための要素技術を確立した。これらの成果をもとに、有限会社イー・エム・ディーを設立した。
特許出願数:4件(研究開発終了時点)
B)評価
計画の達成度 :研究開発は順調に進み大型プラズマ生成装置も完成しポリシリコンマザーシート製造を事業化する目処がついたが、品質の均一性、量産性や信頼性など生産技術面での課題が一部残った。
知的財産権 :ポリシリコンマザーシート製造技術については確保できた。今後は周辺特許、製品関連など今後ベンチャーを継続するための更なる出願が必要である。
起業化計画 :概ね妥当である。しかし競争の激しい業界であり、これに遅れをとらないためには、新たな応用分野や市場の開拓など積極的な営業活動をおこなう主体的な会社経営をする必要がある。
新産業創出 :次世代の超薄型平面テレビとして注目されているフィールド・エミッションディスプレイ(FED)の製造やプラズマディスプレイ(PDP)、エレクトロルミネッセンス(EL)等の分野における低温機能膜に必要となる基盤材料および技術であり、新産業創出の期待度は高い。
総合・その他 :新方式のプラズマ生成技術を完成させポリシリコンマザーシート製造技術開発も順調であり、新会社のコアとなるものはできている。今後は、ライセンス供与先との共同開発による開発資金調達、フラットパネルディスプレイ(FPD)生産ラインを持つメーカーとの提携による量産化体制の整備など、協力会社との強力な連携が不可欠である。その際には単なるライセンス供与に留まらず、積極的にイニシアチブを握った事業運営を期待する。


(4)カオス符号分割多元接続通信用チップ
リーダー :梅野 健(独立行政法人通信総合研究所 主任研究員)
サブリーダー :高 明慧

1 )) 研究開発の概要
 カオス理論を符号分割多元接続(CDMA)通信システムに導入した通信チップの開発を行う。通信の信頼性向上や回線数の拡大が可能となる。次世代携帯電話端末用チップセットなど、通信分野への利用が期待される。

2 )) 事後評価内容
A)成果
 CDMAの拡散符号としてカオス符号を利用し、LSF(Lebesgue Spectrum Filter)導入とチャネル間非同期化により、干渉雑音を低く抑え、IMT2000のW-CDMAシステムと比較して、同一ビット誤り率下でユーザー数が25%増加するカオスCDMA通信方法を世界に先駆けて開発した。カオスCDMAの送信部及び受信部をFPGAによってLSI化を達成した。カオス拡散符号をLSIに実装するにあたっては、固定小数演算にビットハーネシングの方法を用いることによって1Gbit/secのデジタルカオス発生を実現した。これらの成果をもとに、株式会社カオスウェアを設立した。
特許出願数:7件(研究開発終了時点)
B)評価
計画の達成度 :カオスCDMAのFPGAによるLSI化とそのパフォーマンスの実証試験に成功し、当初の計画通りの成果を達成すると共に、現行のW-CDMAの改良方式も提案し、ユーザ数増加の検証も実施した。
知的財産権 :研究開発期間中に基本技術に関して新たに7件が国内外に出願されており、十分確保されている。
起業化計画 :2010年の第4世代移動体通信方式の実用化までの当面は他の製品販売などを手がける計画とするなど手堅い事業設計となっているが、既に市場が大きく立ち上がっている無線通信網へのチャレンジングな参入であること、官業系の大手機関がユーザとなる点等を踏まえて、事業化計画について適切な専門家からのアドバイスを受けるべきである。
新産業創出 :我が国発の技術が通信分野で標準となる事例のさきがけとして、本件成果が標準化される、または通信事業者等に利用されデファクト化するならば、我が国の今後の展開としても貴重な成果となりうるものである。
総合・その他 :革新的な技術として特許も多く出願され研究としては計画通りの高い成果が出ているが、今後はビジネスとして、標準化に入り込むための注力を惜しまず、経営組織をより強化にした上で世界にアピールするには何が必要か明確なフォーカスが望まれる。

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