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資料2

平成20年度 戦略的創造研究推進事業(CREST・さきがけ)
新規採択研究代表者・研究者および研究課題概要(第2期)


【さきがけ】
戦略目標:「プロセスインテグレーションによる次世代ナノシステムの創製」
研究領域:「ナノシステムと機能創発」
研究総括:長田 義仁((独)理化学研究所 基幹研究所 副所長)

【3年型】
氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
岩堀 健治 奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科 研究員 温度制御自己組織化システムの設計とナノ粒子高次構造による機能発現  本研究では、金属および化合物半導体からなるさまざまなナノ粒子を保持する事ができる耐熱性球殻状タンパク質にDNAで作製した温度応答性タグを非対称にデザインする事で、温度制御によるナノ粒子三次元積層構造の自動作製を目指します。この技術によりさまざまなナノ粒子の積み重ねが可能となり、これをデバイス作製に応用する事により今までのものを凌駕する新機能ナノ電子デバイスの創出が期待されます。
梅津 光央 東北大学大学院工学研究科 准教授 ナノ界面特異的バイオ接合分子を用いた多元ナノ結晶集合  本研究は、有機・無機材料結晶面を自発的に識別し結合できるペプチド・抗体分子断片を構成要素として、積み木細工様式で自在なバイオナノ接合分子をペプチド・蛋白質工学的に発想・調製します。そして、バイオナノ接合分子を用いた、不均一界面結晶構造が設計されたナノ結晶粒子を合成し、ナノ粒子表面構造とバイオナノ接合分子の架橋プログラムに沿った異種ナノ結晶粒子のフラクタル的ボトムアップ集合を確立します。
角五 彰 北海道大学大学院理学研究院 助教 階層構造を有するATP駆動型ソフトバイオマシンの創製  生体システムでは創発的な機能が発現されており、システムの構成要素の総和とは異なった機能を持ちます。このような非線形的な機能発現は生体のシステムが階層構造を有することによります。生体の階層構造は各々の構成要素が化学エネルギーを散逸しながら能動的に自己組織化することで組み上げられます。本研究では、生体分子モーターを能動的に集積することで自律的に機能創発するATP駆動型ソフトバイオマシンの創製を目指します。
佐々木 善浩 東京医科歯科大学生体材料工学研究所 准教授 三次元人工細胞アレイからなる化学チップの創成  微量の化学プロセスを安全、迅速、かつクリーンに取り扱うことができるマイクロ化学チップの開発は、医療、環境、エネルギー問題を解決し、サステイナブル社会を実現するための喫緊の課題です。本研究では、ガラスやシリコンなどに代わり「人工細胞」をボトムアッププロセスにより自己集積したバイオチップを開発し、プロテオーム創薬やテーラーメード医療への応用に向けた次世代ナノシステムを具現化します。
田川 美穂 東京大学大学院総合文化研究科 特任研究員 DNAセルフアセンブリによるナノシステムの創製  ナノテクノロジーにおける重要課題の一つとして、分子や微粒子などのナノ部品をボトムアップ的にアセンブリするためのプログラマブルな技術の開発があります。本研究では、DNAタイル(数本のDNA分子で作られた方形状のナノ構造体)をセルフアセンブリして構築したDNAタイルアレイを足場として、ナノ部品をプログラマブルにアセンブリし、トップダウン的な微細化技術の限界を超える技術の開発を目指します。
松村 幸子 (財)癌研究会癌研究所 研究員 適応進化的に機能創発するナノキャリアの開発  腫瘍環境という外部環境に応答して自発的にサイズや性状を変化させ、薬物の集積能やプローブ能の強化、細胞標的能力などの機能を創発する自律型ナノキャリアの作製を目指します。腫瘍環境特異的に高発現している酵素に着目し、その基質ペプチドを中心に合理的設計によって自己組織化能力や標的指向性などを組み込みます。生体適合性高分子や無機材料との融合により、環境適応的に進化するナノキャリアシステムの開発を行います。
藪 浩 東北大学多元物質科学研究所 助教 メタマテリアルの自己組織的作製とナノリソグラフィーへの応用  波長よりも小さい金属-誘電体の周期構造は、負の屈折率を持ち、回折限界以下の光を投影できるメタマテリアルとなることが報告されています。本研究では、自己組織化により内部にナノサイズの相分離構造を持つブロックコポリマー微粒子を作製し、ナノメッキ技術により金属化することで、紫外・可視光領域におけるメタマテリアルとします。これをレンズに用いることで、回折限界を超えるナノリソグラフィー技術の確立を目指します。
山越 葉子 ペンシルバニア大学医学部 Assistant Professor 超分子型フラーレンを用いたin vivoイメージング試薬の開発  本研究では、疾患特異的に発現しているタンパク質をターゲットとした新規in vivo イメージング剤を開発します。分子デザインは、造影剤部分となるGd内包型フラーレン、タンパク質基質となるリガンドペプチド部分、フラーレンを包接するキャビタンドから構成され、MRI造影活性の向上と造影活性のOn/Offを包接化合物による内包・解離によってコントロールすることを目指します。

