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科学技術振興機構報 第510号

平成20年4月22日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報課)
URL https://www.jst.go.jp

ウォーターミストを用いた厨房用自動消火ユニットの開発に成功

 JST(理事長 北澤宏一)はこのほど、独創的シーズ展開事業・委託開発の開発課題「ウォーターミスト厨房用自動消火ユニット」の開発結果を成功と認定しました。
 本開発課題は、弘前大学大学院教授 伊藤昭彦らの研究成果をもとに、平成16年10月から平成19年10月にかけて株式会社初田製作所(代表取締役社長 初田和弘、本社 大阪府枚方市招提田近3丁目5番地、資本金8,000万円、Tel:072-856-1281)に委託して、企業化開発(開発費約8,200万円)を進めていたものです。
 ホテルやレストランでは厨房火災が重大な被害を招くため、厨房に自動消火装置の設置が義務付けられていますが、従来の自動消火装置で用いられる消火剤は強アルカリ性の薬剤を使用しているため、消火装置が作動すると厨房や食品が汚染され、速やかな業務再開ができないことが問題となっていました。また、薬剤を使わない水スプレー式自動消火装置は、噴霧水の粒子が大きいため消火効果が低く、さらに天ぷら油などの油火災に対しては油飛散の危険があるため適用されていません。このため安全で汚染の少ない自動消火装置が望まれています。
 本開発では、従来の水スプレー式自動消火装置より細かい水噴霧(ウォーターミスト)を放射することで、油火災などにも適用可能な自動消火ユニットを開発しました。ミストを低速で放射することで火炎の撹拌による酸素供給を抑制するとともに、自然対流を利用しミストが効果的に火炎中心部に導入されるようにノズルの数や方向を最適に設定し、窒息効果(酸素供給の遮断)と冷却効果を高めました。これらの新技術により、薬剤を必要としない世界的にも画期的な厨房用消火装置が実現しました。
 このウォーターミストを用いた自動消火ユニットは、調理用鍋などの油火災などに対して迅速な消火が可能かつ再燃がなく、従来の消火剤と異なり消火後の汚損もないことから、業務用厨房ばかりでなく、家庭用キッチン向けの消火装置としても広く普及することが期待されます。

 本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景) 業務用厨房での油火災などが多発し、多くの被害が生じているため、安全で汚染の少ない自動消火装置が望まれています。

 業務用厨房での天ぷら油火災などが毎年発生し、被害も大きいため、レストランやホテル、病院などは法令により自動消火ユニットの設置が義務付けられています。しかし、従来の消火剤はアルミなどの厨房の調理器具や食材に汚損を招く強アルカリ性の強化液注1)が主に用いられているため、消火剤の放射によって調理器具や食材が汚染され、大事に至らない場合でも後処置の負担が大きく、速やかな業務再開ができないなどの問題があります。不活性ガス消火剤として性能の優れたハロンガスは、オゾン層破壊物質として現在は使用できなくなりました。また、従来の水スプレー式自動消火装置は調理器具や食材に害がない半面、消火効果が低く、また油飛散の危険があるため厨房には適用されていません。

(内容) ウォーターミストの放射において、周囲からの自然対流を利用して火炎中心部に効果的に導入し、窒息効果と冷却効果を総合的に高めることで、短時間消火を可能にしました。

 本新技術では加圧容器に入った消火水を、レンジフード下部に取り付けたノズルから、水スプレー式消火装置よりも平均粒径が小さい100μm以下のミストとして放射する方式としました。これにより、水粒子が高温の油に沈んで突発的に沸騰し、油飛散を起こす危険がなくなりました。また、ミストの放射速度は火炎を撹拌して酸素供給を助長することがない程度の低速としました。ノズルの個数や放射方向は、周囲から火災部に向かう自然対流を利用し、効果的にウォーターミストが導入されるように設定し、窒息効果(噴霧水で炎を包み込んで周囲から酸素が供給されないようにすること)と水による冷却効果を高めました。また、ノズルには調理の油煙による噴射穴の目詰り防止のために、噴射圧で容易に脱離する保護キャップを設けました。厨房での直径60cmの中華鍋による油火災モデルによる消火実験において、容積6リットルの消火水容器と4個のノズルを配置した実験例では、火災の検知・自動噴射から30秒以内で消火され、再燃もないことが確認されました。本自動消火ユニットは消防設備性能評定を受けるための条件も整っています。

(効果) 業務用厨房への利用に加えて、家庭の台所レンジにも使用できる簡便な自動消火ユニットの提供が期待されます。

 本自動消火ユニットは、簡易ユニット構造で設置も容易であることから、ホテルやレストランなどの業務用厨房以外に、家庭用レンジへの利用も期待されます。

図1 ウォーターミスト自動消火ユニット概要
図2 ノズル組立外観
図3 消火水容器・制御装置
開発を終了した課題の評価

<用語解説>

注1)強化液:
 従来の自動消火装置などで用いられている消火用薬剤。水に炭酸カリウムを添加した強アルカリ性の液体。厨房で薬剤が放射された場合、調理器具や食品などが汚染され、速やかな復旧が難しい。

<お問い合わせ先>

株式会社初田製作所 生産本部 商品開発課
〒573-1132 大阪府枚方招提田近3丁目5番地
村井 詠一(ムライ エイイチ)
Tel:072-856-1288 Fax:072-856-1310

独立行政法人科学技術振興機構 産学連携事業本部 開発部 開発推進課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
三原 真一(ミハラ シンイチ)、高野 晃(タカノ アキラ)
Tel:03-5214-8995 Fax:03-5214-8999