新規採択研究開発プロジェクトおよびプロジェクト企画調査の概要
【科学技術と社会の相互作用】
総評:領域総括 村上 陽一郎(東京大学大学院 総合文化研究科 特任教授)
研究開発プログラム「科学技術と社会の相互作用」としての公募活動は、平成20年度で2年目に入った。初年度は「研究開発プロジェクト」(以下、「プロジェクト」)提案に45件、「プロジェクト企画調査」(以下、「企画調査」)提案に25件の応募があり、最終的に「プロジェクト」4件、「企画調査」2件を採択することができたが、われわれの研究開発領域、およびこのプログラムの使命として例示の形で公表している目標のすべてを、当該の4件がカバーすることはできなかった。したがって、本年度では、「出来れば、昨年度カバーし切れなかったトピックスを採択したい」という望みを持ち、説明会でも、その点に言及した。本年度の応募は、「プロジェクト」提案で27件、「企画調査」提案で15件であり、昨年度よりはかなり減っている。1つには、本年度採択されても、「プロジェクト」としては、名目上の期間が、4年が限度になることも響いていると推測される。応募のトピックスの分布は、期待したように欠けている分野にも広がっていたことは有難かった(採択された提案が、その点を十分に解決したものとなったか、という点では、議論が残るにしても)。
恒例により、書類審査で、「プロジェクト」提案7件、「企画調査」提案5件に絞り込んだ上で、8月6日に面接選考を行い、領域アドバイザーのほぼ全員の出席を得て、慎重かつ熱心な討議を経て、「プロジェクト」候補として4件、「企画調査」候補として2件を選出することができた。
結果として、採択された「プロジェクト」提案のなかで、柳氏、行岡氏を代表とする提案の2つは、昨年度すでに採択されている「科学技術の受容・活用に関する意思決定の方法論」に関ると考えられるが、佐藤氏を代表とする提案は、「研究コミュニティの変容の実態」に関ると見てよく、また柳下氏を代表者とするそれは、「不確実性を伴う問題に関する意思決定」のトピックスに繋がるべきものと解釈することができる。「企画調査」でも、貝谷氏を代表とする提案は柳氏らのそれと重なるが、瀬川氏を代表者とする提案は、昨年度欠けていた「研究者の社会リテラシー」にも関るものと考えられる。選考の過程では、評価の基準は、提案が飽くまで、「プロジェクト」として十分に練られ、かつ、本領域の趣意に十分合致しているかどうか、という点に置かれていたことは当然であるが、結果的には、ある程度、本プログラムの構成の重要な部分が埋められることになったのは、総括の立場からは満足している。
全体として、財政面で厳しい制約が課せられており、採択提案に関してもかなり予算の上で厳しいカットをお願いしなければならなくなったことは、本意ではないが、まことに心苦しく、責任者として、関係者にはお詫びをお伝えしなければならない。
今後、今回採択された6つの研究計画が所期の目的を果たすことができるように、相互の内的連携なども含めて出来る限りの支援努力を惜しまない所存であるので、研究・開発に当たる方々も、高い志操をもって良き成果が達成されるよう努力をして戴きたいとこころから願うものである。
採択研究開発プロジェクト
研究代表者 氏名 |
所属・役職 | カテゴリー | 題名 | 概要 | 研究開発に協力する 関与者 |
佐藤 哲 | 長野大学 環境ツーリズム学部 教授 |
II | 地域主導型科学者コミュニティの創生 | 地域社会の環境問題解決への取組の中で、地域社会に常駐するレジデント型研究機関・訪問型研究者・ステークホルダーの相互作用を通じて、科学者が問題解決型に変容しつつある実態を把握する。科学者とステークホルダーが参加する「地域環境学ネットワーク」を形成して、ステークホルダーと科学者の協働のガイドラインと、ステークホルダーが参加する科学研究の評価手法を構築し、地域社会による主体的な問題解決への貢献を使命とする科学者コミュニティを創生する。 | ・徳島県立千年の森ふれあい館 ・兵庫県豊岡市コウノトリ共生課 ・慶良間海域保全連合会 ・恩納村漁業協同組合 など |
