戦略目標:「異種材料・異種物質状態間の高機能接合界面を実現する革新的ナノ界面技術の創出とその応用」
研究領域:「ナノ界面技術の基盤構築」
研究総括:新海 征治(崇城大学工学部 教授)
氏名 | 所属機関 | 役職 | 研究課題名 | 研究課題概要 |
一ノ瀬 泉 | (独)物質・材料研究機構ナノ有機センター | センター長 | 界面ナノ細孔での液体の巨視的物性の解明 | ナノ細孔は、内部のガスや液体に特異な熱力学的状態を与えます。細孔内での液体の沸点や凝固点は、温度や圧力などを変数として取り扱うことができます。しかし、密度や粘度、拡散係数などの巨視的物性の取り扱いは、学理としての体系化が遅れています。本研究では、分子シミュレーションや最新の構造解析技術を駆使することで、界面ナノ細孔での液体の流体力学的特性を解明し、革新的な膜分離技術を開発することを目指します。 |
小江 誠司 | 九州大学未来化学創造センター | 教授 | 水素活性化アクア触媒界面による常温・常圧エネルギー変換 | 常温・常圧で水素をプロトンと電子に変換する酵素であるヒドロゲナーゼを範として合成した「水素活性化アクア触媒」の界面を利用した、ナノレベルでの水素駆動型常温・常圧エネルギー変換を行います。具体的には、水素活性化アクア触媒の界面で水素から抽出した電子を利用する(1)常温・常圧燃料電池の開発、(2)水素から光へのエネルギー変換の開発、(3)環境調和型の水中・常温・常圧での酸化還元反応の開発を目指します。 |
栗原 和枝 | 東北大学多元物質科学研究所 | 教授 | 表面力測定によるナノ界面技術の基盤構築 | 研究代表者が開発したツインパス型表面力装置と共振ずり測定法を中心手段として、機能デバイス設計や反応場として重要な固-液界面の特性・機能を、分子レベルで解明・制御する新規ナノ界面技術の基盤形成を目的とします。特に、界面の液体をも機能分子として捉え、装置開発など新規アプローチを創製し、(1)金属も含む機能界面の特性評価、(2)束縛液体の特性、光反応機能の解明、(3)界面の高次階層機能構造制御などの研究を行います。 |
櫻井 和朗 | 北九州市立大学国際環境工学部 | 教授 | DDS粒子のナノ界面と鳥インフルエンザワクチン等への応用 | 薬物運搬システム(DDS)に使われるナノ粒子の機能は、親水層と疎水層のナノ界面を通した未知の相互作用に支配されています。次世代のDDSナノ粒子に関して、粒子の内部構造、粒子内の疎水/親水界面における薬物の挙動と形態、生体膜との融合挙動を、放射光を用いて精密に解明します。この結果を利用して、パンデミックフルーのワクチンを提案するとともに、遺伝子デリバリーやタンパク質製剤の分野に新しいDDS技術を提供します。 |
松本 和彦 | 大阪大学産業科学研究所 | 教授 | 量子界面制御による量子ナノデバイスの実現 | 本研究では、量子細線を利用し、ナノ構造の真の特長を生かした基礎デバイスとして、カーボンナノチューブ/金属電極の量子界面を制御し、電子の粒子性と波動性を自在に制御する量子ナノデバイスを実現します。また実用化デバイスとして、量子細線の周辺に同心円状に2層絶縁膜を形成し、同心円構造による電界集中を利用して、従来の平面構造メモリの~1/10の低電圧で動作する量子細線ナノメモリを実現します。 |
<総評> 研究総括:新海 征治(崇城大学 工学部 教授)
本研究領域は、「ナノ界面」を共通のキーワードにして、無機系、有機/高分子系、天然/バイオ系などから創出される機能材料とその評価法に関する優れた研究を発掘することを目的に選考会を重ねて来ました。
平成18年度は5件を採択しましたが、そのほとんどが無機系、無機/有機ハイブリッド系に偏ってしまいました。これは、現在「ナノ界面」を標榜する研究の最前線に位置しているのは、この分野の研究であることを反映した結果であると理解しています。既存の研究分野を一層発展させるのもCRESTの使命ではありますが、研究総括としては異分野の研究を「ナノ界面」というキーワードで横に繋ぐことにより、新しい研究分野が開拓されると考えていましたので、平成19年度は有機/高分子系、天然/バイオ系にやや軸足を移した選考を行い、5件を採択しました。その結果、合計10件の採択者の専門分野はバランスがとれた構成になったと考えています。特に、平成18年度に採択した東大の尾嶋チームは各チームと積極的に共同研究を展開し、本領域の「ハブチーム」になりつつあります。
このような経緯から、平成20年度は専門分野に関する偏りを排して選考を行いました。領域アドバイザーの先生方の協力を得て、まず11件をヒアリング対象として選考し、その中から上表に掲載されているような5件を採択するに至りました。採択者の専門分野は、無機系(松本先生)、評価系(一ノ瀬先生、栗原先生)、錯体系(小江先生)、有機/高分子系ないしはバイオ系(櫻井先生)とバランスがとれているように感じられ、これからの研究の展開が期待出来る布陣になったと感じています。
本研究領域の採択は平成20年度を以って終了しましたが、採択に至らなかった申請にも優れたものが多数ありました。特に、各々の専門領域で審査すれば世界水準を凌駕するような申請もいくつかありました。しかし、「ナノ界面」という本領域の命題にややそぐわないために、不採択という残念な結果となった面もありました。これらの申請課題は、研究テーマがより合致するプログラムに応募して、研究の展開が計られることを期待しています。