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別紙1

平成20年度 生物多様性データベース作成課題 選定課題一覧

課題名 生態系情報とリンクした生物多様性データベースの作成
代表研究者 日浦 勉 (北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター 教授)
概要  本データベースは、北海道・北大雨竜研究林から沖縄・琉大演習林までの全国32の森林サイトで同一プロトコルに従って採取されている、分解系食物網のなかで捕食者が多くを占める地表徘徊性昆虫の一般標本(2005年から季節ごとに毎年採取、年間採取標本数約5000、これまで約16000標本、今後も数十年継続予定)を中心に、森林生態系だけでなく沿岸や草地生態系も含む日本長期生態学研究ネットワーク(JaLTER)のサイトで今後採取される他の生物標本も対象としたものである。このデータベースは生物が採取された場所の物理環境や生態系構造など生息環境情報と直結させることと、長期的な経年変化も併せて時空間的に大きなスケールで生物多様性と生態系機能を同時に解析できることに大きな特徴があり、このようなデータベースは国内では他に類をみない。

課題名 無脊椎動物の標本データベースの作成
代表研究者 山西 良平 (大阪市立自然史博物館 館長)
概要  本課題では、国内の博物館などの機関が所蔵する無脊椎動物標本の情報を電子化するものである。
 日本は海洋に囲まれていることもあり、海産の無脊椎動物を扱う博物館や研究機関は多く、標本も多い。点数は未知だが、数十万点は下らないとみられる。しかし、その点数の多さと同定の難しさもあって、これらの標本情報の電子化は著しく遅れている。
 博物館標本は水産有用種に限らず、広い分類群をカバーしているという特徴がある。また、標本は、目撃や写真情報と異なり確実な分布記録であること、精密な同定作業が可能なこと、同定結果について将来的な検証可能性を有していることなどから、生物多様性情報としては信頼性が高いデータベースとなり得る。
 海産の無脊椎動物のデータベースとして供用されているものはあるが、その分類群は著しく限られている。

課題名 甲虫および訪花性昆虫類データベース
代表研究者 多田内 修 (九州大学大学院 農学研究院 教授)
概要  本課題は、GBIFへのデータ提供を前提に、重点分類群の一つである昆虫について、とくにデータベース化に対する要求の高い甲虫と訪花性昆虫類を対象に、重要コレクションを擁する複数の研究機関が協同しながら、タイプ標本だけでなく一般標本の画像情報も含む標本データベース構築しようというものである。今後、国内に保管されている昆虫標本情報のデータベース化を進めて行く上でのモデルケースとなると考える。

課題名 日本の海洋島に生育する野生植物種の標本データベースの構築
代表研究者 村上 哲明 (首都大学東京 牧野標本館 教授)
概要  小笠原諸島や大東諸島、琉球列島など日本の最南部に位置する島嶼には、特異な植物種が多数分布している。特に小笠原諸島と大東諸島は、一度も大陸(日本本土も含む)と陸続きになったことがない海洋島であり、世界でここにしか見られない固有植物種も多数存在している。これら日本列島の海洋島に生育する野生植物種の標本情報を皮切りにして、これらと密接に関連する植物種、そしてさらに尖閣諸島や南太平洋諸島(ミクロネシア)の植物標本(戦前、戦中の標本が多数残されている)についても日本に所蔵されている標本のデータベース化を行う。このように生物多様性の研究やその保全のための基礎的情報を提供するという観点から、特に重要なホットスポットと考えられる日本の海洋島を中心に標本データベース化を行うのが本データベースの特徴である。

課題名 京都大学瀬戸臨海実験所所蔵標本データベース
代表研究者 伊勢戸 徹 (京都大学 フィールド科学教育研究センター 瀬戸臨海実験所 助教)
概要  京都大学瀬戸臨海実験所には海産無脊椎動物に関する長い研究の歴史があり、歴代所員の分類学者らの活動によって多数の貴重な標本が所蔵されている。これらの標本群は、分類学的な価値が高く、当実験所としても標本調査や貸与の依頼に対応し、学問の発展に少なからず寄与してきた。これらは、海産無脊椎動物の中でも、他機関で扱われることがほとんど無い分類群を多く含むため、単純な標本数だけでは表せない価値を持つことも大きな特徴となっている。
 一方、これらとは別に、やはり歴代所員によって蓄積されたさまざまな分類群に対する標本群もあり、これらは白浜という一地域の生物相に対するまとまった標本群として大変価値が高い。しかし、これらはリスト化されていないため現在ではほとんど利用されることなく“埋もれた宝物”となっている。また、イシサンゴ類約500個の骨格標本が、それぞれに対応した(同一群体の)DNA抽出用標本と同時に保存されており、これらは研究資源として特に高い価値を持っている。また、国際的な沿岸域生物相調査プロジェクトであるNaGISAプロジェクトで採集される標本が随時追加されているが、これは国内外の実に多様な生物群を含む大変価値のあるものである。

課題名 鱗翅目データベース
代表研究者 上田 恭一郎 (北九州市立自然史・歴史博物館 学芸担当部長)
概要  本データベースは、鱗翅目に関する多様な情報を整理し、それらが容易に閲覧利用できる環境と基盤を提供する画像標本データベースを構築し、学名にはじまる分類学的データや分布、生態、形態、DNAといった種情報をあわせ、総合的に利用できるものを目指す。対象は戦前からの国内標本の蓄積と近年東アジアおよび東洋熱帯区の標本蓄積が著しい鱗翅目昆虫標本で、本計画期間内に5万件の画像付き標本データベースを作成する。また本計画では日本国内の鱗翅目昆虫の最新学名辞書、台湾産蝶類の学名辞書、同定困難な小蛾類300種の同定補助ツールが副産物として作成され、利用可能となる。さらに鱗翅目の種の同定には不可欠な雌雄交尾器の図を日本産蝶類240種について添付するが、他の昆虫データベースではここまで詳細なものは無く、東南アジア各国の昆虫インベントリーに大いに役立つことが期待される。