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科学技術振興機構報 第454号

平成19年12月27日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel: 03-5214-8404(広報・ポータル部広報課)
URL http://www.jst.go.jp

対立するリスクの対策を最適化するための合意形成支援ツール
「多重リスクコミュニケータ(MRC)」の開発

(世田谷区内の小中学校の校内ネットワークシステムで、個人情報漏洩対策に適用)

 JST(理事長 北澤 宏一)は、社会技術研究開発センター(センター長 有本 建男)の社会技術研究開発事業において、対立するリスクに望ましい対策を最適化するための合意形成ツールである「多重リスクコミュニケータ(MRC)」を開発しました。このMRCを東京・世田谷区役所の協力の下、世田谷区内の小中学校の校内ネットワークシステムにおける個人情報漏洩対策へ実際に適用し、有効性を確認しました。
 本研究開発は、社会技術研究開発事業「情報と社会」研究開発領域(領域総括:土居 範久 中央大学 理工学部 教授)の計画型研究開発「高度情報社会の脆弱性の解明と解決」の一環として、佐々木 良一(東京電機大学 未来科学部情報メディア学科 学科長・教授)らにより行われたもので、平成20年1月8日(火)に日本学術会議 講堂で開催される社会技術シンポジウム「高度情報社会の脆弱性の解明と解決」において発表されます。

<開発の背景>

 企業や社会はいろいろなリスクを抱えており、最近では1つのリスク対策が、新しいリスクを発生させるということも少なくありません。例えば、セキュリティ対策として暗号化やデジタル署名のために公開鍵証明書というものを利用しますが、そこに書かれた住所や生年月日が個人情報の流出につながり、プライバシー上の問題になるなどです。このような「リスク対リスク」の時代を迎える中、多重のリスクとコストを考慮しながら、望ましい対策案の組み合わせを求められるようにすることが非常に大切になってきています。
 また、経営者などにとって望ましい対策が、顧客や従業員などにとって望ましくない状況を招かぬよう、これらの意思決定関与者の間で合意を形成しうる対策案の組み合わせが求められるようにすることも不可欠となっています。

<開発内容と成果>

 上記のような問題を解決するために、東京電機大学の佐々木 良一 教授らは、(株)アドイン研究所および(株)ピンポイントサービスと協力し、いろいろなリスクやコストを考慮しながら、最適の対策案の組み合わせを導き出して経営者や顧客、従業員などの意思決定関与者による合意形成を支援するためのツール「多重リスクコミュニケータ(Multiple Risk Communicator:MRC)」を、開発しました(図1)。
 MRCは、図1の右側に示すように、専門家向け入出力部、演算部、関与者支援部、全体制御部、データベース部、ネゴシエーション(合意形成)基盤などから構成されており、専門家や複数の意思決定関与者などが利用します。専門家が組み合わせ最適化問題として専門家向け入出力部から入力した情報をもとに、最適化エンジンなどの演算部が計算した結果を、関与者支援部を通して意思決定関与者に分かりやすく表示するようになっています(図2)。
 これに対して、それぞれの関与者が「もっと別の対策案が考えられる」、または「制約条件値が違う」などの意見をオンラインなどで示すと、その内容はネゴシエーション基盤(2者間で情報交換するためのツールがベースとなる)を通して専門家に伝えられます。それを受けた専門家によって変更された入力情報が、多重リスクコミュニケータに与えられ、新しい結果が表示されるようになっています。この過程を繰り返すことにより、関与者間の合意を形成しようというものです。

 今回開発したMRCを東京電機大学、電気通信大学、岩手県立大学、(株)IT働楽研究所などが協力して、個人情報漏洩問題、不正コピーによる著作権侵害問題、内部統制問題などに試行的に適用しました。この過程で意思決定関与者を第三者が演じたところ、合意が形成できる場合が多く、MRCは有効であるという認識を持つことができました。

 さらに、世田谷区役所と協力して、世田谷区内の95校の小中学校において、各校の教職員が児童・生徒に関する情報等を管理するために使用する、学校毎に独立した校内ネットワークシステムに対する個人情報漏洩対策という実際の環境にMRCを適用しました。ここでは、トータルコストの最小化を目的関数とし、対策コスト、個人情報漏洩確率、利便性負担度を制約条件としました。区役所の情報システム部門の責任者、教育委員会のシステム担当者、学校の教員を意思決定関与者とし、3回の会合で12通りのケースにおける最適解を示す中で、対策案組み合わせの合意を形成することができました。世田谷区では、この成果を今後の情報セキュリティ対策に生かしていく予定です。

■ 社会技術シンポジウム「高度情報社会の脆弱性の解明と解決」のご案内

 平成14年度から5ヵ年計画で進めてきた社会技術研究開発センター「情報と社会」領域計画型研究開発の最終的な研究成果を発表するために、下記のとおりシンポジウムを開催します。本シンポジウムの中で「多重リスクコミュニケータ(MRC)」の概要と適用状況についても紹介します。ぜひ、お越しください。

日時平成20年1月8日(火) 10:00〜17:00
会場日本学術会議 講堂(東京都港区六本木7−22−34)
参加費無料
主催日本学術会議、科学技術振興機構(JST)

詳細については、下記URLをご参照ください。
 http://www.the-convention.co.jp/jst-ws/

図1 多重リスクコミュニケータ(MRC)開発の背景と構成
図2 意志決定関与者向け画面

<お問い合わせ先>

東京電機大学 未来科学部 情報メディア学科 教授
〒101-8457 東京都千代田区神田錦町2−2
佐々木 良一(ササキ リョウイチ)
Tel:03-5280-3328 Fax:03-5280-3592
E-mail

科学技術振興機構 社会技術研究開発センター 企画運営室
〒100-0004 東京都千代田区大手町1丁目1番2号
佐藤 雅裕(サトウ マサヒロ)
Tel:03-3210-1210 Fax:03-3210-1300
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