JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第551号資料2 > 研究領域:「実用化を目指した組込みシステム用ディペンダブル・オペレーティングシステム」
資料2

平成20年度 戦略的創造研究推進事業(CREST・さきがけ)
新規採択研究代表者・研究者および研究課題概要(第2期)


【CREST】
戦略目標:「高セキュリティ・高信頼性・高性能を実現する組込みシステム用の次世代基盤技術の創出」
研究領域:「実用化を目指した組込みシステム用ディペンダブル・オペレーティングシステム」
研究総括:所 眞理雄((株)ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長)
村岡 洋一(副総括)(早稲田大学理工学術院 教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
加賀美 聡 (独)産業技術総合研究所デジタルヒューマン研究センター 研究チーム長 実時間並列ディペンダブルOSとその分散ネットワークの研究  本研究は実時間周期タスク実行機能のディペンダビリティを持つART-Linuxと呼ぶOSに、マルチプロセッサ利用機能、実時間処理と優先度継承制御のためのシステムコールと解析機能、実時間通信機能、の3つの機能を実現します。実装はディペンダブルOS領域で研究されているディペンダビリティ規格に沿った形で行い、また同領域で開発されている検証ツールを利用可能とします。本OSを公開すると共に、ヒューマノイドロボット、ロボット用RTミドルウエア、企業の組み込みシステムでの実証実験を広く行い、5年後の実用化を目指します。
木下 佳樹 (独)産業技術総合研究所システム検証研究センター 研究センター長 利用者指向ディペンダビリティの研究  情報処理システムの社会的責任を考えに入れた、総合的なディペンダビリティをもつ規格を策定し、その適合性評価と規格適合のためのシステム・ライフサイクル(開発、運用、廃棄など)のガイドラインを定めます。ディペンダビリティをうたうシステムに一定の客観的基準を与えて利用者の安全安心に資するとともに、開発者に客観的付加価値としてディペンダビリティを提供する手段を与えることを狙います。
倉光 君郎 横浜国立大学大学院工学研究院 准教授 Security Weaver とPスクリプトによる実行中の継続的な安全確保に関する研究  本研究では、P-Busインターフェースに対応したSecurityWeaver を開発し、任意のセキュリティモジュール(アクセス制御や監査)を実行中に導入可能にすることで、予測不能なセキュリティ脆弱性に対応可能なディペンダルOSの研究開発を進めていきます。さらに、運用状況に応じて適切にSecurityWeaver の制御を行うための新しい記述システムとして、Pスクリプトの研究/開発を新たに行います。最終的に、ソフトウェア開発者に広く利用されるオープンソース・ツールの開発・公開を行う予定です。
河野 健二 慶應義塾大学理工学部 准教授 耐攻撃性を強化した高度にセキュアなOSの創出  仮想化テクノロジー、セキュリティチップなどの最新の技術動向を踏まえ、既存のオペレーティングシステム(OS)の持つセキュリティ機構の全般的な見直しを行い、既存OSが提供するセキュリティ機構と、現在の情報システムが求めているセキュリティ機構とのギャップを埋める高セキュアOSの創出を目指します。アドホックな要素技術の組み合わせに過ぎなかったセキュリティ技術を系統的かつ体系的に見直し、最新のハードウェア動向を最大限に活用した系統的かつ体系的なセキュリティ機構として統合します。具体的には、LinuxベースのOSにセキュリティ機能のための拡張性を持たせ、分割して実装されていた種々のセキュリティ機構を連携させて組み込めるようにし、かつ、仮想マシンモニタ層とセキュリティハードウェア層という2つの階層からその健全性を保証するというアプローチをとります。結果的にさまざまなセキュリティ機構を容易に組み込める基盤を提供することになり、実際に使われる実用OSとして踏み出していくことを狙います。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:所 眞理雄((株)ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長)
             村岡 洋一(副総括)(早稲田大学理工学術院 教授)

 コンピュータの実用化から半世紀以上が経ち、その応用範囲は基幹業務系やPCなどの「目に見える」コンピュータから、家電機器、自動車、携帯電話、センサー・アクチュエータなど、「直接目に触れない」形でありとあらゆる用途に広がって来ています。そして、「目に見える」コンピュータだけでなく、「直接目に触れない」形のコンピュータが急速にネットワークに接続されるようになって来ました。その結果、個々のシステムに対する高い信頼性、応答性、効率性に加えて、それらを接続した情報システム全体の信頼性、安全性、セキュリティ、可用性、効率性や、将来の拡張性や変更に対する動的対応性についても要求されるようになって来ました。本研究領域では、「直接目に触れない」コンピュータに対するこのような要求を満足し、また、近い将来実用に供することを目的とし、これまでの知的資産を活用し、ディペンダブルな組込みシステム向けのOSの研究開発を行います。また、研究成果の実用性を担保するために、個別の研究成果を統合して実用システムとして実現が可能であることを実証し、オープンソースの形で将来の更なる研究開発の基盤を提供することを目指します。すなわち、統合されたソフトウェア自身を本研究領域の最終的な研究成果と考えます。
 本研究領域は平成18年度に5件の研究提案を採択しました。(平成19年度は採択に至った研究提案はありませんでした。)それらの研究チームは採択決定直後の合宿を皮切りに、相互に緊密に連絡を取り、また、将来の具体的なニーズに関してはメーカを含む研究推進委員らと検討を重ね、ディペンダビリティに関する概念、基本アーキテクチャ、要素技術の研究開発を進めて来ました。その結果、ディペンダブルシステムの構築には、継続的かつ系統的な改良を可能とするアーキテクチャ技術やソフトウエアプロセス技術なども大変重要であることが分かってきました。加えて、安全規格などの国際標準との関連性についても実用性の観点から重要であることが分かりました。従って、本年度はこれらの項目を研究範囲に含め、研究提案を募集しました。
 募集に当たって、本研究領域の目的ならびにこれまでの進捗状況、今後の進め方についての基本的な考えを応募者に伝えるため、今年度もコンセプト説明会を開催し、また、関連資料をホームページで公開しました。その結果9件の応募があり、6名の領域アドバイザーとともに書類選考、面接選考を行いました。選考に当たっては、研究提案が研究としての十分な新規性を備えること、研究実施者がそのアイデアをソフトウェアとして期間内に完成することが十分期待できること、個別の研究成果をこれまでに採択した研究チームの成果とも統合してひとつの実用性のあるディペンダブルな組込みシステムを実現するために積極的に貢献する意思があること、を主たる基準としました。その結果、本年度は4件の研究提案を採択しました。一件はディペンダブルソフトウエア/OSの規格化と適合性評価のためのガイドライン作成に関する研究提案です。そのほかの3件はセキュアなOSを実現するためのアーキテクチャ、実装技術、実時間処理技術に関連する研究提案です。これらの研究提案はそれぞれの成果が期待できると共に、これまでに採択した研究提案の研究成果を補完・強化し、本領域の総合的な成果に大きく貢献すると考えます。