JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第551号資料2 > 研究領域:「先端光源を駆使した光科学・光技術の融合展開」
資料2

平成20年度 戦略的創造研究推進事業(CREST・さきがけ)
新規採択研究代表者・研究者および研究課題概要(第2期)


【CREST】
戦略目標:「最先端レーザー等の新しい光を用いた物質材料科学、生命科学など先端科学のイノベーションへの展開」
研究領域:「先端光源を駆使した光科学・光技術の融合展開」
研究総括:伊藤 正(大阪大学大学院 基礎工学研究科 教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
岩井 伸一郎 東北大学大学院理学研究科 准教授 先端超短パルス光源による光誘起相転移現象の素過程の解明  光電場の振動を数周期分しか含まない極短パルス光(可視~中赤外、テラヘルツ)を用いて、光と物質の相互作用の中でも、最も劇的で複雑な現象"光誘起相転移現象"の解明に挑みます。光が直接あるいは、相互作用を介してドライブする電荷、スピン、格子の素過程を明らかにし、さらに、強相関電子系物質の電子的性質を光で自由自在に変化させる方法への道を拓き、光でのみ可能な物質相の創成や光源開発の方向性を与える成果を目指します。
佐藤 俊一 東北大学多元物質科学研究所 教授 ベクトルビームの光科学とナノイメージング  ベクトルビームは、偏光、位相および強度分布を同時に、かつ精密に制御することで初めて形成される、全く新しい最先端レーザービームです。ベクトルビームの斬新で機能的な特徴が顕著に現れる、焦点付近での光の振舞いを系統的に探り、新しい光科学領域の開拓を目指します。さらに、材料科学・生命科学との融合研究を推進し、遠視野でのナノイメージングを可能とする、未踏の超解像光学顕微鏡法の開発を進めます。
辛 埴 東京大学物性研究所 教授 高繰り返しコヒーレント軟X線光源の開発と光電子科学への新しい応用  ファイバーレーザーの出現に伴い、従来のレーザーではほとんど不可能であった軟X線領域での物性研究が新しい主役になりつつあります。本研究では、レーザーと光電子科学の両者を結びつけた新しい光科学を目指します。特に究極のエネルギー分解、時間分解、空間分解を可能にする光電子科学の3つの分野を開拓し、世界最高の性能とそれらを組み合わせた新しい物性研究の開発を目標とします。
鈴木 俊法 京都大学大学院理学研究科 教授 真空紫外・深紫外フィラメンテーション極短パルス光源による超高速光電子分光  極短パルスによるフィラメンテーション非線形光学過程を利用して、深紫外、真空紫外域の高輝度極短パルスを発生させ、この新しい光源を利用した時間分解光電子イメージングによって、化学反応途上の分子内に起こる高速な電子状態変化を可視化します。光励起された分子のあらゆる電子状態変化を一挙に観測する革新的な実験を実現し、精密な量子化学計算とも連携しながら、生体分子を含む化学反応機構を明らかにします。
高橋 義朗 京都大学大学院理学研究科 教授 超狭線幅光源を駆使した量子操作・計測技術の開発  ヘルツおよびサブヘルツという極めて線幅の狭い超高安定な光源を開発し、光格子中のレーザー冷却された2電子系原子に適用します。これにより光磁気共鳴イメージングを駆使した単一光格子点の量子操作・検出技術やスピンスクイジングなどを駆使した新量子計測技術を開発して、光格子量子コンピュータのプロトタイプの実現や飛躍的な光格子時計の精度向上へ応用展開することを目指します。
本田 文江 法政大学生命科学部 教授 光ピンセットによる核内ウイルスRNA輸送と染色体操作~ウイルスゲノム除去への挑戦~  インフルエンザウイルスは感染すると粒子内のゲノムRNA/RNAポリメラーゼ/NP複合体(vRNP)が核内に輸送され複製増殖します。蛍光標識ウイルス感染細胞および蛍光標識RNP導入細胞の核内RNPの光ピンセットによる輸送を試み、その結果から核内でのRNP輸送に必要な力を計測し、算出された値を基に凝縮染色体の捕捉と操作に必要な光ピンセットを開発し、細胞ゲノムに挿入されたウイルスゲノムの除去手術を試みます。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:伊藤 正(大阪大学大学院 基礎工学研究科 教授)

