JSTトッププレス一覧 > 科学技術振興機構報 第579号
科学技術振興機構報 第579号

平成20年10月29日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報課)
URL http://www.jst.go.jp

生体試料を高速3次元動画像で観察できる顕微鏡の開発に成功

 JST(理事長 北澤 宏一)はこのほど、独創的シーズ展開事業・委託開発の開発課題「高速3次元分子分光顕微鏡」の開発結果を成功と認定しました。
 独創的シーズ展開事業・委託開発では、大学や公的研究機関などの研究成果で、特に開発リスクの高いものについて企業に開発費を支出して開発を委託し、実用化を図っています。(詳細情報 http://www.jst.go.jp/itaku/
 本開発課題は、大阪大学 大学院工学研究科 教授 河田 聡らの研究成果をもとに、平成17年3月から平成20年3月にかけて、ナノフォトン株式会社(代表取締役社長 大出 孝博、本社 大阪市北区、資本金3500万円)に委託して、企業化開発(開発費約2500万円)を進めていたものです。
 従来、生体試料を観察するためには、共焦点方式や多光子方式の蛍光顕微鏡注1)などが用いられてきましたが、いずれも染色などの前処理が必要で、生体に損傷を与えることが避けられないうえ、動画像を取得することも不可能でした。このため、前処理が不要で、生体そのものの動きを観察できる顕微鏡が望まれています。今回開発に成功した「高速3次元分子分光顕微鏡」では、生体試料を染色することなく、3次元的な動画像を見ることができます。
 本新技術は、異なる2波長のレーザー光を生体試料に入射し、それらの周波数の差が生体分子の振動数と一致したときに、入射光よりも波長が短い散乱光を発する効果(CARS注2))を利用しています。そして、回転円板上に多数の微小なレンズを並べたマイクロレンズアレイ注3)を組み込むことにより、多焦点を高速度で走査し、動画像を取得することに成功しました。これらの技術を用いることにより、生体試料を染色せずに3次元高速動画像で観察できる高分解能の顕微鏡を実現しました。
 本顕微鏡を用いることで、生体試料そのものを観察することが可能となり、医学や生物学をはじめとする多くの分野で利用されることが期待されます。

 本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景) 生体試料を染色することなしに観察できる顕微鏡が望まれています。

 細胞生物学や免疫組織化学などでは、生きたままの細胞組織や生体分子を観察することが必要とされています。生体分子は可視光をほとんど透過させて透明であるため、蛍光顕微鏡で観察するために染色などの前処理が必要です。しかし染色による生体機能の阻害や、染色した生体試料長期保存の困難さなどの問題があります。さらに染色にはかなりの時間と作業者の熟練が必要とされます。このため、染色が不要な観察方法が望まれています。

(内容) ラマン分光システムとCARSシステムを組み合わせて、生体試料を染色することなしに、高速3次元動画像を得るものです。

 生体細胞の観察のためには、入射する光エネルギーの一部が生体分子の分子振動によって吸収され、長波長光が散乱する現象(ラマン散乱注4))を利用したラマン顕微鏡も実用化されています。しかし、散乱光が微弱なことから生体が発する蛍光との分離・識別が難しいうえ空間分解能注5)が低いため微細な画像が取得できないという問題があります。
 本新技術は、ラマン分光システムとCARSシステムを複合させたもので、ラマン分光により生体試料内部の特異的な成分を選択し、その成分をイメージングするために最適な2波長のレーザー光を用い、CARSを発生させ、画像を取得するものです。通常のラマン顕微鏡では、散乱光の出力が微弱なため画像を取得するのに1分間以上が必要とされるのに比して、CARSは散乱光の強度が高く、1000倍程度の高感度であるため、1秒以下の短時間で画像を得ることが可能です。また、CARSは生体が発する蛍光よりも波長が短いために、信号分離注6)が可能で、空間分解能も高いという特徴があります。
 本新技術では、CARS光源にピコ秒パルスレーザーを用いて微弱なラマン散乱光を増幅する方式を採用しました。また透明回転円板上に多数の微小なレンズを並べた構造のマイクロレンズアレイを用いた多焦点高速スキャン装置を組み込むことにより、時間分解能注7)を高め、高速で変化する画像を鮮明に取得することができました。
 開発した顕微鏡は、試料にポリスチレン微粒子を用いた評価試験において、奥行空間分解能が蛍光顕微鏡の約半分の400nm以下、また時間分解能が蛍光顕微鏡よりも2桁小さい30ms以下という良好な性能が確認されました。

(効果) 本顕微鏡は医学や生物学をはじめ、各種の分野で広く用いられることが期待されます。

 本顕微鏡を用いることで、生体分子や組織を染色することなしに、高速動画像で観察することが可能になりました。また本新技術は空間的、時間的に高い分解能を持っていることから、細胞生物学や免疫組織化学などの医学分野をはじめ、生物分野、材料分析分野などで広く利用されることが期待されます。

図1 ラマン効果の概念
図2 開発した顕微鏡システムの概念図
図3 顕微鏡システム外観
図4 取得画像例
【用語解説】
開発を終了した課題の評価

<お問い合わせ先>

ナノフォトン株式会社 代表取締役社長
大出 孝博(オオデ タカヒロ)
〒530-0001 大阪市北区梅田1丁目1番3−267号
Tel:06-6347-1321 Fax:06-6347-1525

独立行政法人 科学技術振興機構 産学連携事業本部 開発部 開発推進課
三原 真一(ミハラ シンイチ)、高野 晃(タカノ アキラ)
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8995 Fax:03-5214-8999