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科学技術振興機構報 第490号

平成20年3月13日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報課)
URL http://www.jst.go.jp

エボラウイルス膜たんぱく質が細胞内を輸送される仕組みを解明

(抗エボラウイルス薬の研究開発に一歩前進)

 JST基礎研究事業の一環として、東京大学医科学研究所の河岡義裕教授らは、エボラウイルス注1)の増殖に不可欠な膜たんぱく質VP40の細胞内輸送において、COPII輸送注2)と呼ばれる分子機構が重要な役割を果たしていることを発見しました。
 エボラウイルスは増殖するために細胞に感染し、その感染細胞からは多くの子孫ウイルスが放出されます。エボラウイルスのVP40は、子孫ウイルスの形成において中心的役割を果たしています。しかし、子孫ウイルスの放出時にVP40がどのように細胞表面に運ばれているかは、ほとんど分かっていませんでした。
 本研究チームは、エボラウイルスのVP40が細胞表面に輸送されるメカニズムを解明するために、VP40と結合する宿主たんぱく質を検索しました。その結果、VP40は、細胞内のたんぱく質の輸送を担うCOPII複合体注3)の構成たんぱく質であるSec24C注3)に結合することにより、宿主のCOPII輸送をVP40の細胞内輸送に利用していることが明らかになりました。また、エボラウイルスと近縁のマールブルグウイルス注1)のVP40も、COPII輸送を細胞内の輸送に利用していることが判明しました。
 この研究成果は、未知であったウイルスたんぱく質の細胞内輸送を明らかにしたのみならず、ウイルスの放出機構を治療ターゲットとした抗エボラウイルス薬の開発にもつながります。今後、他のウイルスが、エボラウイルスやマールブルグウイルスと同様に、COPII輸送を増殖過程に利用しているかを詳細に検討する必要があります。
 本成果は、2008年3月12日(米国東部時間)発行の米国科学雑誌「Cell Host & Microbe」(Cell姉妹誌)に掲載されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
研究領域 「免疫難病・感染症等の先進医療技術」
(研究総括:岸本 忠三 大阪大学大学院生命機能研究科 教授)
研究課題名 インフルエンザウイルス感染過程の解明とその応用
研究代表者 河岡 義裕(東京大学医科学研究所 教授)
研究期間 平成13年度〜平成18年度
 JSTはこの領域で、免疫が関わる各種疾患に対する先進医療技術を中心とし、次世代の医療技術の基礎と応用に関する研究を進めています。上記研究課題では、インフルエンザウイルスやエボラウイルスなどのウイルス感染過程の理解を深め、そこで得られた知識を、これら感染症制圧に応用することを目指した研究を行いました。

<研究の背景>

 エボラウイルスを原因ウイルスとするエボラ出血熱は、人での致死率が90%に達するウイルス性人獣共通感染症です。本来はアフリカなどに限局する疾患ですが、交通手段の発達に伴い、何時どこでエボラ出血熱を発症する患者が出現しても不思議ではない状況にあります。
 本研究チームは、エボラウイルスの増殖に不可欠なウイルスたんぱく質であるVP40を細胞内で人工的に作らせると、VP40は細胞表面に運ばれ、エボラウイルスと非常によく似た粒子であるVLP(Virus-Like Particle)注4)として放出されることを以前に報告しました。また感染細胞内では、VP40が子孫ウイルスの構成に必要な他のウイルスたんぱく質を、ウイルス粒子形成の場である細胞表面へと運ぶ働きもしています。VP40が細胞表面へ運ばれることが、ウイルス粒子形成において無くてはならない段階ですが、そのメカニズムはほとんど分かっていませんでした。

<研究内容と成果>

 細胞内でウイルスたんぱく質のうちVP40のみを作らせると、VP40は細胞表面に運ばれます。つまり、VP40の細胞表面への輸送は他のウイルスたんぱく質が無くても起こるため、宿主である細胞が持っているたんぱく質が関与していることが示唆されていました。そこで本研究チームは、VP40と結合する宿主細胞のたんぱく質を検索しました。その結果、細胞内のたんぱく質の輸送を司るCOPII複合体の構成たんぱく質であるSec24Cが、VP40と特異的に結合することを発見しました。
 この結合がVP40の細胞内輸送に重要であるかどうかを明らかにするために、Sec24Cとの結合が正常でないVP40変異体の性状を解析した結果、VP40によるVLP放出およびVP40の細胞表面への輸送が顕著に抑制されていました(図1)。次に、COPII輸送を阻害した細胞におけるVP40の細胞内局在を観察した結果、VP40の細胞表面への輸送、およびVP40によるVLP放出が著しく抑制されていました(図2)。これらのことから、VP40がSec24Cを介してCOPII輸送を細胞内輸送機構として利用していることが明らかとなりました。
 同様に、他のウイルスにおいてもCOPII輸送が利用されているかを調べた結果、エボラウイルスと近縁のマールブルグウイルスの膜たんぱく質VP40も細胞内を輸送されるときにCOPII輸送を利用していることが示されました(図3)。

<今後の展開>

 今回の成果により、エボラウイルスのVP40たんぱく質の細胞内輸送にはCOPII輸送が必要であることが分かりました。この段階は、ウイルス増殖にとって必須であるため、新規抗ウイルス薬の開発につながることが期待されます。

<付記>

 本研究成果は、「Cell Host & Microbe」2008年3月号の表紙を飾っています。

図1 正常なVP40および変異VP40を作らせた細胞の様子
図2 COPII輸送を阻害した細胞におけるVP40の細胞内局在
図3 マールブルグウイルスのVP40たんぱく質の細胞内局在
<用語解説>

<論文名>

"Ebola Virus Matrix Protein VP40 Uses the COPII Transport System for Its Intracellular Transport"
(エボラウイルス膜たんぱく質VP40は細胞内輸送機構としてCOPII輸送を利用する)

<お問い合わせ先>

東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 ウイルス感染分野
〒108-8639 東京都港区白金台4−6−1
河岡 義裕(かわおか よしひろ)
Tel: 03-5449-5310 Fax: 03-5449-5408
E-mail:

独立行政法人 科学技術振興機構
戦略的創造事業本部 研究推進部 研究第一課
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瀬谷 元秀(せや もとひで)
Tel:03-3512-3524 Fax:03-3222-2064
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