<研究概要> |
生体は様々な病原微生物やアレルゲンに対して、口腔、鼻腔から始まり腸管にいたるテニスコート1.5面分に相当すると言われる広大な粘膜面を介して直接暴露されている。そこには、第一線生体防御機構として働く粘膜免疫システムの存在が明らかになり、その解明が進んでいる。広大な腸管粘膜には、ドーム球場のような形をしたパイエル板と呼ばれる組織があり、ここには粘膜免疫を担当するリンパ球が組織化されて集まっている(図1)1)。このパイエル板にドーム状の屋根を形成している上皮細胞層には、M細胞と呼ばれるウィルスや細菌に代表される病原微生物、アレルゲンなど異物を取り込む専門細胞が存在している。そして、このM細胞から病原微生物が取り込まれると、それに対する免疫応答が開始されることが知られていた。これらのM細胞は「パイエル板M細胞」と呼ばれ、各種病原微生物の侵入門戸とも考えられてきた。今回の研究成果は、感染源の侵入門戸であり異物取り込みの場でもあるM細胞が、パイエル板のように粘膜免疫担当細胞が組織化され機能しているリンパ節様組織から遠く離れ、上皮細胞層から形成される絨毛の先端部に存在することをつきとめたことにある(図2)2)。そこで、この細胞集団を絨毛上皮細胞層に存在するM細胞ということで「絨毛M細胞」と命名した。この「絨毛M細胞」は、正常なマウスの腸管粘膜だけではなく、パイエル板が欠損しているような遺伝子改変マウスでも存在しており、サルモネラ菌、大腸菌、エルシニア菌3)など病原性細菌がここから侵入できることも明らかになった。つまり、生体の第一線防御機構である粘膜免疫を司るパイエル板が存在していなくてもM細胞が発達し、病原微生物侵入や異物取り込みの場があることを証明した4)。組織化されたリンパ球集団が存在しない場所に存在する「絨毛M細胞」は、病原微生物にとっては都合よい侵入門戸と言えるかもしれない。この発見は粘膜面を介した感染、そしてそれにターゲットをあてた粘膜ワクチン開発に向けて新しい概念の確立と新戦略を提供するであろう。 |
|
<解説> |
1) |
腸管におけるパイエル板の存在パターンは、背丈の高い絨毛群の中にドーム状組織が点在している。つまり、同リンパ組織をドーム球場と考えれば絨毛と言う高層ビル群のなかにドーム球場が存在している位置関係にある(図1参照)。 |
2) |
直接外界に接している腸管粘膜を形成している背丈の高い絨毛先端部にM細胞が存在している。つまり、感染源や抗原が入ってくる管腔側において、ドーム球場より高さが高い高層ビルの屋根に相当する絨毛先端部に玄関の役割をするようなM細胞が存在している(図2参照)。 |
3) |
エルシニア菌は冷蔵庫の温度でも増殖し、下痢、腸炎そして敗血症などを引き起こす。 |
4) |
パイエル板には組織化されて粘膜免疫担当細胞が存在している。つまり、ドーム状上皮細胞層に存在する「パイエル板M細胞」から侵入または取り込まれた病原微生物・抗原に対しては、直ちに応答し、防御できる体制にある。一方、「絨毛M細胞」が存在している場所では粘膜免疫担当細胞が存在するものの、組織化された状態ではないため効果的に機能しない。前者に存在する免疫担当細胞は組織化・統率された免疫軍団であり、後者は無秩序な状態にある免疫軍団ということになる。 |
|
|
<論文タイトル名> |
Intestinal villous M cells: An antigen entry site in the mucosal epithelium
(腸管絨毛M細胞の発見:粘膜上皮における抗原侵入門戸)
doi :10.1073/pnas.0400969101 |
|
この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。 |
研究領域: |
免疫難病・感染症等の先進医療技術
<研究総括:岸本 忠三 大阪大学大学院生命機能研究科 客員教授> |
研究期間: |
平成14年~平成19年 |
|
|
|
|
<本件問い合わせ先> |
清野 宏 (きよの ひろし)
東京大学医科学研究所 感染・免疫大部門 炎症免疫学分野
〒108-8639 東京都港区白金台4-6-1
TEL: 03- 5449-5270
島田 昌(しまだ まさし)
独立行政法人科学技術振興機構
戦略的創造事業本部 研究推進部 研究第一課
〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8
Tel: 048-226-5635
|
|