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科学技術振興機構報 第575号

平成20年10月8日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報課)
URL http://www.jst.go.jp

固体酸化物燃料電池の低温合成プロセスの開発に成功

 JST(理事長 北澤 宏一)はこのほど、独創的シーズ展開事業・委託開発の開発課題「界面構造制御による燃料電池低温作動セル」の開発結果を成功と認定しました。
 独創的シーズ展開事業・委託開発では、大学や公的研究機関などの研究成果で、特に開発リスクの高いものについて企業に開発費を支出して開発を委託し、実用化を図っています。(詳細情報 http://www.jst.go.jp/itaku/
 本開発課題は、大阪大学教授の野城 清と内藤 牧男の研究成果をもとに、平成17年3月から平成20年3月にかけて株式会社 ホソカワ粉体技術研究所(代表取締役 向阪 保雄、本社大阪府枚方市、資本金4.9億円)に委託して、企業化開発(開発費約1.6億円)を進めていたものです。
 本新技術は、固体酸化物型燃料電池(SOFC注1))の構成要素である酸素ガス側の空気極、電解質、水素ガス側の燃料極のうち、空気極材料の製造コストの低減のために、独自技術の粒子界面構造制御技術注2)を用いて低温合成を可能にしたものです。
 従来のSOFCは作動温度が800℃以上と高いため、材料のコストが高いうえ、寿命低下を招いていると考えられています。このため、作動温度を下げる努力が行われてきましたが、一方では、700℃以下の作動温度でセルの内部抵抗が増大し、発電性能が低下することも問題となっていました。本新技術は、作動温度700℃のSOFCの開発において、製造コストの低減を目的として検討されました。
 本新技術は、特殊な回転機械の中で空気極の原料粒子を撹拌し、粒子界面に圧縮力や剪断力などの機械的エネルギーを与えて、新しい特性を有する複合粒子を作製します。この方法により、従来よりもはるかに低い温度で、活性の高い空気極材料を製造することを可能にしました。また同時に、燃料極と電解質の共焼結・連続製造技術を開発し、全体コストの低減に成功しました。試作したSOFC(単セル)について評価した結果、0.4W/cm2以上の出力特性が得られることを確認しました。
 本新技術は今後、SOFCの実用化に広く適用されるものと期待されます。

 本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景) 700℃程度で作動するSOFCの開発が進んでいますが、それと並行して製造コストの低減が必要となっています。

 SOFCは各種の燃料電池の中で、発電効率が高く、貴金属触媒などを必要としないことから、実用性が高いものとして期待されています。しかし、SOFCが初めて提案された当時は作動温度が800℃〜1000℃と高かったため、高価な材料が必要で、十分な寿命が得られにくいと考えられていました。現在、材料の改良などにより700℃程度で作動できるSOFCの開発が試みられていますが、従来の電極材料の製造方法では高温熱処理が必要とされるため、製造コストが高いことが問題となっています。

(内容) 空気極材料の製造において、原料粒子間の界面反応を起こし複合化することで、低温合成できる手法を確立しました。

 SOFCは、空気極、電解質、燃料極を接合した素電池(単セル)とセパレータを交互に多数積層して構成されます。SOFCは燃料極側に水素ガスを流し、空気極側に酸素ガスを流すと、空気極で生成した酸化物イオン(O2-)が、燃料極に向かって電解質中を移動し、O2-が燃料極で水素ガスと電気化学的に結合し電気を発生する電池です。このとき生ずる副産物は酸素と水素が結合して生ずる水だけなので、クリーンな発電方式です。
 SOFCの一般的な構成材料は、電解質がジルコニア系セラミック(YSZ注3))、空気極がランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)、燃料極がNi−YSZサーメット注4)など、全てが固体です。本新技術は空気極材料の製造コストの低減のために、独自技術の粒子界面構造制御技術を用いて低温合成を可能にしたものです。LSMの製造には通常1000℃以上の熱処理が必要とされ、このことが高コストの理由の1つとなっていましたが、本新技術では、LSMよりも活性の高い空気極材料であるLSCF(ランタン・ストロンチウム・コバルト・鉄複合酸化物)を低温度(例えば900℃以下)で合成することを目指しました。
 LSCFの複数種類の原料粒子を独自の回転機械装置に入れて、低温条件で圧縮・撹拌し、粒子界面に圧縮力や剪断力などの機械的エネルギーを与えて、新しい特性を有する複合粒子を作製する方式(メカノケミカル・ボンディング注5))で、活性の高い理想的な単相セラミック材料を得ることができました。開発した空気極材料を大面積のセルに適用するために、燃料極と電解質の2層シートを共焼結したハーフセルを連続製造する技術を開発しました。ハーフセルに空気極材料を貼り合わせた有効面積100cm2のSOFC 単セルについて評価した結果、燃料が水素ガス、作動温度700℃、セル電圧0.7Vの条件で、実用上十分な0.4W/cm2以上の出力が得られることを確認しました。

(効果) 本新技術により、高性能SOFCセルの低コスト生産が可能となり、今後のSOFCの実用化・普及に広く適用されることが期待されます。

 本新技術の空気極材料製造プロセスは、高温の固相反応や液体反応を伴わないことから、空気極材料の製造コストを大幅に低減できます。またこの空気極材料を用いたSOFCは目標とした700℃での作動が十分可能であることが確認されたので、今後のSOFCの実用化に広く適用されることが期待されます。

図1 燃料電池原理図
図2 粒子複合化(メカノケミカル・ボンディング)の原理図 (LSMの例)
図3 セル断面構造の例
図4 セル外観図
【用語解説】
開発を終了した課題の評価

<お問い合わせ先>

株式会社 ホソカワ粉体技術研究所 総務部
横山 豊和(ヨコヤマ トヨカズ)
〒573-1132 大阪府枚方市招堤田近1丁目9番地
Tel:072-855-2307 Fax:072-855-2561

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