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別紙2

平成20年度第1回 委託開発の採択課題の内容


課題名 高分子オイルゲルによるPCB濃縮システム
新技術の代表研究者 大阪大学 大学院工学研究科 教授 明石 満
開発実施企業 株式会社 ネオス
新技術の内容
 本新技術は、高分子オイルゲルを用いて汚染油からPCBを選択的に除去するシステムに関するものである。従来よりPCB汚染油の処理法として、化学処理による措置がとられているが、時間的な制約から、微量PCB混入油の処理に関しては燃焼法による焼却処理に向けた検討がなされている。燃焼法によって処理された場合には、膨大な量のCO発生などによる地球環境汚染が問題となる。本新技術では、シクロデキストリンを用いた新規高分子化合物を充填したカラムにPCB含有汚染油を通し、シクロデキストリンに選択的にPCB分子を包接させ、汚染油からPCBを除去するものである。それにより絶縁油、熱媒体およびこれらの混合油などに含有されるPCBを選択的に捕集、濃縮し、処理分解すべきPCB汚染油の量を大幅に削減することができる。地球環境の保全および資源の有効利用への寄与も期待されている。

課題名 層状複水酸化物による排水処理システム
新技術の代表研究者 早稲田大学 理工学術院 教授 山﨑 淳司
開発実施企業 日本国土開発 株式会社
新技術の内容
 本新技術は、陰イオンの吸着・固定化性能を大幅に向上させた排水処理材を使用した産業排水高度処理システムである。従来のイオン交換樹脂やキレート剤を用いたシステムは、大規模なシステムのため導入コストと設置スペースが必要であった。本新技術で使用する吸着材の微結晶層状複水酸化物は、合成時の結晶子をナノメートルサイズに制御することで陰イオンの吸着・固定化性能を大幅に向上させたものである。本新技術の水処理システムは、低コストで小規模な装置であることから導入が容易であり、産業系排水のみならず、産廃処分場や下水処理場の排水、井戸水、土壌汚染地下水など広範囲な水処理システムとしても期待される。

課題名 リン・フッ素を回収・再資源化する多孔質水酸化鉄吸着材
新技術の代表研究者 京都大学 大学院工学研究科 教授 前 一廣
開発実施企業 高橋金属 株式会社
新技術の内容
 本新技術は、リン、フッ素などのアニオン物質を選択的に高容量吸着できる再生可能な多孔質水酸化鉄吸着材を製造するものである。従来よりアニオン物質の廃水処理は高分子凝集剤による汚泥分離が主流であり、再生可能な多孔質水酸化鉄が期待されていたが、製造可能な粒径の問題から取り扱いが難しく実用化に至ってはいない。本新技術では、水酸化鉄をミリメートルサイズの粒径に成長させることにより、カラム方式での吸着材使用が可能となり、従来の凝集沈殿法では除去困難であった低濃度のリン・フッ素の除去、回収・再資源化が可能になるなど、広く環境浄化・資源循環への寄与が期待できる。

課題名 組織親和性を有する生体補填材料
新技術の代表研究者 独立行政法人 理化学研究所 先端技術基盤部門 専任研究員 鈴木 嘉昭
開発実施企業 株式会社 サンセイ
新技術の内容
 本新技術は、イオン注入法により著しく組織親和性が改善された生体補填材料を製造するものである。従来から延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)は材質劣化のない優れた安定素材として、人工硬膜、人工腹膜などの生体材料として用いられてきたが、生体組織適合性が低く周辺組織との接着が生じない欠点があるため、さまざまな術後のトラブルを起こしていた。本新技術では、ePTFEにArイオンを注入して、長期にわたる安定な細胞接着性表面を作成するため、生体由来接着剤との親和性が格段に向上する。慢性動物実験でもその効果と安定性が確認され、研究的臨床試験でも有用性が評価されている。本新技術は、脳外科分野における髄液漏れ防止用の人工硬膜や動脈瘤破裂防止などの治療用材料として有効であり、組織接着不全で生ずる再手術などのトラブル防止や手術時間の短縮化にも寄与することが期待される。

課題名 血管内灌流による脳低温療法用選択的急速冷却システム
新技術の代表研究者 財団法人 大阪脳神経外科病院 名誉院長 太田 富雄
開発実施企業 扶桑薬品工業 株式会社
新技術の内容
 本新技術は、冷却晶質溶液を直接脳血管内に灌流させ、制御理論に基づいて脳組織のみを迅速・選択的に冷却し、虚血や外傷から脳を保護する選択的脳冷却システムに関するものである。従来技術では、全身の体表面から脳を冷却するため、正確な脳温制御が難しく、医療従事者に多大な労力を強いてきた。本新技術では、晶質溶液を脳血管より直接灌流させるので、治療効果時間枠内に選択的に脳冷却が可能である。しかも、目標温度の設定だけで正確な脳温の自動制御が行え、脳以外の冷却を抑制できるため、有害事象が発生しにくい特徴がある。これにより、脳低温療法を広く一般に普及させることが可能となり、脳卒中や脳外傷における死亡率の低下と回復後の後遺症の軽減が期待される。

課題名 骨置換型人工骨
新技術の代表研究者 九州大学 大学院歯学研究院 教授 石川 邦夫
開発実施企業 株式会社 ジーシー
新技術の内容
 本新技術は、生体骨の主成分と同様の組成を持つ炭酸アパタイトのブロック体や顆粒による骨置換型人工骨に関するものである。従来技術では、炭酸アパタイトの微粉末形状は調製可能であったが、微粉末体は生体内において炎症が起きるなど生体親和性に劣るため、ブロック体や顆粒での調製が不可欠であった。本新技術は、事前にブロック状または顆粒状に成形した前躯体の溶液中での相変換反応により、高純度の炭酸アパタイトブロック体、顆粒の調製を可能とした。これにより、生体親和性の高い骨置換型人工骨の実現が可能となり、種々問題が指摘されている従来の人工骨や自家骨移植の代替となることが期待される。