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<用語解説>

注1)獲得免疫
 病原体感染後期の抗原特異的な免疫機構。長期にわたり抗原に対する免疫反応を記憶します。また、獲得免疫系には、B細胞による抗体産生(液性免疫)とヘルパーT細胞や細胞障害性T細胞(CTL: Cytotoxic T Lymphocyte)による細胞性免疫の2つが存在します。

注2)DNAの右巻きの二重らせん構造(B-DNA)
 通常、二本鎖DNAはワトソン、クリックが示したように右巻きの二重らせんの構造を取り、B-DNAと称されます。ウイルスやその他の病原体だけでなくヒトの二本鎖DNAのほとんどはこのB-DNAの構造を取っているとされます。二本鎖DNAのなかには左巻きのらせん構造を取るものも知られ、ジグザグ状に見えるのでZ-DNAといわれています。

注3)Tank-Binding Kinase 1(TBK1)
 ウイルス感染時におけるインターフェロン産生に重要なシグナル伝達分子のひとつで、細胞内酵素の一種。またTLR3とTLR4におけるインターフェロン産生には必須ですが、TLR9によるインターフェロン産生には関与していないとされています。

注4)自然免疫系
 病原体感染初期の感染防御を担う免疫機構。以前は原始的で特異性の無いものと考えられてきましたが、最近、トル様(よう)受容体(Toll-like receptor)注7)の発見、その役割の解析により、自然免疫系が病原体を特異的に認識すること、病原体に適応した反応を引き起こすこと、また感染後期の獲得免疫系の活性化にも重要な役割を果たしていることが明らかとなってきました。

注5)アジュバント
 抗原(ワクチン)の免疫原性を高める目的で抗原とともに生体に投与される試薬のこと。自然免疫を活性化するものが多く、その中でも結核菌の死菌を含んだCFA(Complete Freund Adjuvant)や、病原体由来のリポ多糖(LPS)、核酸(CpG DNA,ポリIC)などが実験的にはよく使用されています。近年、これらのアジュバントの多くはトル様(よう)受容体のリガンドであることが判明しました。

注6)CpGモチーフ
 TLR9を介する病原体(細菌やウイルス)に多く見られる特殊な塩基配列。

注7)トル様(よう)受容体
 Toll-like receptorの和訳でTLRと略され、TLR1からTLR13までが知られています。主に免疫細胞であるマクロファージや樹状細胞、B細胞などに発現するたんぱく質で、病原体に特異的な構造を持つたんぱく質、脂質、核酸などを認識し免疫細胞を活性化します。活性化された細胞では病原体の貪食、排除が促進され、炎症性サイトカイン、インターフェロンなどを産生し、他の細胞に危険信号を与えたり、T細胞などによる獲得免疫系への橋渡しをしています。TLR9は樹状細胞、B細胞に強く発現しているTLRで、病原体のDNAに多く存在する非メチル化DNAを認識し、サイトカインやⅠ型インターフェロンを誘導します。

注8)遺伝子欠損マウス
 特定の遺伝子を機能させなくしたマウスのこと。機能が分からない遺伝子が見つかったとき、遺伝子操作によってその遺伝子を発現しないマウス(遺伝子欠損マウス)を作製し、正常のマウスと比較して機能を調べるのに用います。

注9)Ⅰ型インターフェロン
 ウイルスに感染した時に細胞から分泌されます。主にリンパ球系から産生されるインターフェロンαと非リンパ球系から産生されるインターフェロンβがあり、抗ウイルス、抗がん作用を示すことが知られています。

注10)炎症性サイトカイン
 病原体の生体内への侵入があった際、自然免疫系は発熱などの炎症反応を惹起することにより細菌などの病原体を排除します。この炎症反応の原因となるものが炎症性サイトカインです。

注11)DAI
 DNA-dependent activator of IFN-regulatory factorsの略。DNA依存性インターフェロン調節因子活性化分子のこと。ZBP1(Z-DNA binding protein 1)とも呼ばれます。