JST-ハーバード大学-ハワードヒューズ医療研究所 国際共同研究プロジェクト
研究領域「器官再生」の研究基本計画
- Tissue and organ generation from stem cells and molecular analysis -
 
 近年、再生医療の早期応用に向けて、先行する両生類未分化細胞や哺乳類の胚性幹細胞(ES細胞)を用いた研究を基に、in vitroでの組織・器官形成研究のさらなる進展が強く求められている。
 これまでの基礎研究からヒトのES細胞や組織幹細胞を用いた臨床応用へとスムーズな移行を図る為には、各種臓器のin vitro及びin vivoでの誘導解析系をさらに発展させ、臓器形成における分子的メカニズムをさらに解明する必要がある。例えば幹細胞からのin vitroでの臓器・組織誘導とその移植による治療の実現は、移植に関わる医学的安全性と倫理性を念頭に置くと、ヒト幹細胞からの確実な臓器形成とその適切な分化制御の実現にかかっているといえる。
 ヒトのES細胞からの臓器形成は倫理的問題を伴うため、将来的な理想としては、患者の体細胞からその個人に合わせて自由にあらゆる臓器を誘導・形成させる系の開発が必要だと考えられる。これに向けて、本共同研究では最初にマウスおよびツメガエルの未分化細胞を用いた臓器形成系を確立し、さらにこれを既に樹立されているヒトES細胞の系へ移行させることを検討する。ヒトES細胞株はその由来によってゲノムレベルでの個人差(一塩基多型;SNP)を反映した差異があり、これが臓器形成に与える影響についても殆ど知られていない。
 またさらに、この人為的組織分化・臓器形成の結果を正常発生と比較することが重要であり、これによってそもそも幹細胞の未分化状態とはどういうことであり、どのような状態であればいかなる臓器に分化しうるのかといった傾向を理解することができると考えられる。ある特定の細胞分化状態の指標を細胞内小器官や細胞骨格の動態、細胞膜や各種受容体タンパク質の状態と遺伝子マーカーの発現変化の比較などを基に確立する必要がある。これらの知見を基に患者の体細胞や器官を正常なものと比較することで、その疾患の原因を細胞や組織のレベルで明らかにすることも出来る。そこで本研究では、既に分化した細胞を適切に脱分化させ、目的臓器に再分化させるシステムの形成を試みることを提案する。この手法により、移植に伴う免疫拒絶反応の問題やウイルス汚染の可能性、さらには倫理的問題を避け得ると考えられ、この分野において大きな進歩となる可能性がある。
 再生医療を目的とした臓器形成の研究は現在多方面でなされているが、多くは胚性幹細胞から細胞・組織レベルの分化誘導にとどまっており、高頻度に高次構造をもつ臓器の形成には至っていない。実際の応用に向けて患者の大規模な損傷を修復するための人為的な臓器形成の系を開発するには、ツメガエルおよびマウスの未分化細胞からの高頻度かつ高次な臓器形成の手法を基に、既にヒト幹細胞の扱いに習熟し、独自の実験・解析系とノウハウをもつ米国側と共同研究をおこない、ヒト幹細胞からの高頻度な臓器形成を実現するのが望ましいと考えられる。これらの研究により日米両チームはここに、協力して以下の目的の達成を目指すものとする。
目的:
 本プロジェクトの目的は、マウスおよびヒトのES細胞または組織幹細胞を用い、in vitroで特定の臓器を形成させる誘導条件を確立し、その分子的メカニズムを明らかにすると共に、分化した細胞を未分化状態へと人為的に脱分化させることを目指し、分化細胞および未分化細胞の分子的条件を比較し、未分化であるとはどういう状態であるのかを総論的に明らかにすることにある。特にヒトES細胞からの膵臓分化機構については予備実験が双方で最も進んでいる状態であり、これについては重点的に研究を推進する。
目標:
1) ヒトES細胞を用い、in vitroにおいて膵臓組織を高率で誘導する系を確立する。(米国側)
2) 骨・骨格筋・心筋・腎臓・歯・神経等の各組織・器官についても、マウスES細胞や組織幹細胞から高率で誘導する系を開発する。(日本側)
3) 上記2)の誘導系を基に、各組織・器官誘導の分子的メカニズムについて、各遺伝子マーカーや誘導因子の働きから明らかにする。(日本側)
4) 分化した細胞と未分化細胞の遺伝子発現プロファイルを遺伝子とタンパク質の両面から比較し、分化状態を導く因子やシステムを明らかにする。(日本側及び米国側)
5) 分化した細胞と未分化細胞の細胞質を細胞間で交換、ないし移植する手法を用い、細胞内小器官や細胞骨格のレベルでの変化が未分化状態・分化状態でどのように異なるかを明らかにする。(日本側及び米国側)
6) 5)の系を基に、これらの変化が細胞の遺伝子発現や細胞表面の受容体複合体などを含むタンパク質の局在の変化とどのように対応するかを明らかにする。(日本側及び米国側)
 上記の目標を達成するために、日本チームは主に、マウスES細胞や組織幹細胞などを用いて各種組織・臓器の分化誘導系を開発し、その分子的メカニズムの解明を行う。また、人為的脱分化を目指す上で基本となる実験系の開発と、実際の未分化細胞および分化細胞の比較解析を行う。アメリカチームは主に、独自の誘導系または日本チームの誘導系を基に、ヒトES細胞を用いた膵臓等の臓器形成を担当し、同時にヒト細胞を用いた膵臓形成における分子的メカニズムの解析を行う。  本プロジェクトは再生医科学と医学分野での治療における新たな展開を意味し、患者の苦痛を和らげるという目的を可能な限り速やかに実現することを目指す。
 
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This page updated on March 29, 2004

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