【5年型】
氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
山内 悠輔 (独)物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 若手独立研究者 次世代磁気記録媒体に向けたナノ構造制御システムの構築  分子の自己組織化からなる集合体は、原子・分子サイズより一回り大きいサイズを有し、自発的に規則配列するという特徴があります。本研究では、この分子集合体をナノ構造体の鋳型として用い、トップダウン方式によって微細加工された基板を用いることによって、所望の位置で自己組織化を行わせ、さらには分子集合体の向きを自在に操り、自律的に高次機能を創発するシステムを構築します。
横川 隆司 立命館大学理工学部 専任講師 分子による分子の操作を可能にするMolecular Total Analysis Systems (MTAS)  本研究は、マイクロ・ナノマシニング技術に代表されるトップダウンの手法と、生体由来のタンパク質を利用したボトムアップの手法を融合することによる、分子分析システム(Molecular Total Analysis Systems、 MTAS)の基本原理の構築を目指します。確定的で信頼性の高いデバイス製作技術のナノスケール化と、分子レベルでのタンパク質の自己組織能が相補的に機能するナノシステムの創成が可能となります。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:長田 義仁((独)理化学研究所基幹研究所 副所長)

 本研究領域は、独創的な発想の下に、バイオ・分子科学、医用工学などのボトムアップ手法と微細加工、電子工学、知能情報工学などのトップダウン手法との融合を図ることにより、次世代高次機能を創発するナノシステム、たとえば、自己組織性分子システム、三次元加工プロセス、センシング・運動ナノデバイスなどの構築と実現を目指す挑戦的な研究を対象としています。また、これまでの3年型の研究に加え、今年新たに5年型の研究を公募したのが特徴です。
 公募に際してバイオ素子、細胞アレイチップ、ナノキャリア、ナノリソグラフィ、ナノ記録媒体など、105件(3年型90件、5年型15件)の応募がありました。これらの研究提案を12名の領域アドバイザーのご協力を得て書類選考を行ないました。「さきがけ」プログラムの趣旨にあるような、若手研究者らしい独自の、そして挑戦的発想であることを重視しました。このような観点から研究提案22件(うち3年型17件、5年型5件)を面接対象としました。面接選考に際しては提案者自身の着想であるかどうかという前記の趣旨確認に加え、研究内容の発展性、提案者の問題意識、研究環境など多面的に公平かつ厳正な審査を行いました。
 選考の結果、初年度の今年は、10件(うち3年型8件、5年型2件)を採択することにしました。自己組織化ナノ粒子、DNAナノシステム、molecular TASなど、いずれも新しい着想と意欲にみちた課題を選ぶことが出来たと考えております。不採択課題の中にも、極めて挑戦的、意欲的な課題も数多く見受けられましたが、計画性に問題があったり、本研究領域の対象の枠外であったりして採択には至りませんでした。これらの提案者には今回の問題点を踏まえた上で、提案を練り直して、再挑戦するよう助言したいと思います。
 来年度も「ナノシステムと機能創発」という観点から募集を行う予定ですので、より一層多様な分野と深化した発想の下、挑戦的で夢多い提案がなされることを期待しています。