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科学技術振興機構報 第639号

平成21年5月28日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報ポータル部)
URL http://www.jst.go.jp

カドミウムを除去する新規育種植物の開発に成功

−汚染土壌浄化に有望−

 JST(理事長 北澤 宏一)はこのほど、独創的シーズ展開事業・委託開発の開発課題「新規育種植物による土壌汚染浄化技術」の開発結果を成功と認定しました。
 独創的シーズ展開事業・委託開発では、大学や公的研究機関などの研究成果で、特に開発リスクの高いものについて企業に開発費を支出して開発を委託し、実用化を図っています。(平成21年度の課題公募は、既存事業を再編し新規事業A-STEPにて実施します。詳細情報 http://www.jst.go.jp/a-step/
 本開発課題は、独立行政法人 産業技術総合研究所 主任研究員 飯村 洋介の研究成果をもとに、平成15年3月から平成21年2月にかけて株式会社 小泉(代表取締役社長 長坂 紘司、本社 東京都杉並区荻窪4丁目32番5号、資本金9,800万円)に委託して、企業化開発(開発費約2億4,000万円)を進めていたものです。
 典型7公害の1つとして知られる土壌汚染は、有害物質を扱っていた工場跡地を住宅地に転用する際の調査で多くが発見され、その汚染物質は有害重金属から揮発性有機塩素化合物や農薬まで多岐にわたります。その対策法として掘削搬出・洗浄除去が行われていますが、その膨大な処理費用、除去された土壌の運搬・最終処分方法など、解決すべき課題が多いことからも、オンサイト処理法注1)が望まれています。
 本新技術では、オンサイト処理法の1つであるファイトレメディエーション注2)に注目し、イタイイタイ病や汚染米などで知られる有害重金属のカドミウムを処理対象物質として、品種改良技術により土壌からカドミウムを効率よく処理できる植物を開発しました(図1)。本新技術では、20種類の候補植物から絞り込んだマリーゴールド2品種について選抜・育種を進め、形質を固定した花粉親株を選抜しました。また、雄性不稔株注3)の作出技術を確立し、花粉親株との掛け合わせなどの交配技術により生育速度が大きく、重金属吸収能と耐環境性の高い新品種を作出しました。これらは、在来品種の1.5〜2倍のカドミウム吸収能力を持つだけでなく、他の主な重金属も同等以上に吸収する能力を有しています。この2品種のうち1品種をすでに新品種として農林水産省に品種登録出願すると共に、汚染土壌への育苗栽培方法については特許出願を行いました。
 本新技術による土壌浄化技術は、さらにバイオレメディエーション注4)などの技術との組み合わせにより環境への負荷を軽減しつつ、景観や地域環境に配慮した効率的かつ安価なオンサイト処理手段として、幅広く用いられることが期待されます。

 本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景) 汚染土壌の浄化方法として、従来の物理化学的除去方法ではない安価で環境負荷の少ない処理方法が望まれています。

 現在、汚染土壌の浄化方法として掘削搬出・洗浄除去などの物理化学的方法が多く用いられています。その理由として、この方法では迅速かつ確実な除去ができることから、特に土地取引などでの早急な除去が求められる場合において、その有効性が認められています。
 しかし、この方法を用いた場合、有害汚染物質の除去に関わる費用は極めて高く、環境面からも作業運搬中の騒音・振動・排気ガスの問題、運搬や最終処分時の汚染の拡散などの問題があります。また、掘削除去のための重機や機材の搬入が困難な場所への適用は難しいなどの課題も残されています。
 このような、現状の土壌汚染浄化処理における諸問題を解決する方法のひとつとして、オンサイトにおける安価で環境負荷の小さい汚染処理技術の開発が望まれています。

(内容) 主にカドミウムを対象とした重金属汚染土壌の浄化植物として、育種技術によるマリーゴールド新品種の開発と、同汚染土壌への育苗栽培方法に関して最適な手法を開発しました。

 本新技術では、重金属汚染土壌からカドミウムを効率よく吸収する植物としてキク科・マリーゴールドを選抜し、さらに7世代にわたる交配により品種改良を進め、カドミウムの吸収量を向上させた新品種を開発しました(図2)。そして、これら新品種のカドミウム吸収能力は在来品種の1.5〜2倍を有しており、高濃度汚染地を想定した模擬汚染土壌でもその生育に支障がなく、十分にカドミウムを吸収できる品種であることを確認しました。また、他の重金属(鉛、亜鉛、マンガンなど)に対しても従来品種と同等もしくはそれ以上に吸収する能力を有していることが分かりました。
 また、汚染土壌において植物を栽培する場合には、重金属によって生育阻害の影響を受けるためその育種栽培方法が課題となりました。特に、植物の成長が活発な時には最も生育阻害の影響を受けやすいため、播種から育苗、栽培法についてさまざまな検討を行い、最良な方法を開発しました。この開発した育苗栽培方法により、活着率注5)の低下の問題を解決し、重金属の吸収率を上げることができました。

(効果) 汚染土壌に対して、安価で自然に優しい手法であるファイトレメディエーションによる浄化の促進が期待されます。

 本新技術により、重金属汚染土壌に対してカドミウムを効率よく吸収できるマリーゴールド新品種を適用すると共に、開発で培ってきた育種技術により、同マリーゴールドのさらなる品種改良による能力向上、並びに土壌の汚染状況に応じたマリーゴールド以外の他の植物や品種に対する新品種の開発が期待できます。同様に育苗栽培方法も本開発が基盤となり、適宜改良されていくものと考えられます。
 このようなファイトレメディエーション技術は、植物や太陽光、二酸化炭素などを用いるため、自然環境に調和したものであり、2次汚染などの心配もありません。同時に、二酸化炭素の削減にも寄与できるクリーンな技術であるため、局地的な環境修復だけでなく、地球全体への環境保全に役立つ手法であると考えます。今後、汚染土壌を浄化するオンサイト処理法として普及していくと期待されます。

開発を終了した課題の評価

<用語解説>

注1)オンサイト処理法
 重金属やその他有害汚染物質によって汚染された現場で土壌浄化処理を行い、他の場所に汚染物質(土壌)を持ち出さない処理方法をいう。原位置浄化法ともいう。

注2)ファイトレメディエーション
 植物が本来、有している水分や栄養分を吸収する能力を利用して、土壌や地下水中の有害汚染物質を植物体の中に吸収することで、有害汚染物質を除去していく処理技術をいう。

注3)雄性不稔株
 第一代の交配種(F1)の母親となる系統。花粉を作らない変異を有し、花粉親系統の花粉を受粉させてF1の種子を得る。自家受粉することがないために除雄の手間がなく、また受粉作業を行いやすいというメリットがある。

注4)バイオレメディエーション
 微生物、菌類および植物自体、またはそれらが保持する酵素などを利用して土壌や地下水中の有害汚染物質を分解して除去する処理技術をいう。

注5)活着率
 播種、移植または挿木した本数に対する根付いた本数の割合。

<参考図>

図1

図1 植物による重金属吸収の模式図


図2

図2 本新技術により開発したマリーゴールド新品種

<お問い合わせ先>

株式会社 小泉 環境事業部 大泉環境研究センター
〒409-1501 山梨県北杜市大泉町西井出字石堂8240-2036
村井 寧(ムライ ヤスシ)
Tel:0551-20-5720 Fax:0551-20-5721

独立行政法人 科学技術振興機構 イノベーション推進本部 戦略的イノベーション推進部
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
三原 真一(ミハラ シンイチ)、福壽 芳治(フクジュ ヨシハル)
Tel:03-5214-8995 Fax:03-5214-8999