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<用語解説>

注1)EML4-ALK
 肺がん細胞内において2番染色体内の小さな逆位が生じ、EML4遺伝子とALK遺伝子が融合してEML4-ALKがん遺伝子が生じます。EML4-ALKは、本来細胞内骨格に結合するEML4たんぱく質のアミノ末端側約半分と、ALK受容体型チロシンキナーゼの細胞内領域とが融合した異常たんぱく質を産生します。EML4-ALK融合遺伝子は非小細胞肺がんの約5%に生じることが知られています。

注2)チロシンキナーゼ
 基質をリン酸化する酵素を一般に「キナーゼ」と呼び、その中でも基質のチロシン残基を特異的にリン酸化する酵素を「チロシンキナーゼ」と呼びます。チロシンキナーゼは一般に細胞の増殖を正に誘導する役割を果たしており、正常細胞内においてはその活性は厳密にコントロールされています。しかし、がん細胞においては、他のたんぱく質と融合したり(例、EML4-ALK)、あるいは配列の突然変異によって(例、活性型EGF受容体)常に活性化された状態となり「がん化」を導いてしまいます。

注3)トランスジェニックマウス
 人為的に発現させたい遺伝子をマウス卵に注入し、その卵から成獣個体を作製する技術をトランスジェニックマウスと言います。導入遺伝子に結合させるプロモーターの種類を変えることで、任意の臓器で遺伝子発現をONにすることが可能です。

注4)上皮成長因子受容体(EGF受容体)
 皮膚など上皮系の細胞に働いて、細胞増殖を促すたんぱく質を上皮成長因子(EGF)と言いますが、その細胞側の受容体がEGF受容体です。EGF受容体たんぱく質は細胞内領域にチロシンキナーゼ酵素活性を有しており、上皮成長因子が結合すると、そのキナーゼ活性が誘導されます。一部の肺がん症例において、EGF受容体の遺伝子異常が見つかりました。この異常はEGF受容体のキナーゼ活性を高め、上皮成長因子が結合していない状態でも、EGF受容体の酵素活性を上昇させて肺がん発症を誘導するとされています。

注5)ゲフィチ二ブ
 EGF受容体選択的にそのチロシンキナーゼ活性を阻害する薬剤としてゲフィチニブが開発され、市販されています(商品名 イレッサ®、アストラゼネカ 株式会社)。EGF受容体変異を有する肺がんに有効ですが、不用意に用いると重篤な間質性肺炎を生じることが知られています。

注6)surfactant protein C(SPC)遺伝子
 II型肺胞上皮でのみ産生される界面活性作用のあるたんぱく質です。肺がんを作ることを目的とするトランスジェニックマウスにおいて、しばしばそのプロモーター領域が利用されます。