JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第447号資料2 平山核スピンエレクトロニクスプロジェクト
資料2

研究領域の概要及び研究総括の略歴

戦略的創造研究推進事業 (ERATO型研究)
平成19年度発足

平山核スピンエレクトロニクスプロジェクト

平山 祥郎 氏
【研究総括】平山 祥郎 氏
(東北大学大学院理学研究科 教授)
研究領域「核スピンエレクトロニクス」の概要
 原子は原子核と電子から構成されており、これらはともに、物質の磁気的な性質と関係しているスピンを有しています。電子の持つ電子スピンは、ハードディスクの読み取りヘッドを始めとして、エレクトロニクス分野で広く利用されています。一方、原子核の持つ核スピンについては、電子スピンよりもスピンの向きが変わりにくく、量子状態を保持しやすいという特徴があり、近年、量子コンピュータなどへの応用が強く期待されています。しかしながら、核スピンは精密な制御が困難であり、その応用が制限されていました。
 本研究領域は、半導体量子構造やナノマテリアルにおいて核スピンを精密に制御する技術を確立し、量子情報処理のための半導体デバイスや超高感度NMRへの展開を目指すものです。
 具体的には、ガリウムヒ素(GaAs)結晶を用いたナノスケール領域での核スピンのコヒーレント制御という研究総括独自の知見を足がかりに、(1)まず電子スピンと核スピンの相互作用の研究を行い、その知見を生かして電子を介した核スピン同士の相互作用、その制御技術の研究を行います。また、これらの成果を(2)固体のための超高感度NMRの開発、(3)半導体構造における核スピンの制御へと展開し、最終的には単一核スピンの制御を目標とします。ここで得られる超高感度NMR測定技術により、半導体の構造や電子物性について、新たな解析を行うことができます。さらに、これらの研究を通じて、未知の物理現象を数多く見いだし、核スピンが重要な役割を果たす新たなエレクトロニクス分野の創出につなげることを目指します。
 本研究領域は、量子情報処理技術の実現に向けての、核スピンを用いた多量子ビット量子デバイスの構築などにつながり、戦略目標「情報通信技術に革新をもたらす量子情報処理実現に向けた技術基盤の構築」に資するものと期待されます。
 ※コヒーレント:(波の)位相がそろっているという意味。
核スピンに基づく新しいエレクトロニクス研究の確立

研究総括 平山 祥郎 氏の略歴等
1.氏名(現職)
平山 祥郎(ひらやま よしろう)
(東北大学大学院理学研究科 教授) 52歳
2.略歴
昭和53年3月 東京大学工学部電子工学科卒業
昭和58年3月 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了(工学博士)
昭和58年4月 NTT 物性科学基礎研究所(及びその前身)研究員
昭和62年2月 NTT 物性科学基礎研究所主任研究員
平成 8年4月 NTT 物性科学基礎研究所グループリーダ
平成14年7月 NTT 物性科学基礎研究所部長兼グループリーダ
平成18年7月 東北大学大学院理学研究科物理学専攻 教授
 この間
平成 2年12月〜平成 3年12月 マックスプランク研究所客員研究員
平成10年 4月〜平成13年 3月 NTT 物性科学基礎研究所特別研究員
平成13年 5月〜平成14年 3月 北海道大学客員教授
平成17年10月〜平成18年 6月 東北大学客員教授
3.研究分野
固体物理(実験): 量子伝導、キャリア相関
4.学会活動等
SSDM 2006(プログラム委員会委員長)
ISCS 2007(プログラム委員会委員長)
Advanced Heterostructure Workshop (AHW) 2004, 2006(日本委員長)、2008(全体委員長)
Report on Progress in Physics(2005 年からEditor)
2003 年から、NSF、FOM やその他の様々な研究プログラムの査読を担当
5.業績
 集束イオンビームで局所的に超格子構造を混晶化したり微細な高抵抗領域を形成したりする手法を独自に開発し、半導体メゾスコピック構造に応用して注目を集めたのち、1989年から超高移動度半導体構造の研究に参画し、特に電子が半導体中を散乱されずに長距離直進することを確かめた。その後、様々な高移動度へテロ構造やこれらの構造から作製された高品質ナノ構造に関する研究を継続し、特に高移動度半導体構造のバックゲートによる制御を実現し(Applied Physics Letters(APL), 1998)、バックゲートとトップゲートを用いて高い制御性が実現できることを示した。
 さらに、これらの構造で生じるキャリア相関に着目し、半導体を用いて量子コンピュータの元になる量子ビットを実現する研究を推進し、半導体を用いた量子ビットや半導体へテロ構造、ナノ構造のキャリア相関の分野において内外で主導的な役割を果たしてきた。具体的には電荷や電子スピンを用いた量子ビットの研究を進め、半導体量子ドットでスピンの緩和時間が非常に長くなることを示し(Nature, 2002)、結合量子ドットを用いて半導体電荷量子ビットを世界で初めて実現した(Physical Review Letters(PRL), 2003)。さらに、半導体中で核スピンが長いコヒーレント時間を有することに着目し、分数量子ホール効果領域での核スピンと電子スピンの相互作用を調べ、核スピン情報を抵抗測定で読み出すことが可能であり核スピンの緩和特性が電子物性に極めて敏感であることを示した(PRL, 2002)。この現象を拡張することで、半導体ナノ領域での核スピンの制御を実現し、四重極分離した核スピンのすべての遷移がコヒーレントに制御できることを世界に先駆けて示す(Nature, 2005)とともにバックゲートで制御された二層系に核スピンを利用した測定を応用することで、電子スピンが傾いた状態(傾角反強磁性状態)が二次元系に存在することを明確に示した(Science, 2006)。 ナノプローブを用いて半導体中の電子状態を測定する研究にも貢献し、半導体量子ドット中(PRL, 2001)や半導体量子井戸中(PRL, 2007)の電子の状態密度分布を、走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて直接測定することにも成功している。
 その他既発表論文 Science誌2編、Nature Physics誌1編、Physical Review Letters誌12編、Applied Physics Letters誌26編 他。
6.受賞等
平成13年 NTT先端技術総合研究所所長表彰(業績賞)
平成16年 Japanese Journal of Applied Physics, Editorial Contribution Award
平成16年 Japanese Journal of Applied Physics, Best Paper Award
平成16年〜 Fellow of Institute of Physics (IOP, London)
平成19年 International Conference on Solid State Devices and Materials(SSDM) Best Paper Award