JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第447号資料2 中内幹細胞制御プロジェクト
資料2

研究領域の概要及び研究総括の略歴

戦略的創造研究推進事業 (ERATO型研究)
平成19年度発足

中内幹細胞制御プロジェクト

中内 啓光 氏
【研究総括】中内 啓光 氏
(東京大学医科学研究所 教授)
研究領域「幹細胞制御」の概要
 現在の医療では臓器の損傷・疾患の治療には、人工臓器や臓器移植による臓器置換療法が試みられています。しかし、人工臓器では、臓器の機能を完全に代替することは難しく、また生体適合性という課題があります。一方、臓器移植にも、免疫拒絶反応や感染、移植臓器の不足といった問題の解決が求められています。このような状況下、組織や臓器を再生させる「再生医療」は、常に注目され続けてきました。特に、あらゆる種類の細胞や組織を作り出す能力を持ったES細胞(Embryonic Stem Cell;胚性幹細胞)を用いた「再生医療」には、大きな期待が寄せられています。しかし現在のところ、臓器そのものの再生は実現していません。これは、多種多様な細胞の立体的な集合体である臓器の発生過程を、試験管内で再現することが困難であるためです。
 本研究領域は、試験管ではなく動物個体を用いて臓器を再生し、移植臓器として提供するための新しい基盤技術を開拓するものです。
 具体的には、臓器発生過程のメカニズム解明と、モデル動物を使用した新しい概念に基づく臓器再生法の実証的研究を並行して実施し、得られた知見を互いにフィードバックしながら、動物の個体を用いた臓器再生システムの構築を目指します。臓器発生過程においては、幹細胞とそれを取り巻く特殊な環境(ニッチ)との関係が重要な鍵であることが考えられます。このため、臓器発生過程における幹細胞とニッチの相互作用を中心に解析を行い、臓器発生過程の理解を深めます。同時に、マウスなどの小型動物をモデル動物として用いた新たな臓器再生法の確立、および再生された臓器の機能的検証に取り組み、ウシやブタなどの大型動物モデルでの臓器再生へ繋げていきます。さらに、将来的な再生医療への応用を見据え、ブタの体内でサルの臓器を再生するといった、種を超えた動物間での臓器再生や、再生した臓器の移植を試みるなど、再生医療のための基盤技術の確立に向けて研究を展開します。
 本研究領域は、臓器形成の基本原理解明と、臓器創成のための基盤技術開発を積極的に行うことにより、幹細胞からの臓器創成を再生医療に応用する際の技術的な困難を克服するものであり、戦略目標「生命システムの動作原理の解明と活用のための基盤技術の創出」に資するものと期待されます。

研究総括 中内 啓光 氏の略歴等
1.氏名(現職)
中内 啓光 (なかうち ひろみつ)
(東京大学医科学研究所 教授) 55歳
2.略歴
昭和51年 8月〜昭和52年 8月  ハーバード大学医学部(サンケイスカラシップ海外奨学生)
昭和53年 3月横浜市立大学医学部卒業
昭和53年 5月〜昭和54年 3月  横浜市立大学病院研修医
昭和58年 3月東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(医学博士)
昭和58年 4月 〜昭和60年12月スタンフォード大学医学部遺伝学教室 博士研究員(免疫遺伝学および分子生物学)
昭和59年 9月順天堂大学部免疫学 助手
昭和62年 4月順天堂大学部免疫学 講師
昭和62年10月独立行政法人理化学研究所 フロンティア研究システム 研究員
平成 4年 4月独立行政法人理化学研究所 造血制御研究チーム チームリーダー
平成 5年12月筑波大学基礎医学系 教授(免疫学)
  この間
平成 6年10月〜平成12年 3月  筑波大学先端学際領域センター教授(併任)
平成14年 4月〜現在  東京大学 医科学研究所 ヒト疾患モデル研究センター 教授(高次機能研究分野)
  この間
平成14年 4月〜現在  文部科学省「再生医療の実現化プロジェクト」
       研究用幹細胞バンク整備領域リーダー(併任)
3.研究分野
幹細胞生物学、血液学、免疫学
4.学会活動等
平成 6年〜現在 日本サイトメトリー学会理事
平成17年〜現在 国際幹細胞生物学会理事
平成19年〜現在 日本再生医療学会理事長
平成18年〜現在 Editorial Board, the Journal of Experimental Medicine
平成19年〜現在 Editorial Board, Stem Cells and Development
平成17年〜現在 欧州遺伝子治療コンソーシアム(CONSERT)アドバイザリー・ボード
平成18年〜現在 理化学研究所免疫アレルギー科学総合研究センター アドバイザリー・ボード
5.業績等
 スタンフォード大学に留学中、トランスフェクションとFACSを利用した発現クローニングシステムの開発に携わり、T細胞の認識分子であるCD8α鎖遺伝子(PNAS, 1985, 1986)ならびにCD8β鎖遺伝子(PNAS, 1987 ; Science, 1994)のクローニングと機能解析を行った。帰国してからは血液細胞の分化に関する研究を開始し、血液幹細胞の単細胞培養法を確立してヒト末梢血中にCD34陽性造血幹細胞が存在することを証明し(Blood, 1990)、現在広く行われている末梢血幹細胞移植に理論的な根拠を与えた。またプログラム細胞死を阻止できない欠損型のエリスロポエチンレセプター遺伝子を同定し、定常的にアポトーシスを引き起こすことによって赤血球数が負の方向にも制御されていることを明らかにした(Science, 1992)。さらにFACSを用いてマウス骨髄中の造血幹細胞を純化する方法を確立し、一個の純化した造血幹細胞による骨髄移植を成功させ、造血幹細胞の多能性と自己複製能を究極の形で証明した(Science, 1996)。同様にマウス胎仔肝臓中の肝幹細胞の分離(Hepatology, 2000)および同定にも成功している(J. Cell Biol., 2002)。その他、幹細胞の分離法の一つであるSide Population分画法(幹細胞がDNAに結合する色素に染まらない性質を利用した分画法)の責任分子の同定(Nature Medicine, 2001)、造血幹細胞の自己複製に関与する分子としてBmi-1(Immunity, 2004)ならびにLnk(PNAS, 2007)の同定、造血幹細胞の能力の多様性(Dev. Cell, 2005)、骨随ニッチにおける造血幹細胞の冬眠(EMBO J., 2006)など、造血幹細胞をモデルとして幹細胞システムの機構解明に貢献してきた。
6.受賞等
平成 元年横浜医学会賞 「免疫系認識分子の分子生物学的解析」
平成16年ベルツ賞 「造血幹細胞の分化と自己複製の機構」