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科学技術振興機構報 第481号

平成20年2月28日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報課)
URL https://www.jst.go.jp

再生医療が新たなステップに-ヒト培養軟骨の開発に成功

 JST(理事長 北澤 宏一)はこのほど、独創的シーズ展開事業・委託開発の開発課題「自動制御培養法を用いたヒト培養軟骨」の開発結果を成功と認定しました。
 本開発課題は、広島大学教授 越智 光夫および大阪大学教授 田谷 正仁の研究成果をもとに、平成12年3月から平成19年9月にかけて株式会社 ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(代表取締役社長 小澤 洋介 本社・愛知県蒲郡市三谷北通6丁目209番地1、資本金55億4,315万円)に委託して、企業化開発(開発費約456百万円)を進めていたものです。
 本新技術は、軟骨損傷を患者自身の軟骨細胞によって治療する再生医療に関するものです。
 軟骨組織はいったん損傷すると自然には治癒しないため、これまでは対症療法注1)しかありませんでした。高齢化の進行に伴って関節症患者がさらに増加することが見込まれており、新たな治療法の開発が望まれています。
 本新技術は、関節軟骨を損傷した患者から関節鏡手術で少量の軟骨組織を採取し、軟骨細胞をアテロコラーゲン注2)中で三次元培養注3)したのち、患者自身の軟骨欠損部へ移植するもので、臨床試験において安全性と有効性が検証されました。
 自家培養軟骨移植注4)による治療は、軟骨を損傷した患者に対する新たな可能性を示すものであり、関節の障害に苦しんでいる人々のQOL(生活の質)を改善する技術として期待されます。

 本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景) 軟骨損傷に対する根本的な治療法が望まれていました。

 軟骨組織はいったん損傷すると自然には治癒しないため、これまでは対症療法しかありませんでした。高齢化の進行に伴って関節症患者がさらに増加することが見込まれており、新たな治療法の開発が望まれています。
 再生医療は従来の治療法では十分な治療ができなかった疾患に対して、治療の選択肢を広げるという意味で大いに期待されています。本技術は再生医療を軟骨治療に応用したもので、交通事故による外傷やスポーツによるケガ、変形性関節症などの軟骨損傷に対する根本的な治療の可能性を示すものです。

(内容) 軟骨損傷を患者自身の軟骨細胞によって治療します。

 本新技術では、まず、関節軟骨を損傷した患者から、関節鏡手術で少量の軟骨組織を採取したのち、軟骨細胞を分離します。次に、この軟骨細胞をアテロコラーゲンというゲルに入れ、厚さや大きさを整えたのちに、培地(栄養液)の中で培養します。この方法は三次元培養と呼ばれており、アテロコラーゲンのような支持体を使うことによって、軟骨細胞の本来の性質を維持したまま培養できるという特徴があります。また、患者本人の細胞を使用するので、免疫による拒絶反応がほとんどないという利点もあります。本開発課題では、製造方法を最適化するとともに、品質管理の方法も確立してきました。
 このような方法で作られた培養軟骨は、医療機関へ運ばれて患者自身の軟骨欠損部へ移植されます。この新技術で作製した培養軟骨について、関節外科を専門とする国内の医療機関で臨床試験を実施した結果、安全性と有効性が検証されました。

(効果) 関節の障害に苦しんでいる人々のQOL改善技術として期待されます。

 軟骨の損傷が原因となって、関節の痛みに苦しんでいる人は年々増加しています。膝が痛くて歩くのがつらかった人の痛みを軽減することによって自由に歩けるようになれば、身体的な改善だけではなく、精神的な苦痛からも解放されると考えられます。自家培養軟骨移植による治療は、軟骨を損傷した患者に対する新たな可能性を示すものであり、関節の障害に苦しんでいる人々のQOL(生活の質)を改善する技術として期待されます。

図1 培養軟骨
図2 細胞分離から組織移植までの流れ
<用語解説>
開発を終了した課題の評価

<お問い合わせ先>

株式会社 ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング
〒443-0022 愛知県蒲郡市三谷北通6丁目209番地1
経営管理部総務課 PIR担当 榊原(サカキバラ)
Tel:0533-66-2020 Fax:0533-66-2019

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三原 真一(ミハラ シンイチ)、剱持 由起夫(ケンモチ ユキオ)
Tel:03-5214-8995 Fax:03-5214-8999