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科学技術振興機構報 第642号

平成21年6月8日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報ポータル部)
URL http://www.jst.go.jp

インフルエンザ関連研究の拡大について

 JST(理事長 北澤 宏一)は、新型インフルエンザ[インフルエンザA(H1N1)]の発生とその後の世界各地における流行・感染の拡大という状況を踏まえ、戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究「河岡感染宿主応答ネットワークプロジェクト」(以下、「ERATO河岡感染宿主応答ネットワークプロジェクト」)および「インフルエンザウイルスライブラリーを活用した抗体作出及び創薬応用に向けた基盤研究」を対象として、インフルエンザ関連研究を拡大することとしました。

1.趣旨

 本年4月に発生した新型インフルエンザ[インフルエンザA(H1N1)]は、日本を含む世界各地において流行・感染が拡大しました。
 新型インフルエンザウイルスは、これまで人に感染しなかったインフルエンザウイルスが人に、そして人から人へと感染するように変異したものです。人は新型インフルエンザウイルスに対する抗体を持っていないため、その出現は世界規模での大流行(パンデミック)を引き起こし、1918年に始まったスペイン風邪(H1N1)や1957年のアジア風邪(H2N2)、1968年の香港風邪(H3N3)のように甚大な被害をもたらす可能性があります。また、仮に新型インフルエンザウイルスの人に対する病原性が現時点で高くないとしても、人に感染を繰り返すと、高い病原性を獲得する可能性があります。さらに渡航制限や学校の臨時休校など社会に及ぼす影響は多大です。
 このようなことから、今回のインフルエンザA(H1N1)に限らない、今後、新たに出現し得る新型インフルエンザウイルスに対する基礎的な理解や予防・治療のための基盤創出に資する研究の推進は喫緊です。このため、JSTは、インフルエンザ関連研究を拡大して推進することとしました。

2.研究内容

 現在、JSTの事業において実施中あるいは終了後間もないインフルエンザ関連研究のうち、現在流行している新型インフルエンザ[インフルエンザA(H1N1)]および今後発生・流行の可能性がある新たな新型インフルエンザに対応した下記の基礎研究を対象として、研究を拡大します。

(1)「ERATO河岡感染宿主応答ネットワークプロジェクト」の拡充
研究総括 河岡 義裕(東京大学医科学研究所 教授)
研究期間 平成21年6月〜平成26年3月
(「ERATO河岡感染宿主応答ネットワークプロジェクト」の研究期間)
研究費(増額分) 5億4000万円
戦略目標 生命システムの動作原理の解明と活用のための基盤技術の創出

 「ERATO河岡感染宿主応答ネットワークプロジェクト」では宿主におけるウイルス感染に起因する応答を分子、細胞(細胞内でのウイルス増殖のモデル化を含む)、個体レベルで網羅的に解析することを研究課題の1つとしています。今回、対象とするウイルスを新型インフルエンザ[インフルエンザA(H1N1)]に、また、モデル化の対象を新型インフルエンザウイルスの出現機構であるリアソータント* などに拡大するとともにウイルス遺伝子のリアソートメント* および変異情報の取得を加速して、宿主内でのインフルエンザウイルスの病原性獲得機構の理解を目指します。新型インフルエンザの出現機構などのメカニズムを探求する本研究は、将来的な新型インフルエンザ出現によるパンデミック発生阻止やパンデミック発生時の危機管理対策に資するものと期待されます。
 具体的な研究内容は以下の通りです。

(a)新型インフルエンザ[インフルエンザA(H1N1)]の宿主応答解析
 今後、行われると考えられる新型インフルエンザ[インフルエンザA(H1N1)]に対応したワクチンや治療薬開発においては、同ウイルスの情報を把握することが有効であると考えられます。特に、季節性インフルエンザではハイリスクグループとならない若年層で感染後の重症化がみられるなど宿主応答に特異的な性質を有している可能性があるため、宿主応答が重要な情報となり得ます。このため、「ERATO河岡感染宿主応答ネットワークプロジェクト」において新型インフルエンザ[インフルエンザA(H1N1)]を対象とした宿主応答解析を実施します。