柳下 正治 | 上智大学大学院 地球環境学研究科 教授 |
II | 政策形成対話の促進: 長期的な温室効果ガス(GHG)大幅削減を事例として |
長期的なGHGの大幅削減では、社会を構成するあらゆる主体(ステークホルダー、一般市民)の社会的意思が実現の鍵を握る。本プロジェクトでは科学者が描いたシナリオを素材に、科学者/専門家と社会の構成員が「対話」を重ねる中で社会的意思の形成の可能性を模索し、その方法論(場・仲介機能)を見出そうとするものである。なお、プロジェクトでは世界市民会議(World Wide Views)の日本での運営を行い、その過程や成果を活用することで「対話」を深化させることを企図している。 | ・東京工業大学、神戸大学、 文教大学、早稲田大学 ・(独)国立環境研究所 ・(独)産業技術総合研究所 ・(財)地球環境産業技術研究機構 ・NPO法人 気候ネットワーク ・東京電力株式会社 など |
柳 哲雄 | 九州大学応用力学研究所 所長/教授 |
II | 海域環境再生(里海創生)社会システムの構築 | 過去の沿岸域開発が社会に与えた影響を、社会との関係から明らかにするとともに、今後行おうとする里海創生事業において、周辺住民のニーズが反映できる事業実施手法を提案する。また、各地で進められている里海創生活動の実証例を類型化し、その成果を検証しつつ、関係者にその情報を提供し、沿岸域開発に関わるTA(技術アセスメント)、SEA(戦略的環境アセスメント)のあり方について、環境の保全・創生(再生)という視点から、新たな提案を行う。 | ・(独)産業技術総合研究所 ・瀬戸内海区水産研究所 ・香川県赤瀬研究所 ・瀬戸内海研究会議 ・瀬戸内海環境保全協会 ・瀬戸内海環境保全知事・市長会議 など |
行岡 哲男 | 東京医科大学 医学部救急医学講座 主任教授 |
II | 多視点化による「共有する医療」の実現に向けた研究 | 救命処置を要する患者は意識不明のことも多く、時間的制約から通常の「説明と同意」は例外視されてきた。医療を情報共有に基づく当事者間の納得を目指すプロセスとし、これを「共有する医療」と表現する。救命救急医療においてこそ、この達成が必要である。 本プロジェクトは情報技術とコミュニケーション分析の融合により、市民参加を得て救命の現場における「説明と同意」のための新たな基本モデルの提示を目指すものである。 |
・杏林大学 ・大阪大学 ・東京消防庁 ・臓器移植コーディネータ ・受診経験者 など |
採択プロジェクト企画調査
研究代表者 氏名 |
所属・役職 | 題名 |
貝谷 嘉洋 | 特定非営利活動法人日本バリアフリー協会 代表理事 |
当事者主体によるフリー・モビリティ社会の実現をめざして |
瀬川 至朗 | 早稲田大学 政治経済学術院 教授 |
研究者のマス・メディア・リテラシー調査 |
領域総括および領域アドバイザー
氏名 | 所属・役職 | |
領域総括 | 村上 陽一郎 | 東京大学大学院 総合文化研究科 特任教授 |
領域総括補佐 | 小林 傳司 | 大阪大学コミュニケーションデザイン・センター 教授 |
領域アドバイザー | 大守 隆 | 内閣府統計委員会 委員 |
奥山 紘史 | 日本電気株式会社 顧問 | |
柿原 泰 | 東京海洋大学 海洋科学部 海洋政策文化学科 准教授 | |
小林 悦夫 | 財団法人 ひょうご環境創造協会 顧問 | |
武部 俊一 | 日本科学技術ジャーナリスト会議 副会長 | |
中島 秀人 | 東京工業大学大学院 社会理工学研究科 准教授 | |
萩原 なつ子 | 立教大学 社会学部 社会学科 教授 | |
藤垣 裕子 | 東京大学大学院 総合文化研究科 准教授 | |
渡部 潤一 | 国立天文台 天文情報センター 准教授 |