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科学技術振興機構報 第512号

平成20年5月14日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報課)
URL http://www.jst.go.jp

可視化遺伝子診断キットの開発に成功――ゲノム創薬をサポート

 JST(理事長 北澤 宏一)はこのほど、独創的シーズ展開事業・委託開発の開発課題「可視化遺伝子診断キット」の開発結果を成功と認定しました。
 本開発課題は、浜松医科大学教授 椙村春彦の研究成果をもとに、平成16年3月から平成19年9月にかけて株式会社常光(代表取締役社長 服部健彦 本社・東京都文京区本郷3丁目19番地4、資本金1億4964万円)に委託して、企業化開発(開発費約1億2300万円)を進めていたものです。
 本新技術は、異常増幅したがん遺伝子を病理切片上で染色・可視化し、それを検出する手法です。乳がんに適用される「ハーセプチン」など、いわゆる"ゲノム創薬"により開発された抗がん剤は、特定の遺伝子が過剰に増幅したがんに対してのみ有効です。従って、これからのがん治療を支える技術の1つとして、がんに関連した特定の遺伝子の異常増幅を高い精度で診断する方法が望まれていました。
 本開発では、DNAプローブ(特定の遺伝子配列に結合するDNA)で標識した乳がん関連遺伝子を2段階のステップで効率よく染色することにより、IHC法注1)の安定性とFISH注2)法の診断精度という、2つの従来法の長所を兼ね備えた遺伝子検出法(可視化法注3))を確立しました。別のDNAプローブを作製すれば、乳がん以外のがんの検出に適用することも可能で、ゲノム創薬の実用化を支える技術の1つとして利用が期待されます。
 なお、可視化法に先立って開発されたFISH法による遺伝子検査キットは、株式会社常光が平成20年3月に製造販売承認を取得しています。また、可視化法は平成19年7月に薬事承認申請を行っています。

 本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景) がん遺伝子を素早く高精度で検出する測定技術が望まれていました。

 ヒトゲノムの全解析が完了した現在は、その成果の活用が求められる時代となっています。病気と関連する遺伝子を特定しその遺伝子をコントロールする薬の開発をする"ゲノム創薬"が可能となり、中でもがん治療への応用はもっとも進んだ分野の一つです。すでに乳がんに適用する抗がん剤「ハーセプチン」などで実用化が始まっています。ただ、これらの"ゲノム創薬"による抗がん剤は、特定の遺伝子が過剰に増幅したがんに対してのみ有効であるため、がんに関連した特定の遺伝子の異常増幅を高い精度で診断する方法が望まれてきました。
 古典的ながん診断であるIHC法は、増幅量が中程度の試料では診断の確定が難しいという問題があります。一方、がん関連遺伝子の異常増幅を直接測定するFISH法は、特別な設備(蛍光顕微鏡)が必要、標本の長期保存ができないなどの問題があります。

(内容) がん遺伝子の異常増幅を高精度かつ安定的に可視化します。

 本新技術では、まず、患者からがん組織を採取します。次に、この組織をHER−2遺伝子(ハーセプチンに感受性の高いがんが有する遺伝子)と特異的に結合するDNAプローブを用いて標識し、さらに標識した部位を効率よく染色することにより、高精度と安定性を兼ね備えた遺伝子検出法を確立しました。
 本新技術により、増幅量が中程度の試料においても、光学顕微鏡によって遺伝子異常型に基づく検出が容易になりました。
 がんの病態はさまざまなので、診断の多角化という観点から、従来のFISH法も引き続き使われていくと考えられます。そこで本開発では、作業工程を改良して操作を簡便にしたFISH法の診断キットも作製し、新技術である可視化法と合わせ、複合的にがんを検出する体制を整備しました。

(効果) ゲノム創薬をサポートする技術として期待されます。

 特定のがん細胞を狙い撃ちする薬を開発するゲノム創薬の実用化には、特定のがんに関連した遺伝子の異常増幅を高い精度で診断する方法の確立が必要になります。本開発では、DNAプローブで標識した乳がん関連遺伝子を2段階のステップで効率よく染色することにより、IHC法の安定性とFISH法の診断精度という2つの従来法の長所を兼ね備えた遺伝子検出法を確立しました。別のDNAプローブを作製すれば、乳がん以外のがんの検出に適用することも可能で、ゲノム創薬の実用化を支える技術の一つとして利用が期待されます。

図1.可視化法による遺伝子検出の模式図
図2.FISH法によるHER2遺伝子検査キット
図3.FISH法によるHER2遺伝子検出例
開発を終了した課題の評価

<用語解説>

注1)IHC法:
組織切片上のタンパク抗原に対する特異的な一次抗体を反応させ、酵素標識二次抗体を反応させる。酵素反応を利用して基質を発色させる。これにより抗原部位を視覚化し、光学顕微鏡により抗原の有無を確認する手法です。

注2)FISH法:
検体DNAに前処理を施して一本鎖にした後、蛍光物質や酵素などで標識したDNAプローブと相補的な複合体を形成(ハイブリダイゼーション)させ、蛍光顕微鏡で検出する手法です。

注3)可視化法:
検体DNAに前処理を施した後、DNAプローブと相補的な複合体を形成(ハイブリダイゼーション)させ、酵素標識抗体を用いた色素染色を行い光学顕微鏡で検出する手法です。

<お問い合わせ先>

株式会社常光
〒213-8588 神奈川県川崎市高津区宇奈根731番地1
試薬機器事業部長 服部 直彦(ハットリ ナオヒコ)
Tel:044-811-9211 Fax:044-811-9209

独立行政法人 科学技術振興機構 産学連携事業本部 開発部開発推進課
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