平成18年度に開始した研究開発課題「金磁性ナノ粒子をコア技術とする医療・診断・分析ツールの実用化」(開発代表者:清野 智史 大阪大学 大学院工学研究科 講師)では、大阪大学大学院工学研究科の研究者が同校 薬学研究科との共同研究によって、バイオテクノロジー分野に用いる金磁性ナノ粒子注1)の開発に成功しました。また、この成果をもとに平成21年5月1日、メンバーらが出資して「株式会社アクト・ノンパレル」を設立しました。
本研究者らが独自開発した金磁性ナノ粒子(図1)は、磁性酸化鉄ナノ粒子表面に金ナノ粒子が高密度に担持された構造をしています。金部位に抗体・DNA・ウイルスベクターなどの生体分子を簡便かつ高感度に固定化できるので、免疫沈降注2)・DNA精製・遺伝子導入補助などに簡便・安価に使える磁気ビーズ注3)として利用可能です。従来品はカルボキシル基やアミノ基を利用して生体分子を固定化していますが、金を用いることで、抗体やウイルスベクターを混合するだけで磁気ビーズ表面に簡便に固定化できます。また、特定の生体分子とメルカプト基(SH基)との強い相互作用を利用することもできるので、機能性や操作性、汎用性などの面で従来の磁気ビーズを超えた製品を提供できます(図2)。今後、同社は特にナノバイオロジー分野において、医薬研究・分子生物学・生化学などの生命科学研究のキーとなる研究ツールを提供することで、高度医療の実現に寄与していきます。
今回の「株式会社アクト・ノンパレル」設立により、プレベンチャー企業および大学発ベンチャー創出推進によって設立したベンチャー企業数は、93社となりました。
独創的シーズ展開事業 大学発ベンチャー創出推進
研究開発課題 | : | 「金磁性ナノ粒子をコア技術とする医療・診断・分析ツールの実用化」 |
開発代表者 | : | 清野 智史(大阪大学 大学院工学研究科 講師) |
研究開発期間 | : | 平成18~20年 |
<開発の背景>
近年、ミクロンサイズの市販磁気ビーズを用いた生体分子の分離技術が、ゲノミクス注4)・プロテオミクス注5)のツールとして利用されており、より高感度・高選択性を有する磁気ビーズの開発が期待されています。今回開発を目指した金磁性ナノ粒子は、磁性酸化鉄ナノ粒子の表面に粒径数ナノメートルの金ナノ粒子を多数担持された構造です。この磁性酸化鉄ナノ粒子上に担持させた金粒子を生体分子結合タグとして用いる技術を応用し、医薬研究・分子生物学・生化学などの生命科学研究に極めて有用な研究ツールを提供することを目的としました。
<研究開発の内容>
磁気ビーズを種々の機能性分子で機能化する際に、金ナノ粒子部位を利用できるのが最大の特徴です。ナノサイズの金とそれに由来する高比表面積を利用することによって、市販の磁気ビーズと比較して優位な、以下の2種類の高機能化手法が適用可能となりました。
- 目的生体分子と混合するだけのシンプルな手法で、抗体やウイルスベクターを固定化できる。
- Au-S結合注6)により、特定生体分子を選択的かつ強固に固定化できる。




<今後の事業展開>
磁気分離試薬/精製試薬、
遺伝子導入補助試薬については、基本的な開発を終えており、市場に投入する予定です。今後は、ユーザーの使用用途に合わせた粒子のカスタマイズを行う予定です。
また、磁気イムノクロマトキット、
MRI造影剤については、今後も市場投入に向けて継続的に開発を行っていく予定です。市場投入の時期については、磁気イムノクロマトキットは3年後、MRI造影剤は5年後の投入を目指し、開発を進めています。
<参考図>

図1 開発した金磁性ナノ粒子の概略

図2 金磁性ナノ粒子を用いた製品
(上)磁気分離用途、(中)遺伝子導入補助試薬、(下)磁気イムノクロマト検査<用語説明>
注1)金磁性ナノ粒子
磁性酸化鉄ナノ粒子表面に金ナノ粒子を多数担持した複合ナノ粒子。磁性酸化鉄と金の両方の性質を併せ持つ。用途に応じて、磁性粒子径や水溶液中での分散性などを適宜制御して提供することが可能である。
注2)免疫沈降
抗体を結合させておいた磁気ビーズに、標的抗原を反応させることで、標的抗原を特異的に分離・検出する生化学の実験手法。磁気ビーズを用いることで、外部磁場により標的抗原を迅速かつ簡便に分離することができる。
注3)磁気ビーズ
表面に核酸・抗体・細胞などを結合させ、外部磁場による分離、回収、誘導操作を行うことができる粒子。既存の磁気ビーズは1~数十μmとサイズが大きく、表面に結合できる生体分子量に限りがある。また結合させる生体分子ごとに粒子表面を設計しなければならなく、汎用性に欠ける。
注4)ゲノミクス
ゲノムと遺伝子について研究する生命科学の1分野。ゲノム情報をシステマティックに取り扱う。さまざまな生物種のゲノムを比較することで、進化の解明を試みる比較ゲノミクスや、RNAiなどによる遺伝子阻害から、全体論的な機構解明を行う機能ゲノミクスなどがある。
注5)プロテオミクス
複数の生物学的な系の間でたんぱく質を比較することにより、生命現象を総合的に理解することが可能となるが、これらたんぱく質の解析をプロテオミクスと言う。例えばがん細胞と正常細胞のたんぱく質を比較することが、がん化の原因や治療方法を研究することに用いられる。
注6)Au-S結合
金はチオール(-SH)やジスルフィド(-SS-)と選択的に強く結合する。即ち、金磁性粒子の金部位をさまざまな生体分子や機能性分子に対する汎用的なタグとして利用できる。
<本件お問い合わせ先>
株式会社 アクト・ノンパレル
〒565-8107 大阪府吹田市山田丘2-1 大阪大学US1棟508号室
清野 智史(セイノ サトシ)、樋口 堅太(ヒグチ ケンタ)
Tel:06-6877-2953 Fax:06-6879-7887
E-mail:
独立行政法人 科学技術振興機構 イノベーション推進本部 戦略的イノベーション推進部
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
浅野 保(アサノ タモツ)、下田 修(シモダ オサム)
Tel:03-5214-0016 Fax:03-5214-0017