JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第576号 > 資料5
資料5

評価者(選考パネル)および評価

研究総括:
袖岡 幹子(理化学研究所基幹研究所 主任研究員)
研究領域:
生細胞分子化学
戦略目標:
代謝調節機構解析に基づく細胞機能制御に関する基盤技術の創出
選考パネル:
パネルオフィサー 山本 嘉則(東北大学原子分子材料科学高等研究機構 機構長)
パネルメンバー 上村 大輔(慶應義塾大学 理工学部 教授)
戸部 義人(大阪大学大学院 基礎工学研究科 教授)
林 民生(京都大学大学院 理学研究科 教授)
Rick L. Danheiser (A. C. Cope Professor, Massachusetts Institute of Technology Department of Chemistry)
評価結果:
 研究領域「生細胞分子化学」は、生物が個体としての生命を維持するのに必須な、細胞死の調節に関する細胞内情報伝達経路を解明し、低分子により制御することを目指すものである。具体的には、生細胞中で細胞死を制御する低分子と直接あるいは間接的に相互作用する複数のたんぱく質をラベルして検出する新しい化学的手法や、低分子の生細胞内における分布を調べる新規な生細胞イメージング技術の研究開発を行う。これらの技術を用いていくつかの異なる低分子の作用機序を解明することで、細胞死の情報伝達のしくみを解明することを目指す。また、この過程で開発される細胞死を制御する分子は、細胞死の制御異常によって生じるがんや自己免疫疾患などの疾患の治療薬となる可能性を持つ。
 本研究領域は、低分子化合物を用いて細胞内の代謝システムを解析・制御する技術の確立を目指すことにより、生物がかかわる分野にとって有効な基盤技術の創出につなげるもので、戦略目標「代謝調節機構解析に基づく細胞機能制御に関する基盤技術の創出」に資するものと期待される。
 袖岡 幹子氏は、本研究領域の重要な基盤となる低分子の精密有機合成化学分野において顕著な業績を持つ。さらに生物活性分子を用いたケミカルバイオロジー研究も行ってきており、有機化学・ケミカルバイオロジー分野の知識を幅広く必要とする本研究領域の研究総括として相応しいと認められる。

研究総括:
河岡 義裕(東京大学医科学研究所 教授)
研究領域:
感染宿主応答ネットワーク
戦略目標:
生命システムの動作原理の解明と活用のための基盤技術の創出
選考パネル:
パネルオフィサー 谷口 克 (理化学研究所横浜研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター センター長)
パネルメンバー 烏山 一(東京医科歯科大学大学院 医歯学研究科 教授)
小安 重夫(慶應義塾大学 医学部 教授)
高井 義美(神戸大学大学院 医学系研究科 教授)
Stephan Becker(Professor, Philipps-University Marburg)
評価結果:
 研究領域「感染宿主応答ネットワーク」は、インフルエンザウイルス感染後の生体反応が症状重篤化の鍵を担っているという最新の知見を受け、感染後の生体反応をシステム生物学的手法により分析し、感染後の生体反応の全容を明らかにすると共に症状重篤化の原因の究明を目指す。具体的には、リバース・ジェネティクスにより毒性の異なるウイルスを合成し、合成したインフルエンザウイルスが感染した宿主の生体反応を網羅的手法により解析することにより、宿主の生体反応の全容を解明し、得られたデータをシステム生物学的手法により分析することにより、毒性の違いがどのような生体反応の違いに由来するのかを明らかにする。
 本研究領域は、社会的に重要性が高いインフルエンザウイルスおよびそれに対する生体反応を理解することにより、ウイルス感染に対する有効な治療戦略を提供しようとするものであり、その研究成果は、戦略目標「生命システムの動作原理の解明と活用のための基盤技術の創出」に資するものと期待される。
 河岡 義裕氏は本研究領域の基盤となるインフルエンザウイルスなどの病原性ウイルスの研究において先導的な研究を推進しており、研究総括として相応しいと認められる。

