研究領域「センシング融合」の概要
現在の我が国は、少子化や高齢化、生活習慣病など近年の社会環境の変化に伴う問題が多発し、安全や福祉、健康の維持に大きな関心が寄せられています。孤独死や過労死あるいは過労・不注意によって引き起こされる大きな事故、不健全な生活による疾患などを未然に防ぐためには、個人の体調や行動、置かれている環境などを多角的かつ常時継続的に把握し、必要な措置を速やかに行うことが望まれます。これらのことを人手を介さず行うためには、人体装着型のセンサデバイス、およびこれから得られた各種の情報を処理して適切に判断することのできるシステムの構築が有効と考えられます。装着されるセンサデバイスは、各種大量の情報を常時継続的に収集するために長寿命である必要があり、また、通常の生活を阻害しないため十分に小型で軽量である必要があります。また、遠隔地でも肉親などの様子を知るために取得したデータの安全・確実な転送を無線センサネットワークで行う必要があります。このようなシステムの構築は既存技術の単なる組み合わせでは困難であり、センサデバイスの高密度化や低消費電力化、センサの信号から異常を的確に検知・伝達するための通信技術、データから生体の状態を把握するための情報処理技術など、数々の技術開発を経て初めて実現できるものです。
本研究領域では、発汗やその成分等の生体パラメータと周辺環境の物理パラメータを計測するセンサを集積化するとともに、このセンサデバイスと小型パワージェネレータ、無線通信デバイスを統合した人体活動管理システムの構築を目指します。
具体的には、(1)個人の周辺環境における物理的なデータから、発汗やその成分、動悸などの人体反応までを含む、さまざまな状況を検出するセンサデバイスの高密度な集合化、(2) 超小型システムにとって極めて重要である定常的なエネルギーの確保を目指した、歩行や体温等の生体の活動エネルギーを利用した小型パワージェネレータの開発、およびエネルギー消費をできる限り抑えたセンシングシステムの創成、(3)センシングデバイスから得られたデータから生体の状況を把握する手法の確立、(4)センサから得られた情報を無線センサネットワークを用いて迅速かつ安全に伝達する手法の確立、を行います。最終的にはこれらの技術開発の成果を全て統合した人体活動管理システムの試作を行い、その有用性を検証します。
本研究領域は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)プロセスを中心としてセンサ工学、電気工学、材料物性工学、機械工学、情報工学等を統合して研究を進め、人々を様々な脅威、危険から守る新しいデバイス・システムの基盤技術を創出することを目指すもので、戦略目標「安全・安心な社会を実現するための先進的統合センシング技術の創出」に資するものと期待されます。
1.氏名(現職) |
前中 一介(まえなか かずすけ)
(兵庫県立大学大学院工学研究科 教授) 48歳 |
2.略歴 |
昭和57年 3月 | 豊橋技術科学大学工学部卒業 |
昭和59年 3月 | 豊橋技術科学大学大学院情報工学専攻修了 |
昭和59年 4月 | 豊橋技術科学大学 電気・電子工学系 教務職員 |
平成 元年 4月 | 神戸市立工業高等専門学校 電子工学科 講師 |
平成 2年 3月 | 工学博士(豊橋技術科学大学) |
平成 5年 4月 | 姫路工業大学 工学部 電子工学科 助教授 |
平成16年 4月 | 兵庫県立大学 大学院工学研究科 助教授 |
平成19年 4月 | 兵庫県立大学 大学院工学研究科 教授 |
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3.研究分野 |
マイクロセンサ、センシングシステム、MEMS分野 |
4.学会活動等 |
平成 8年 4月~平成12年 3月 | 大阪府 スーパーアイイメージセンサプロジェクト プロセスグループリーダ |
平成10年 1月~平成11年12月 | 電気学会マイクロ慣性センサ協同研究委員会委員長 |
平成11年 4月~平成12年 3月 | 電気学会論文委員会Eグループ 主査 |
平成14年 4月~ 現在 | センシング技術応用研究会 MEMS技術分科会会長 |
平成14年 4月~ 現在 | センシング技術応用研究会理事、など |
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5.業績等 |
半導体センサの黎明期、いち早くセンサと周辺回路との組み合わせによる高機能センシングシステムを実現した。集積回路とモノリシック集積が可能な構造の磁気センサ、特に多次元磁気センサを提案し各種の高機能化を行った。例えば、無指向性磁気センシングシステムや磁界の方向を出力するシステム、外部にわずかな素子を付加することによって様々な磁気演算を行うことができるシステムなどをバイポーラアナログ回路技術によって実現し、その機能を実証し、マイクロセンシングシステムの方向性を提示した。
また、慣性センサ、特にジャイロスコープをシリコン微細加工技術によって実現できることを先駆的に示した。まず、シリコン片持ち梁構造によって小型ジャイロスコープが実現できるとの発想を実証し、設計指針を明らかにしてその高感度化を行った。また、各種の2軸化構造、ジンバル構造、および耐ショック性能を持つ構造など、特徴的なデバイスを各種提示実証し、これらに最適な周辺回路設計手法を示した。さらに、超高感度加速度センサとして振動型加速度センサを提案し、その検出機構としてオーバートーンPLL手法を提案し、この分野の牽引役を務めている。加速度センサに関しては、多種類のセンシング素子および周辺回路をモノリシック集積化し、環境センシングシステムとしての可能性を示した。この成果が本研究領域の基礎となっている。
その他に、多彩なMEMS関連技術に関する研究を進めており、大変位・大口径のMEMSミラー/スキャナやシリコンへの直接金属めっき、高分子材料のバネ材としての応用、シリコンと圧電材料の接合技術とその応用、添加物を与えた水酸化テトラメチルアンモニウムおよび水酸化カリウムによるシリコンエッチングの特性評価、大変位マイクロアクチュエータなど、MEMSにかかわる領域を材料からソフトウェアまで広い範囲でカバーしている。
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6.受賞等 |
平成 5年 | 電気学会論文発表賞 TMAHによるシリコン貫通エッチングとそのセンサへの応用 |
平成 8年 | 電気学会論文発表賞 シリコンマイクロジャイロにおける設計上の問題点と指針 |
平成12年 | 電気学会 優秀技術活動賞特別賞(マイクロマシン技術委員会マイクロマシニング・マルチチップサービス協同研究委員会 およびマイクロマシン機能チップ開発協同研究委員会幹事) |
平成13年 | NASDA宇宙ベンチャー大賞(加速度計・ジャイロによるマイクロセンサシステムの開発共同研究者) |
平成19年 | 電気学会電気学術振興賞著作賞(センサ・マイクロマシン工学共著者) |
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