JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第551号資料2 > 研究領域:「ナノ科学を基盤とした革新的製造技術の創成」
資料2

平成20年度 戦略的創造研究推進事業(CREST・さきがけ)
新規採択研究代表者・研究者および研究課題概要(第2期)


【CREST】
戦略目標:「ナノデバイスやナノ材料の高効率製造及びナノスケール科学による製造技術の革新に関する基盤の構築」
研究領域:「ナノ科学を基盤とした革新的製造技術の創成」
研究総括:堀池 靖浩((独)物質・材料研究機構 名誉フェロー)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
一木 隆範 東京大学大学院工学系研究科 准教授 ナノバイオチップ技術を利用する高速酵素分子進化システム創製  高速分子進化工学のパラダイムと技術にナノバイオチップ、1分子計測技術を融合することにより生物のメカニズムに習って分子機械を作り出すマザー製造システムの創製を目指します。 本研究は従来困難であった有用酵素の合目的進化を可能にする汎用性の高い実用化技術の実現を目的とし、医薬品、洗剤、食品加工、研究開発用試薬、臨床分析、さらにはバイオエネルギー、バイオセンサーなど広範なバイオ応用分野への貢献が期待されます。
佐々木 高義 (独)物質・材料研究機構ナノスケール物質センター センター長 無機ナノシートを用いた次世代エレクトロニクス用ナノ材料/製造プロセスの開発  層状化合物を層1枚にまでバラバラに剥離して得られる無機ナノシートを2次元機能ブロックとして基板表面に精密累積して、ナノ薄膜や超格子を形成する液相プロセスを開発します。この新規ナノ構造製造技術を用いて、従来のバルク材料では実現が困難な革新的な性能を有する誘電体薄膜や透明磁性薄膜などを創製するとともに、ガラスなど各種基材上に機能性結晶薄膜を配向成長させる技術の開発を行い、電子・情報通信技術の発展に貢献することを目指します。
下村 政嗣 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 教授 階層的に構造化されたバイオミメティック・ナノ表面創製技術の開発  生物に見られる自己集合・自己組織化による階層的構造化とそれに基づく機能発現を模倣して、ボトムアップ型生産技術としての「バイオミメティック・エンジニアリング」を体系化するために、散逸構造のように無秩序から規則構造が形成される「物理的プロセスとしての自己組織化」と、無電解メッキなどの「化学プロセスによる構造形成」を組み合わせ、ナノからミクロンにいたる多種多様な表面を階層的に加工する技術を確立します。
真島 豊 東京工業大学大学院理工学研究科 准教授 高精度にサイズ制御した単電子デバイスの開発  無電解メッキの自己停止機能を用いてギャップ長を高精度に制御した5nm以下のナノギャップ電極を一度に高い歩留まりで作製するプロセスを確立し、分子構造を精密に規定することが可能な金属クラスターおよび金属錯体分子ワイヤーを単電子島としてナノギャップ電極間に選択的に集積することにより、常温で確実に動作する「高精度にサイズ制御した単電子デバイス」により論理回路を構築するための製造技術を確立します。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:堀池 靖浩((独)物質・材料研究機構 名誉フェロー)

 本研究領域では、ナノ科学を基盤にナノスケールで初めて発現する新機能を内蔵した新材料や新デバイスの開発、およびそれらを高効率に製造する技術や、高精度に評価する技術群の基盤構築、およびこれらの応用による具体的実施例の提示、ならびに製造プロセスに係る現象のナノスケール科学による革新を志向した研究を推進し、これらを「ナノ製造技術」の基盤として構築することを通してナノテクノロジーの本格的実用化を目指します。社会の持続的発展の基盤となるナノ科学を駆使した独創的な「使えるナノテク」を目指した提案を練り上げていただくようメッセージを発信し、過程での議論を深め選考を進めてきました。
 今回の応募は33件でした。その多くが融合分野に属し、分野特定しにくい面がありますが、分類しますとナノプロセス系3件、ナノカーボン系2件、半導体・プロセス系2件、ナノデバイス系3件、バイオデバイス系10件、ナノ構造系5件、有機デバイス系4件、MEMS/NEMS系2件、計測系2件となります。全体の中でウエイトが増加したカテゴリーは、バイオデバイス系、ナノ構造系、MEMS/NEMS系でした。
 本研究領域の研究総括と領域アドバイザー計11名で、当該趣旨に概ね合致した新規な提案であるか、さらに、単にナノ現象の研究や製造技術に留まらず、当該戦略目標であるナノ科学技術を製造技術へいかにして具体的に展開しようとしているかに関して議論を深め、方向性の考え方を共有した後、書類選考により11件の提案を選択し、面接選考により以下の4件の提案を採択しました。
 面接選考に当たっては、当該領域の趣旨に合致しているかに加えて、ご提案と関係の深いテーマでのほかの研究費の取得状況なども勘案して質疑討議を行いました。本年度の選考も昨年度同様、専門家3名の査読に加えて、書類選考過程の後半で全アドバイザーによる、再査読を実施し、幅広い視点での議論を一層深めることができました。
 その結果、酵素の進化を可能にする高速酵素分子進化システムの提案、無機ナノシートの精密累積による電子・磁気機能発現を目指すナノ製造プロセスの開拓、散逸構造制御と無電解メッキを駆使したバイオミメティック・エンジニアリングの構築、高精度なナノギャップ制御と金属錯体分子ワイヤーによる室温動作単電子デバイス開発の4件の提案を採択しました。
 不採択提案の中には採択提案と匹敵する提案も多々ありましたが、研究内容としては優れているものの、構想のみでエビデンスに欠ける提案は受け入れることはできないことは当然ですが、当該領域の趣旨である実用化への具体性が述べられていない構想、他助成との切り分けの明確化が不足した提案が見られました。今回は最終の募集であることから、当該領域の広いスコープとこれまで採択してきた課題群との関連についても慎重に審議しました。最終的に厳しい審査を経て、ナノ製造、ナノデバイスが強化されました。
 当該領域は、今後12の課題によって戦略目標達成を目指して運営し、「使えるナノテク」の成果に繋げてまいります。限られた予算の制約のもとで採択できなかった多くの優れた提案には、将来の有望な技術シーズも含まれています。是非機会をとらえてナノテクノロジーの基盤強化に向けて推進いただくことを切望いたします。