 本研究領域では、物質・材料、加工・計測、情報・通信、環境・エネルギー、ライフサイエンスなどの異なる分野で個別に行われている光利用研究開発ポテンシャルの連携、融合を加速し、「物質と光の係わり」に関する光科学・光技術の利用と開発研究を主体的に推進することで、実用化や波及効果の大きな技術シーズを生み出すと共に、光源開発にもフィードバックをかける役割を担います。そのために、高度な性能をもつ最先端レーザーに代表される各種の先端光源をブラックボックス化することなく、光源の特徴を徹底的に駆使した特色ある「物質と光の係わり」に関する研究を推進します。光技術のニーズが明確であれば、未踏波長の開拓や位相・出力・パルス幅などを精密に制御する技術開発が含まれた研究も対象とします。また、医療・環境など人類にとって差し迫った難題解決に最先端レーザー科学・技術を導入駆使することでブレークスルーを生み出す利用研究も対象とするものです。
 平成20年度は、63件の応募がありました。「物質と光の係わり」に関する光科学・技術の幅広い適用を反映して、その内容は、ハイパワーレーザー利用、光波制御(波形整形応用)、医学・生命科学応用、放射光複合利用、量子情報、光物性、光化学、新奇光源技術など極めて多岐に亘りました。
 今年度の選考においては、研究総括、領域アドバイザー10名で、「物質と光の係わり」に関する光科学・光技術の利用と開発研究を主体的に推進する本研究領域の趣旨に沿っているか、国際レベルをリードする研究であるか、当該テーマでオリジナリティを発揮しているか、5年間で明確な進歩目標が提示されているか、研究実施体制は真に有機的に連携・統括されているか、異分野にも波及するものか、息の長い技術シーズを生み出すものか、産業的、社会的ニーズにどのように繋がるか、といったさまざまな観点で評価を行いました。書類選考により12件の提案を選択し、面接選考により上表の6件の提案を採択しました。面接選考にあたっては、研究提案者の提案内容と関係が深いテーマでのほかの研究費の取得状況や内容の相違などを勘案して質疑応答を行いました。選考過程においては、医用工学専門家1名の査読と書類選考後半で全アドバイザーによる再査読を実施したことから幅広い分野に亘って評価を共有し議論を深めることができました。
 その結果、超短パルス光源による光誘起相転移現象の解明、ベクトルビームによるナノイメージング、コヒーレント軟X線光源の開発と光電子科学への応用、極端紫外域光源を利用した化学反応の電子状態イメージング、超狭線幅光源による光量子制御、光ピンセットによる生体細胞内操作を各々目指す提案を採択しました。いずれも光源の究極的利用、「物質と光の係わり」に新局面を開くもの、光技術応用として極めて挑戦的なものです。予算規模は種別Ⅰが4件、種別Ⅱが2件でした。
 今年度の多岐に亘るご提案全課題を見ると優れたものが多くあり、不採択課題の中には採択課題と匹敵する提案もありましたが、光源利用の構想としては優れているもののその実現性や「物質と光の係わり」への具体的説明が不十分なもの、研究実績は十分であるが研究提案者の主体性と共同研究者の必要性の関係でCREST研究体制に適していないもの、本CREST研究領域の趣旨に沿ってほかの助成金との切り分けを明確に行う説得力に欠けるなどの点で一歩およびませんでした。来年度もほぼ同規模の募集を行う予定ですので、いずれの研究提案も本CREST研究領域の趣旨に沿って、挑戦的な目標を射程としつつも現状におけるデータを明確に示し、研究計画における年度毎の達成目標と研究者間の連携体制を具体的に明記し、研究構想をより一層磨かれた提案を期待したいと思います。
 なお、本研究領域の運営にあたっては、文部科学省の「最先端の光の創成を目指したネットワーク研究拠点プログラム」による新しい光源・計測法などの研究開発や人材育成、先端光源ユーザ開拓活動などと連携し、研究の一層の発展を図る予定です。