(b)宿主内におけるインフルエンザウイルスの病原性獲得機構の理解
 新型インフルエンザ[インフルエンザA(H1N1)]は、遺伝子解析からヒト由来・ブタ由来・トリ由来の4種類のH1N1インフルエンザウイルスのリアソータントであり、また、1957年のアジア風邪(H2N2)、1968年の香港風邪(H3N2)もリアソータントによるものです。さらに、1918年・1919年に流行したスペイン風邪(H1N1)の場合、人での感染を繰り返す間に変異が導入され、流行の第2波以降で人に対して高い病原性を示すようになりました。このように、宿主内におけるウイルス遺伝子のリアソートメントと変異は新型インフルエンザウイルス出現の重要な要因の1つであり、その機構を理解することは新型インフルエンザウイルス出現防止技術確立のための重要な一歩です。

*)リアソータント、リアソートメント
 インフルエンザウイルスは8本の遺伝子を持っており、同じ個体に2種類以上の異なるインフルエンザウイルスが同時に感染したとき、ウイルス同士の遺伝子の一部が入れ替わる場合があります(遺伝子再集合:リアソートメント)。リアソートメントの結果生まれた新たなウイルスをリアソータント(リアソータント・ウイルス)といいます。今回メキシコで発生した新型インフルエンザ[インフルエンザA(H1N1)]ウイルスは、遺伝子解析からヒト由来・ブタ由来・トリ由来の4種類のインフルエンザウイルスのリアソータントであり、これまではヒトやブタで分離されていなかった新型であることが判明しています。

図1

(2)インフルエンザウイルスライブラリーを活用した抗体作出及び創薬応用に向けた基盤研究
研究代表者 喜田 宏(北海道大学 大学院獣医学研究科教授、同校 人獣共通感染症リサーチセンター センター長)
研究期間 平成21年6月〜平成24年3月
研究費 1億4000万円
戦略目標 生命システムの動作原理の解明と活用のための基盤技術の創出

 一部の亜型のみを対象とした地域イノベーション創出総合支援事業(育成研究)の研究成果をより多くの亜型に拡大し、次期新型インフルエンザウイルスが出現した際に治療薬等の開発に活用できるモノクローナル抗体を迅速に提供できるようにするために「抗体ライブラリー」を構築するとともに、同ライブラリーを創薬に応用するための基盤を確立します。詳細な研究内容は以下の通りです。
 インフルエンザウイルスにはA、B、Cの「型」があり、インフルエンザAウイルスはさらに「亜型」に分類されます。具体的には、インフルエンザAウイルスにはHAとNAの亜型の組み合わせがあり、144通りの亜型が存在しえます。今回の新型インフルエンザウイルスの亜型はH1N1でしたが、今後、これとは別の亜型の新型インフルエンザウイルスが出現する可能性があり、これを特定することができません。このため、次期新型インフルエンザウイルスが出現した際に、治療薬などの開発に活用できるモノクローナル抗体を迅速に提供できるようにするために「抗体ライブラリー」の構築を目指します。
 代表研究者らは、初めて全144通りの亜型のウイルスライブラリー化を実現していることから、これを活用して各亜型ウイルスに対応したモノクローナル抗体を作成します。また、バイオインフォマティクス技術を用いて将来起こりうる抗原変異を予測し、変異ウイルスにも対応できる抗体も作成します。さらに、作成した抗体の治療などへの効果を動物実験により確認し、同ライブラリーを創薬に応用するための基盤を確立することも目指します。
図2

3.経緯

 「ERATO河岡感染宿主応答ネットワークプロジェクトの拡充」および「インフルエンザウイルスライブラリーを活用した抗体作出及び創薬応用に向けた基盤研究」の研究計画書について外部有識者から構成される委員会によりレビューを受けた結果、両研究に対し「研究を拡大することは妥当である」と評価されました。これを受け、JST研究主監会議において研究拡大が承認され、平成21年6月より実施することと決定しました。

<参考資料>

資料1:インフルエンザ関連基礎研究拡大 レビュー委員会
資料2:選考の視点
参 考:本研究強化に関連するインフルエンザ関連基礎研究課題

<本件お問い合わせ先>

独立行政法人 科学技術振興機構 イノベーション推進本部 研究プロジェクト推進部
小林 正(コバヤシ タダシ)
〒102-0075 東京都千代田区三番町5 三番町ビル
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