研究総括:
研究総括:高原 淳(九州大学先導物質化学研究所 教授)
研究領域:
ソフト界面
戦略目標:
異種材料・異種物質状態間の高機能接合界面を実現する革新的ナノ界面技術の創出とその応用
選考パネル:
パネルオフィサー 土井 正男(東京大学大学院 工学系研究科 教授)
パネルメンバー 石橋 善弘(愛知淑徳大学 ビジネス研究科 教授)
甲斐 昌一(九州大学大学院工学研究院 教授)
中浜 精一(東京工業大学 名誉教授)
Ronald Larson (Professor, University of Michigan)
評価結果:
 研究領域「ソフト界面」は、濡れ、摩擦、粘着、耐摩耗性、生体適合性など、産業・医療応用において重要な、ソフトマテリアルの表面・界面特性の物理的起源を明らかにし、界面特性の精密な制御や、高機能界面を設計する技術基盤の構築を目指すものである。具体的には(1)ソフトマテリアルの界面の構造と特性をその場でかつ動的に測定し解析する技術の開発、(2)界面のラジカル重合反応や架橋反応など、分子レベルの精密な制御による高機能な界面の創出とその機能発現機構の解明、(3)ナノインプリンティングやナノ構造体を利用し、ナノスケールの構造制御による新しい高機能界面の創出とその機能発現機構の解明、を行なう。
 本研究領域は、ナノメートルからマイクロメートルにわたるソフトマテリアルの界面構造の測定と物性評価技術を格段に進歩させ、高機能な特性を持つ界面を創生する技術基盤の確立を目指すもので、その研究成果は、戦略目標「異種材料・異種物質状態間の高機能接合界面を実現する革新的ナノ界面技術の創出とその応用」に資するものと期待される。
 高原 淳氏は、本研究領域の基盤となる、高分子材料の界面の構造と物性計測に関する研究や、基板表面への機能性薄膜形成に関する研究で先導的な研究を行っており、界面研究に必要な物理、化学、材料科学など広い分野の研究者を束ねる力を備えているため、研究総括として相応しいと認められる。

研究総括:
岡ノ谷 一夫(理化学研究所脳科学総合研究センター チームリーダー)
研究領域:
情動情報
戦略目標:
多様で大規模な情報から『知識』を生産・活用するための基盤技術の創出
選考パネル:
パネルオフィサー 中島 秀之(公立はこだて未来大学 学長)
パネルメンバー 後藤 滋樹(早稲田大学 基幹理工学部 教授)
徳田 英幸(慶應義塾大学 環境情報学部 教授)
中小路 久美代(東京大学先端科学研究センター 特任教授)
三木 哲也(電気通信大学 理事)
William Mark(スタンフォード研究所 副所長)
評価結果:
 研究領域「情動情報」は、人間が本来もっている情動表現を明示的に符号化し、文字情報と複合化することによって、新たなコミュニケーションツールを創出するための基盤技術を開発することを目指すものである。
 具体的には、情動情報と言語情報がヒトおよび動物の脳内でどのように表現されているのか、また、それらが発達の過程でどう分離してゆくのかを明らかにした上で、コミュニケーション場面における人間の情動状態と表出を同時に計測し、それらの相関関係の解析を行う。そして、得られた知見に基づき、情動状態の遷移を示す文法的表現方法を確立し、さらに情動情報と文字情報を複合化し、インターネットブラウザなどに実装するための実用的技術創出に取り組むものである。
 情動の情報表現方法を確立する過程において、人間コミュニケーションの生物学的基盤の理解深化が期待される。また、情動情報と言語情報が統合された新しいコミュニケーション形態は、言語情報だけでは、情報化しにくかった、「技」・「勘」・「直観」といった知識の共有、醸成においても不可欠な役割を担うものと考えられる。
 本研究領域は、情動情報の符号化技術創出を試みるものである。従来の情報処理技術に欠けていた付加情報の扱いの新たな可能性を示し、それによって情報活用の幅や深さを飛躍的に増大させることが期待できる。従って、その研究成果は、戦略目標「多様で大規模な情報から「知識」を生産・活用するための基盤技術の創出」に資するものと期待される。
 岡ノ谷 一夫氏は、これまで、認知科学・神経行動学・行動生態学などをベースに、言語起源と進化の生物学的基礎研究をはじめ、感性情報・言語情報の分節化において生じる脳過程に関する研究を独創的な視点から精力的に行っており、数々の成果を当該分野にもたらしていることから、研究総括として相応しいと認められる。