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<用語解説>

注1)シナプス
 神経細胞間で情報伝達を行う部位。情報を送る側の神経細胞からは、グルタミン酸などの神経伝達物質が放出され、それが受け手の神経細胞上の受容体と結合することにより、情報が伝わる。

注2)シナプス可塑性
 神経活動に依存してシナプスにおける情報伝達効率が変化し、それが持続する現象。学習・記憶の基盤になる。

注3)長期抑圧
 一般的には、シナプスにおける情報伝達効率が持続的に弱まる現象で、特定の神経活動パターンが何回か繰り返されると引き起こされる。小脳皮質のプルキンエ細胞(注5参照)では、顆粒細胞とのシナプスで起こり、運動学習において重要な役割を果たすと考えられている。1つのプルキンエ細胞は、10万以上の顆粒細胞からシナプスを介する信号を受け取っており、その中には円滑な運動を妨げるような情報も含まれると推測されている。長期抑圧は、そうした余分な信号を下オリーブ核神経細胞からの誤差信号に基づいて減弱する役割を担うと考えられている。

注4)運動学習
 スポーツ技能の向上など、体で覚えるタイプの学習で、エピソードや概念の記憶などとは区別されている。運動学習においては小脳が重要な役割を担う。

注5)プルキンエ細胞
 小脳皮質内で唯一信号出力を担う神経細胞。

注6)デルフィリン
 グルタミン酸受容体デルタ2サブユニットに結合するたんぱく質で、グルタミン酸受容体デルタ2サブユニット同様にプルキンエ細胞で発現している。

注7)グルタミン酸受容体デルタ2サブユニット
 プルキンエ細胞で特異的に発現している分子で、神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体と関係がある。この分子がないと長期抑圧が起こらない。

注8)視運動性眼球運動とその適応
 視野の動きを追う反射性の眼球運動。動物が行動する際の頭部の動きにより、視野のブレが生じるのを抑える働きをしている。マウスにおいては通常、視運動性運動だけでは視野の動きに追従しきれないが、マウスに視野の動きを見続けさせると、眼球の動きが次第によくなっていく。この現象は視運動性眼球運動の適応と呼ばれ、運動学習の一種である。