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<用語解説>

注1)フラーレンC60
1985年に、クロトー、スモーリー、カールらによって発見され、この功績によりノーベル化学賞(1996年)を受賞した。フラーレンとも呼ばれる炭素クラスターであり、ちょうど60個の炭素原子から構成され、サッカーボールと同じ切頂二十面体という構造になっている。アルカリ金属をドープすると超伝導になり、高い電子活性をもつ。n型のトランジスタ動作をし、アモルファスシリコンを上回る高い電界効果移動度を示す。

注2)反射高速電子線回折(RHEED)による強度振動観察
真空中で電子銃から加速した電子を試料表面に数度のごく低い角度で入射させる。電子線は試料表面で反射して、蛍光スクリーンで像を結ぶ。電子線の波長は結晶間隔よりずっと短いため、原子単位での表面状態が像に影響する。この回折の反射強度は、原子・分子が一層ごとの積み重ねに応じて振動するので、薄膜の層数を原子・分子レベルで"数える"ことが可能になり、超格子構造を作製できるようになる。

注3)有機系半導体
半導体としての性質を示す有機物やπ共役材料(フラーレンなど)のことで、次に示す有機エレクトロルミネッセンスとして応用されており、有機系薄膜トランジスタや有機太陽電池などへの応用が期待されている。伝導性は、π電子と呼ばれる非局在の電子が担っており、π共役半導体とも呼ばれる。

注4)連続波赤外線レーザー堆積法(図2
半導体レーザーからの連続波赤外線レーザー光はファイバーを通して真空装置内に導入される。レーザー照射された有機粉末原料は、局所的に加熱されて気化する。また高感度RHEEDスクリーンを用いることによって、有機材料が破壊されないような微弱な電子線強度でも回折像を観察することができる。

注5)超格子構造
複数の種類の結晶格子の重ね合わせにより、その周期構造が基本単位格子より長くなった結晶格子のことであり、天然に存在しない人工的な結晶構造を創り出すことができる。半導体では、江崎玲於奈によって提唱され、積層の厚さの加減や原子の種類の選択などによってバンド幅を比較的自由に制御することができる。これによって例えば、半導体レーザーの波長を変化させることができる。また金属では、非常に高感度の磁気センサーとなることが発見され、現在のハードディスクに用いられている。フェール氏とグリュンベルク氏は、この功績によってノーベル物理学賞(2007年)を受賞した。

注6)ヘテロ構造
異種材料A,Bを原子・分子レベルで積層した界面A-Bをもつ構造で、界面を一つしかもたないものをシングルヘテロ構造、A-B-Aのように交互に積層したものをダブルへテロ構造という。このような界面では電荷が移動したりすることによって、それぞれの材料だけでは発現しない現象が現れる。超格子構造はヘテロ構造を繰り返したものに相当する。

注7)分子線エピタキシー(MBE)
真空蒸着法のひとつであり、物理吸着を利用する。 高真空のために、原料供給機構より放たれた分子が他の気体分子にぶつかることなく直進し、ビーム状の分子線となる条件で蒸着することをいう。蒸気圧の高い材料では、気化したときに高真空の状態を維持できないためクヌーセンセルなどを用いる必要がある。

注8)2次元成長(レイヤー・バイ・レイヤー成長)
薄膜成長には、2次元的な成長から3次元的な成長までのさまざまな様式がある。