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科学技術振興機構報 第566号

平成20年9月18日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報課)
URL http://www.jst.go.jp

カーボンナノチューブを分散して熱伝導率を大幅に高めた
アルミ複合材料の開発に成功

 独立行政法人 科学技術振興機構(理事長 北澤 宏一)は、独創的シーズ展開事業委託開発の開発課題「カーボンナノチューブを用いた熱交換器複合材料」の開発結果を、このほど成功と認定しました。
 独創的シーズ展開事業・委託開発では、大学や公的研究機関などの研究成果で、特に開発リスクの高いものについて企業に開発費を支出して開発を委託し、実用化を図っています。(詳細情報http://www.jst.go.jp/itaku/
 本開発課題は、大阪府立産業技術総合研究所 主任研究員の垣辻 篤氏の研究成果を基に、平成16年3月31日から平成20年3月31日にかけて、住友精密工業株式会社(代表取締役社長 神永 晉、本社兵庫県尼崎市、資本金約103億円)に委託して、企業化開発(開発費約2億5000万円)を進めていたものです。
 本新技術はアルミニウム合金に微量のカーボンナノチューブ注1)などを添加して、熱伝導率を飛躍的に向上させ複合材料とするものです。
 熱交換器やヒートシンク注2)などの放熱機器には、主にアルミニウム合金が使用されています。パワー半導体の発熱密度の上昇に代表されるように、放熱機器の性能向上が強く求められていますが、これまで実施されてきた放熱フィンの緻密化による性能改善策は、加工性や圧力損失などの観点から、ほぼ限界に達しています。
 このため、アルミニウム合金よりも熱伝導率が高い材料によって熱を拡散し、発熱密度を下げることが望まれてきました。近年応用研究が進んでいるカーボンナノチューブは熱伝導率が極めて高いことから、これをフィラー注3)としてアルミニウム合金中に配向注4)して添加すれば熱伝導率が大幅に高められると期待されますが、ナノチューブ繊維が極めて微細なため、実現は困難でした。
 本新技術では、アルミニウム合金に添加するフィラーとして、カーボンナノチューブと、これより繊維が太い気相成長カーボンファイバー(VGCF)注5)を併用し、配向性を確保して母材中に分散し、複合材料とすることに成功しました。製造には、放電プラズマ焼結装置注6)を利用し、アルミニウム合金の熱伝導率の3倍を超える、高性能な熱伝導材料の製造プロセスが確立されました。
 本新技術は、パワー半導体の冷却基板を中心に、高性能な熱伝導材料として、自動車や航空機産業に広く適用されることが期待されます。

 本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景) 熱交換器やヒートシンクなどは、構造改善による性能の向上がほぼ限界に達しており、より熱伝導率が高い新材料が求められています。

 熱交換器やヒートシンクの放熱部は、主にアルミニウム合金製の放熱フィン構造となっており、フィンの微細化などによる放熱性能の向上が図られてきました。しかし、微細化を高めるに伴い、加工性が低下するとともに、流体抵抗の増加や目詰りという悪影響が生じるため、性能向上には限界があります。このため、アルミニウム合金よりも熱伝導率の高い材料を用いて放熱性能を向上することが検討されてきました。

(内容) アルミニウム合金に、フィラーとしてカーボンナノチューブなどを配向して添加した複合材料を開発し、熱伝導率を大幅に高めました。

 本新技術は、アルミニウム合金にカーボンナノチューブを添加して熱伝導率を高めることを目指しました。カーボンナノチューブは、アルミニウム合金の熱伝導率(180〜200W/mK注7))や銅の熱伝導率(約380W/mK)よりも、はるかに高い熱伝導率(理論値約6000W/mK)を持つことが知られており、金属中にわずかに配向・分散させるだけで熱伝導率が大幅に高められると期待されますが、繊維が極めて微細なため、実現は困難でした。
 本開発では次の方法によって熱伝導率の高い複合材料を実現しました。
 カーボンナノチューブよりも繊維が太く、配向が容易な気相成長カーボンファイバ(VGCF)を補助的フィラー材として導入しました。VGCFはカーボンナノチューブと共通な原子結合構造を持った炭素繊維で、熱伝導も良好なことが知られています。このVGCFを用いて配向性を確保し、VGCF間を結ぶようにカーボンナノチューブを添加して熱伝導率を総合的に高めることができました。
 製造方法は、母材のアルミニウム合金粉末と配向VGCFおよびカーボンナノチューブを放電プラズマ焼結装置によって焼結し、フィラーが母材中に理想的に分散した複合材料としました。
 製造した複合材料の熱伝導率は、アルミニウム合金の約3〜4倍(平均750W/mK、最高800W/mK以上)という高い性能が確認されました。また、引張強度はアルミニウム合金とほぼ同等で、十分な強度を持つことが確認されました。なお、フィラーの配向方向や添加量を制御することにより、熱膨張率をアルミニウム合金の約1/4に低減できることも確認されました。現在、最大直径350mm、厚さ50mm程度までの複合材料の製造が可能です。

(効果) 本新技術の熱伝導材料は、半導体産業や航空機産業の分野において、広く用いられることが期待されます。

 本新技術によって、実現された複合材料は、高い熱伝導率と軽量性を有し、十分な機械的強度も備えているので、発熱密度の高いパワー半導体用の放熱機器や半導体製造装置の冷却能力増大に応えることが可能であり、軽量性が求められる自動車や航空機の熱機器の小型・軽量化が可能になるものと期待されます。

図1 放電プラズマ焼結装置
図2 試作した複合材料の例
【用語解説】
開発を終了した課題の評価

<お問い合わせ先>

住友精密工業株式会社 創事業研究部 マネージャー
片桐 一彰(カタギリ カズアキ)
〒660-0891 尼崎市扶桑町1番10号
Tel:06-6489-5885 Fax:06-6489-5910

独立行政法人 科学技術振興機構 産学連携事業本部 開発部開発推進課
三原 真一(ミハラ シンイチ)、高野 晃(タカノ アキラ)
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8995 Fax:03-5214-8999