科学技術振興機構報 第58号
平成16年5月7日
埼玉県川口市本町4−1−8
独立行政法人 科学技術振興機構
電話(048)226-5606(総務部広報室)
URL:http://www.jst.go.jp/

磁気不揮発メモリーの書き込み技術の飛躍
−ユビキタス社会の本命メモリーの超大容量化に道−

 独立行政法人科学技術振興機構(JST;理事長 沖村憲樹)は、フロッピーディスク等と同様に磁気によってデータを記憶する「磁気不揮発メモリー(MRAM)」のメモリー素子を従来の100分の1の電流で動作させることに世界で初めて成功した。MRAMは、現在のパソコンや携帯電話に使われているDRAM並の高集積化(大容量化)、SRAM並みの高速書き込み・読み出し、フラッシュメモリー同様の不揮発性などの長所を併せもつメモリで、瞬時に立ち上がるコンピュータや、欲しい情報を欲しいと思った瞬間に得ることを可能にするユビキタス技術実現のためのキーメモリーとして期待されている。
 電子はスピンを持ちスピンの方向に対応した磁石として扱うことができる。MRAMの書き込み原理の一つとして、スピンを直接メモリー素子に注入しそのスピンの向きを反転すること(例えば上向き・下向きをそれぞれを「0」・「1」に対応させること)でデータの書き込みを行う方法がある。しかし多くの電子(スピン)を注入する必要があり、消費電力が高すぎることが実用化への大きな課題であった。
 本研究では、電子のスピンの中で記憶に必要な向きを持つ少数のスピンのみをメモリー素子に透過させるフィルタとして作用する「RuとCo90Fe10 の2層構成の界面構造」を創ることによって、従来の100分の1の電流(スピンの注入量)でスピンの向きの反転に成功した。これによりメモリー素子を小さくして高集積化する際に、低消費電力化が可能になり実用化に向けて大きく前進したと言える。
 本成果は、JSTの戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CRESTタイプ)での研究テーマ「スピン量子ドットメモリー創製のための要素技術開発」(研究代表者:猪俣浩一郎・東北大学大学院工学研究科教授)において、東北大学の研究グループによって得られたもので、英国科学雑誌「Nature Materials」での掲載に先立ち、5月9日付けでオンライン公開される。
背 景
 電子にはスピンと呼ばれる「向き」があり、個々の電子はスピンの方向に対応した磁石として扱うことができる。絶縁体を二つの強磁性体ではさんだ構造(トンネル接合という)において、2つの強磁性体の電子のスピンの向き(磁石の方向)が揃った場合と、逆向きになった場合で、絶縁体を流れるトンネル電流(注1)の大きさが異なる、すなわち抵抗値が異なることを利用し、異なる抵抗値を「0」、「1」、のデジタル信号として利用したメモリーが磁気不揮発メモリー(MRAM、注2)である。MRAMはパソコンや携帯電話に使われているDRAM並みの高集積化(大容量化)、SRAM並みの高速書き込み、高速読み出しが可能な上、フラッシュメモリー同様の不揮発性といった長所を併せ持つ次世代のメモリーであり、瞬時に立ち上がるコンピュータや、欲しい情報を欲しいと思った瞬間に得ることを可能にするユビキタス社会(注3)実現のためのキーメモリーとして期待されている。産業界でもすでに実用化を目指して開発が進んでおり、既に4MbのプロトタイプMRAMが米国企業で開発されている。
 スピンの向きを操作するための代表的な方法として、メモリー素子の近傍に電流を流して外部磁場を発生し、スピンの向きを変える方法(外部磁化反転法)と、メモリー素子に直接電流を流して電子が持っているスピンの作用によって磁化を反転させる方法(スピン注入磁化反転法)がある。大容量化、特にギガビット(Gb)級の大容量MRAMの場合、メモリー素子のサイズが0.1ミクロン程度と小さくなるため、磁石内部での反発(反磁界)が著しく増大し、外部磁化反転法では、これに対抗するために108 A/cm2という極めて大きな電流が必要であった。その解決策として、最近では、スピン注入磁化反転法に注目が集まっているが、この方法でも必要な電流密度が107 A/cm2〜108 A/cm2と大きく、メモリ素子であるトンネル接合が破壊してしまうという大きな課題があり、スピン注入磁化反転技術の飛躍が求められていた。
 
研究成果
 今回、Ru(ルテニウム)とCo90Fe10の二層構造によりスピンのフィルタ機能を持った界面構造を創り出すことに成功した。このフィルタにより、スピンの反転に必要な少数のスピンのみを選択的に伝導させることが可能になり、この結果、スピンの反転に必要な電流を従来よりも一〜二桁低い2×106 A/cm2とすることができるようになった。
 今回、図1のようなIrMn/Co90Fe10/Cu/Co90Fe10/Ru/Co90Fe10素子を作成し、実際に動作を確認した。この素子に直接電流を流したところ(スピン注入)、電流の方向によって中央のCo90Fe10合金層のスピンの向きが反転し、磁化が反転することが観測された(図2の下の図で少数の下向きのスピンが通過し、上向きの多数スピンが反射されている様子が模式的に示されている)。今回測定に使用した素子のサイズは、高集積化の目標(0.1×0.2μm2)に比較してまだ0.1×0.4μm2と大きいが、スピン注入磁化反転法では必要な電流がメモリー素子のサイズに比例するため、大容量化するほど書込み電流が低下するものと考えられる。今回の成果はスピン注入磁化反転法の実用化に道を開くものであり、超大容量のMRAMを開発するためのコア技術を確立したものといえる。
 
<論文名>
Substantial reduction of critical current density for magnetization switching in an exchange-biased spin-valve
(交換バイアスを用いたスピンバルブ素子のスピン注入磁化反転に必要な電流密度の大幅低減)
doi :10.1038/nmat1120
 
この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。
研究領域: 『新しい物理現象や動作原理に基づくナノデバイス・システムの創製』
(研究総括:梶村 皓二 (財)機械振興協会 副会長・技術研究所 所長)
研究期間: 平成13年度〜平成18年度
 
用語説明
図1
図2
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 <問合せ先>
東北大学大学院工学研究科
猪俣 浩一郎(いのまた こういちろう)
Tel/Fax:022-217-7331

独立行政法人科学技術振興機構
特別プロジェクト推進室
甲田 彰(こうだ あきら)
Tel:048-226-5623/Fax:048-226-5703
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