科学技術振興機構報 第60号
平成16年5月13日
埼玉県川口市本町4−1−8
独立行政法人 科学技術振興機構
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「アミノ酸類の高効率的合成方法の開発に成功」

 独立行政法人 科学技術振興機構(理事長:沖村憲樹)戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATOタイプ)小林高機能性反応場プロジェクト(研究総括:小林修)は、医薬品などファインケミカルの分野で重要な光学活性含窒素化合物(アミノ酸類を含む)の高効率的合成方法の開発に成功した。
 医薬品には窒素原子を含む化合物が数多く存在し、それらの多くは光学活性化合物である。光学活性含窒素化合物の効率的な合成方法、特に大量供給を可能にする触媒的不斉合成反応は、安価かつ高品質な医薬品を供給するための魅力的な手法として盛んに研究されている。中でもルイス酸を触媒として用いる不斉合成は、適用可能な反応が多く、多彩な触媒のデザインが可能であることから注目されている。しかしながら、ルイス酸触媒は窒素原子によって不活性化され易く、これを用いる含窒素化合物の触媒的不斉合成の開発は困難とされてきた。
 本研究では、新たに開発した銅触媒(ルイス酸の一種)が、グリオキシル酸エステルとエンカルバメート類を原料とした付加反応を効果的に触媒し、高収率かつ高立体選択的に光学活性化合物を生成することを見出した。本生成物からは神経伝達物質として重要なγ−アミノ酪酸誘導体など、医薬品等として興味深い構造を有する様々な含窒素化合物への変換が容易である。また、本反応は原料に含まれる原子の全てが生成物に組み込まれるため(高い原子効率)、化学反応に伴う廃棄物の発生を抑制した環境調和型の反応である。今後、本不斉触媒反応の工業化の実現が期待される。
 本研究成果は、ドイツの化学雑誌「Angewandte Chemie International Edition」のVIP(Very Important Paper)に選ばれ、5月14日付け(ドイツ時間)でオンライン版に掲載される。
東京大学大学院薬学系研究科教授
 左右の手を重ね合わせることができないように、自然界に存在する分子や構造体にはその鏡像体を重ね合わせることのできない化合物(光学活性化合物)が数多く存在する。生体内ではそのような両鏡像体の一方のみが機能していることが多く、アミノ酸などがその代表である。医薬品は生体に働きかける分子であり、有効に機能するためには鏡像体の関係にある分子の一方のみを用いる必要がある。そこで合成化学の分野では、両鏡像体の一方のみを立体選択的に合成する反応(=不斉合成反応)の開発が重要な課題となっている。また、医薬品にはその構造中に窒素原子を必須とする化合物が数多く存在するため、含窒素化合物の効率的な不斉合成反応の開発が望まれている。
 一方、ルイス酸(注1)は様々な反応を活性化する重要な触媒であり、また多彩な修飾により機能をコントロールできることから、これを用いる不斉合成反応は大きな可能性を秘めた魅力的な手法である。ところが窒素原子はルイス酸を不活性化することが多く、含窒素化合物の触媒的不斉合成の開発に大きな障害となってきた。
 本研究では、光学活性なジイミン化合物で修飾した過塩素酸銅(式1、ルイス酸の1種)が、グリオキシル酸エステルとエンカルバメート類との付加反応を効果的に触媒し生成物を与えることを見出した。

式1
式1

 本反応は様々な構造のエンカルバメート類に適用可能であり、立体選択性が非常に高く、必要な触媒量は基質に対して0.1モル%と優れた触媒活性能を有する。また、生成物は、神経伝達物質として重要なγ−アミノ酪酸(注2)誘導体やファインケミカル原料として有用なラクタム・ラクトン類など、興味深い様々な構造の含窒素化合物への変換も容易である(式2)。
 さらに、本反応では原料に含まれる原子の全てが生成物に組み込まれるため(原子効率が100%(注3) )、化学反応に伴う廃棄物の発生を抑制した環境調和型の反応である。

式2
式2 本反応生成物から誘導される有用化合物

今後の展開
 現在、本反応の適用拡大の一つとして、グリオキシル酸エステル以外の基質を用いた触媒的不斉合成反応の検討を行っている。また、反応機構解明へのアプローチも行っており、高い立体選択性が発現する詳細な機構を明らかにすることで、より高機能な不斉ルイス酸触媒の開発が期待される。一方、本触媒反応の特徴である、高収率、高立体選択性、高触媒活性能を生かした有用化合物の実用的合成(大量合成)の検討も進めており、有用化合物の工業化への展開が期待される。

[論文名]
Highly Diastereo- and Enantioselective Reactions of Enecarbamates with Ethyl Glyoxylate Leading to Both Optically Active Syn- and Anti-α-alkyl-β-hydroxy Imines and Ketones
(両光学活性なシン及びアンチ-α-アルキル-β-ヒドロキシイミン及びケトンを合成するためのエンカルバメートとエチルグリオキシレートの高ジアステレオ及びエナンチオ選択的反応)
doi :10.1002/ange.200460165

[研究主題]
戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究「小林高機能性反応場プロジェクト」
            (研究期間 2003年11月〜2008年10月)

[用語説明]
注1: ルイス酸
酸の定義の1つで電子対を受け取ることができる物質のこと。有機合成反応における重要な触媒の一群で、工業的にも汎用されている。
注2: γ−アミノ酪酸(GABA)
炭素数4の炭素骨格を有するアミノ酸の一つ。アミノ基とカルボキシル基が炭素骨格の両末端に存在する構造を有し、中枢神経系の刺激伝達に作用する物質として重要。
注3: 原子効率
反応に用いる原料の原子のうち、どれだけが生成物に入っていくかを評価する指標。余分な副生成物を出さない原子効率100%の反応が理想であるとされる。
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<本件問い合わせ先>
小林 修(こばやし しゅう)
 東京大学大学院 薬学系研究科 教授
  〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1
  TEL: 03-5841-4790、FAX: 03-5684-0634   

古賀 明嗣(こが あきつぐ)
 独立行政法人科学技術振興機構
 戦略的創造事業本部 特別プロジェクト推進室
  TEL:048-226-5623 FAX:048-226-5703   
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