エボラウイルスは増殖するために細胞に感染し、その感染細胞からは多くの子孫ウイルスが放出されます。エボラウイルスのVP40は、子孫ウイルスの形成において中心的役割を果たしています。しかし、子孫ウイルスの放出時にVP40がどのように細胞表面に運ばれているかは、ほとんど分かっていませんでした。
本研究チームは、エボラウイルスのVP40が細胞表面に輸送されるメカニズムを解明するために、VP40と結合する宿主たんぱく質を検索しました。その結果、VP40は、細胞内のたんぱく質の輸送を担うCOPII複合体注3)の構成たんぱく質であるSec24C注3)に結合することにより、宿主のCOPII輸送をVP40の細胞内輸送に利用していることが明らかになりました。また、エボラウイルスと近縁のマールブルグウイルス注1)のVP40も、COPII輸送を細胞内の輸送に利用していることが判明しました。
この研究成果は、未知であったウイルスたんぱく質の細胞内輸送を明らかにしたのみならず、ウイルスの放出機構を治療ターゲットとした抗エボラウイルス薬の開発にもつながります。今後、他のウイルスが、エボラウイルスやマールブルグウイルスと同様に、COPII輸送を増殖過程に利用しているかを詳細に検討する必要があります。
本成果は、2008年3月12日(米国東部時間)発行の米国科学雑誌「Cell Host & Microbe」(Cell姉妹誌)に掲載されます。
戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST) | ||
研究領域 | : | 「免疫難病・感染症等の先進医療技術」 (研究総括:岸本 忠三 大阪大学大学院生命機能研究科 教授) |
研究課題名 | : | インフルエンザウイルス感染過程の解明とその応用 |
研究代表者 | : | 河岡 義裕(東京大学医科学研究所 教授) |
研究期間 | : | 平成13年度~平成18年度 |
<研究の背景>
エボラウイルスを原因ウイルスとするエボラ出血熱は、人での致死率が90%に達するウイルス性人獣共通感染症です。本来はアフリカなどに限局する疾患ですが、交通手段の発達に伴い、何時どこでエボラ出血熱を発症する患者が出現しても不思議ではない状況にあります。
本研究チームは、エボラウイルスの増殖に不可欠なウイルスたんぱく質であるVP40を細胞内で人工的に作らせると、VP40は細胞表面に運ばれ、エボラウイルスと非常によく似た粒子であるVLP(Virus-Like Particle)注4)として放出されることを以前に報告しました。また感染細胞内では、VP40が子孫ウイルスの構成に必要な他のウイルスたんぱく質を、ウイルス粒子形成の場である細胞表面へと運ぶ働きもしています。VP40が細胞表面へ運ばれることが、ウイルス粒子形成において無くてはならない段階ですが、そのメカニズムはほとんど分かっていませんでした。
<研究内容と成果>
細胞内でウイルスたんぱく質のうちVP40のみを作らせると、VP40は細胞表面に運ばれます。つまり、VP40の細胞表面への輸送は他のウイルスたんぱく質が無くても起こるため、宿主である細胞が持っているたんぱく質が関与していることが示唆されていました。そこで本研究チームは、VP40と結合する宿主細胞のたんぱく質を検索しました。その結果、細胞内のたんぱく質の輸送を司るCOPII複合体の構成たんぱく質であるSec24Cが、VP40と特異的に結合することを発見しました。
この結合がVP40の細胞内輸送に重要であるかどうかを明らかにするために、Sec24Cとの結合が正常でないVP40変異体の性状を解析した結果、VP40によるVLP放出およびVP40の細胞表面への輸送が顕著に抑制されていました(図1)。次に、COPII輸送を阻害した細胞におけるVP40の細胞内局在を観察した結果、VP40の細胞表面への輸送、およびVP40によるVLP放出が著しく抑制されていました(図2)。これらのことから、VP40がSec24Cを介してCOPII輸送を細胞内輸送機構として利用していることが明らかとなりました。
同様に、他のウイルスにおいてもCOPII輸送が利用されているかを調べた結果、エボラウイルスと近縁のマールブルグウイルスの膜たんぱく質VP40も細胞内を輸送されるときにCOPII輸送を利用していることが示されました(図3)。
<今後の展開>
今回の成果により、エボラウイルスのVP40たんぱく質の細胞内輸送にはCOPII輸送が必要であることが分かりました。この段階は、ウイルス増殖にとって必須であるため、新規抗ウイルス薬の開発につながることが期待されます。
<付記>
本研究成果は、「Cell Host & Microbe」2008年3月号の表紙を飾っています。
<論文名>
"Ebola Virus Matrix Protein VP40 Uses the COPII Transport System for Its Intracellular Transport"
(エボラウイルス膜たんぱく質VP40は細胞内輸送機構としてCOPII輸送を利用する)
<お問い合わせ先>
東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 ウイルス感染分野
〒108-8639 東京都港区白金台4-6-1
河岡 義裕(かわおか よしひろ)
Tel: 03-5449-5310 Fax: 03-5449-5408
E-mail:
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戦略的創造事業本部 研究推進部 研究第一課
〒102-0075 東京都千代田区三番町5番地 三番町ビル
瀬谷 元秀(せや もとひで)
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