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科学技術振興機構報 第524号

平成20年6月12日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報課)
URL http://www.jst.go.jp

多患者細胞自動培養装置の開発に成功――再生医療をサポート――

 JST(理事長 北澤宏一)はこのほど、独創的シーズ展開事業・委託開発の開発課題「多患者細胞自動培養装置」の開発結果を成功と認定しました。
 本開発課題は、北海道大学大学院教授 木 睦らの研究成果をもとに、平成17年3月から平成20年3月にかけて川崎重工業株式会社(代表取締役社長 大橋 忠晴、本社 東京都港区浜松町2丁目4番1号、資本金1043億円)に委託して、企業化開発(開発費約4億円)を進めていたものです。
 再生医療注1)では、ドナーの細胞を培養して組織を再生します。再生医療用に培養する細胞は、間葉系幹細胞注2)を主体とする接着系細胞です。この接着系細胞の培養操作は、現状では医療用のクリーンルームであるCPC(Cell Processing Center)注3)内で手作業によって行われていますが、交差汚染注4)の面から無菌操作が必要で、複数患者の細胞を同時に取り扱うことは大変難しく、また汚染防止のための制約が大きいため、苦痛を伴う作業となっています。接着系細胞の培養が自動化できれば、再生医療の普及に大きく貢献でき、また、再生医療以外の分野でも、創薬研究などで細胞を使用するニーズがあるため、自動培養装置による一定品質の細胞の安定した供給が望まれています。
 本新技術では、要素技術として滅菌技術と画像処理技術、ロボットを使った自動培養技術を開発し、それらを組み合わせて複数患者の細胞を自動培養することを可能としました。本新技術を用いた装置(図1)により、培養・増殖用の複数の個室と共通作業部を区分して共通作業部を蒸気滅菌し、培地交換や継代培養などの作業をロボットで行うとともに、画像処理を組み合わせることが可能となり、ほぼ人手を介さずに複数患者の細胞を同時に目視培養することができるようになりました。
 信州大学に設置した評価機では、再生医療で最も多く使われる骨髄液中の間葉系幹細胞の自動培養を実現し、手作業による培養操作と同等の増殖性能、品質を得られました。また実用機では創薬研究などの細胞培養への使用を目指しており、幹細胞以外の多様な接着系細胞について、安定した品質の培養細胞の供給が実現できる見通しがつけられました。今後、iPS細胞などの再生医療への応用開発の加速化に向けて、再生医療の臨床や創薬研究などでの細胞自動培養装置の使用が期待されます。

 本技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景) 手作業による細胞培養には困難が伴うため、自動培養装置による一定品質の細胞の安定した供給が望まれています。

 再生医療ではドナーの細胞を培養して組織を再生します。この細胞培養操作は、現状では医療用のクリーンルームであるCPC内で手作業によって行われていますが、交差汚染防止の面から無菌操作が必要で、複数患者の細胞を同時に取り扱うことは大変リスクが高く難しいとされています。手作業は、作業者の技量に影響されるだけでなく、汚染防止のため長時間作業室に拘束されるなど制約が大きく、苦痛を伴う作業となっています。
 一方、再生医療用に培養する細胞は、骨や骨格筋、腱、心筋、神経細胞など多くの細胞に分化する能力を持つ間葉系幹細胞を主体とする接着系細胞(培養容器の底に接着した状態で増殖する)であり、接着系細胞の培養は作業者の経験によるところが多いため、自動化が困難とされています。培養の自動化が実現できれば、再生医療の普及に大きく貢献できるとともに、再生医療以外の分野でも創薬研究などで多種多様の細胞を使用するニーズがあるため、自動培養装置による一定品質の細胞の安定した供給が望まれています。

(内容) 間葉系幹細胞の自動培養を行う評価機と、幹細胞以外の多様な接着系細胞の自動培養を実現する実用機との、2台の自動培養装置を開発しました。

 本新技術では、ドナーから採取した骨髄液を自動培養し、移植に必要な量の間葉系幹細胞を自動培養します。異なるドナーの細胞を扱う前に滅菌を行うことで、複数のドナーの細胞の培養を行うことができます。要素技術として、滅菌技術と画像処理技術、ロボットを使った自動培養技術を開発した上で、評価機と実用機の2台の自動培養装置を開発しました。
 本新技術による自動培養装置は、培養・増殖用の複数の個室と共通作業部を区分して共通作業部を蒸気滅菌し、培地交換や継代培養などの作業をロボットで行うとともに、画像処理を組み合わせるようにしたものです。この技術開発により、ほぼ人手を介さずに複数患者の細胞を同時に目視培養する事が可能となりました。
 信州大学に設置した評価機では、再生医療で最も多く使われる骨髄液中の間葉系幹細胞の自動培養を実現し、実証試験を行いました。実用機では、創薬研究などの細胞培養への使用を目指し、幹細胞以外の多様な接着系細胞の自動培養を実現しました。

(効果) 再生医療の臨床や創薬研究などでの細胞培養への使用が期待されます。

 信州大で実証試験を行った評価機では、ドナーの骨髄液を自動培養し、手作業での培養と同等の増殖性能、品質が得られました。また、幹細胞以外の多様な接着系細胞の自動培養を目指した実用機では、安定した品質の培養細胞の供給が実現できる見通しがつけられました。今後、再生医療の臨床や創薬研究などでの細胞培養への使用が期待されます。

図1.細胞自動培養装置(外観)
図2.画像処理技術の応用
図3.自動培養工程(手作業での培養操作に準じる)
開発を終了した課題の評価

<用語解説>

注1)再生医療:
 事故や病気によって失われた体の細胞、組織、器官の再生や機能の回復を目的とした医療法で、皮膚移植や臓器移植、骨髄移植など生きた細胞を使った細胞移植をいう。

注2)間葉系幹細胞:
 間葉系幹細胞は分化能を維持して増殖することができ、骨や軟骨、骨格筋、腱、心筋、脂肪、神経細胞など多くの細胞に分化する能力を持つといわれている。骨髄に存在し、骨髄細胞を培養し増殖させた接着性細胞を適当な条件下で培養すると得ることができる。

注3)CPC(Cell Processing Center):
 先端細胞治療センターの略称。ここでの主な業務は、骨髄や末梢血、組織などから細胞を採取して、必要な細胞だけを分離し、目的とする細胞を増殖させた後、加工された細胞の品質検査を行い患者に移植することである。なお、細胞の一部は凍結保存される。

注4)交差汚染:
 病原微生物が、1つの物体や場所から他の物体、場所に移動し汚染を及ぼすこと。家庭内の例では、野菜が肉などの食材や、包丁やまな板、ふきんなどの調理器具に触れることによって病原微生物に汚染されることをいう。

<お問い合わせ先>

川崎重工業株式会社 広報室 パブリシティ課
〒105-6116 東京都港区浜松町2丁目4番1号
鎌田 雄介(カマダ ユウスケ)
Tel:03-3435-2130 Fax:03-3435-4759

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三原 真一(ミハラ シンイチ)、 福壽 芳治(フクジュ ヨシハル)
Tel:03-5214-8995 Fax:03-5214-8999